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Photographed by Kenta Shibayama

伝統と革新が交わる場所、東京都台東区。春の日差しを反射して、キラキラと光る隅田川沿いに広がる住宅街の一角に、今回ご紹介するケントさん・エリナさん夫妻のお住まいはありました。

お名前(職業):ケントさん(会社員・デザイナー)、エリナさん(自由業・デザイン関係)
場所:東京都台東区
面積:45㎡(1LDK)
家賃:10万円台
築年数:15〜16年
間取り図(リビングのみ):
間取り図

編集部作成


ダイニングテーブル

窓際

お部屋に入ってまず目に飛び込んできたのが、開放感のある大きな窓一面に広がる隅田川の姿

あたたかくて居心地の良さに溢れた素敵なお部屋について、まずはその出会いから伺ってみました。

この部屋に決めた理由

運命の出会いを感じた120点のお部屋

ケントさん

「この部屋に決めた理由は、やっぱりこの窓から見える景色ですね」と語るケントさん・エリナさん。その出会いには運命的なものがあったのだと言います。

「最初は全然違う部屋に決めようとしていたんですよ。3ヶ月くらいかけて10件以上内見をしていて、その中で見つけた自分たちの希望に合う80点くらいのお部屋で、どんなふうにやっていこうかっていう相談をしていたんです」(エリナさん)

植物などのディスプレイスペース

その部屋の契約確認をしに行くっていうタイミングでたまたまここを見つけて。

ダメもとで不動産屋さんに聞いてみたら『ちょうど今案内が出たばかりで内見もできる』というので、その足でそのまま内見に行きました。それで部屋に入ってみたらこの景色が広がっていたので、もう120点だなということでそのまま借りることにしたんです」(ケントさん)

「自分たちに合っている場所」を見つける

ケントさんが椅子に座ってくつろぐ

学生時代には京都に住んでいたというおふたり。その当時の「自然の近くで暮らしていた経験」から、今回のお部屋選びは始まっていたのだそう。

京都って都会の利便性がありながら、鴨川とか山とか自然をたくさん感じることができるんです。やっぱりそういうところで育ってきたこともあって、近くに川がある生活が自分たちには合っているよねという話になって、ふたりで相談してこの部屋に決めました」(ケントさん)

エリナさん

「部屋の間取りは、以前住んでいたのが都内にある大きなワンルームのようなお部屋で、それが私たちにしっくりきていたので、そういう間取りがいいなと思って部屋探しをしていました。

この部屋は1LDKなんですけど、扉を開けておけば大きな空間として使えるので、そこも決め手のひとつになっていますね」(エリナさん)

エリアや間取りなど悩むことの多いお部屋探し。これまでの暮らしで心地いいと感じていたポイントを言語化しておくことが、自分に合った場所を見つける近道になるんですね。

お気に入りの場所

一目惚れした絵画を飾るベッドサイド

ベッドスペース

運命的な出会いで見つけた120点のお部屋。そんなお部屋の中でも、特にお気に入りの場所はありますか? と伺うと、エリナさんが真っ先に案内してくださったのが、静かで美しい絵画の飾られた美術館のようなベッドサイドでした。

平野泰子さんの絵

「これは、平野泰子さんという画家の方の絵で、この場所に飾るとちょうど窓から柔らかい光が当たって本当に綺麗なんです。

その日はもともと家具を購入しに出かけていたんですけど、この絵が一番良かったねっていう話になって。毎日見るたびに幸せな気持ちになれる場所ですね」(エリナさん)

リラックスしながら集中できる作業スペース

デスクスペース

リモートワークで在宅作業をすることもあるというケントさんのお気に入りの場所は、こちらの窓際に面した作業スペース。大切に育てている観葉植物やアクアリウム越しに、隅田川を見渡せる特等席となっていました。

「作業をしていて疲れたなっていうときに横を見ると、植物とか川とか自然のモノが目に入ってくるので、いいリフレッシュになるんです。

ケントさんがエバーフレッシュに手を伸ばす

あとはこのエバーフレッシュを近くで感じられるのも気に入っていますね。

3〜4年前に購入をして、今ではうちのシンボルツリーになっているんですけど、この場所に座るとちょうど大きな木の下にいるような気分になれるので、適度にリラックスしながら集中して作業を進められる気がしています」(ケントさん)

エバーフレッシュ

植物好きなら誰もが憧れる、シンボルツリーの存在。ですが、これだけ大きな植物となるとお世話が大変なのでは……という心配もあります。上手に育てるコツなどはあるのでしょうか?

「まず第一に日当たりが良い部屋というのはあると思うんですが、それよりも大切なのは風通しを良くすることですね。

このエバーフレッシュも冬には枯れかけていたんですけど、ちょっと場所を変えてサーキュレーターで風を送ってあげるとすぐに元気になりました。同じ理由で、夏なんかには葉が繁ってくるので、定期的に剪定をしてあげることも大切ですね」(ケントさん)

お気に入りのアイテム

一生ものとして集めているヴィンテージの名作家具

ハンス J. ウェグナーがデザインした椅子のヴィンテージ

デザイン関係のお仕事をされているおふたり。デザインと機能性に優れたヴィンテージの名作家具たちは、一生モノと決めて大切に選びながら集めていらっしゃるのだそう。

「これはデンマーク家具の巨匠、ハンス J. ウェグナーがデザインした椅子のヴィンテージですね。とても有名な一脚なので、最初は持っている人も多いしうちにはいいかな……と思っていたんですけど、実際にお店に行って座り比べてみたらこれが一番機能性が良くて

座面

全体の形が身体に沿っているし、座面がペーパーコードという素材で出来ているんですけど、それのおかげで長時間座っていても疲れない

自分で使ってみると多くの人に愛されている理由が実感できるので、ひとつ勉強という意味でも集めているところがありますね」(ケントさん)

カイ・クリスチャンセン ヴィンテージドレッサーの前に座るエリナさん

家具の脚

エリナさんのお気に入りは、こちらのヴィンテージのドレッサー。カイ・クリスチャンセンという、デンマークを代表するデザイナーが作り上げた逸品です。

「私はこの方がデザインした家具の脚が好きなんです。ドレッサーって毎日使うから綺麗なものだといいなと思って、ヴィンテージで納得できる状態のものが見つかるまで時間をかけて探しました」(エリナさん)

カタチを変えて使い続けられる収納

収納棚

一生モノの名作家具がある中で紹介してくれたのが、お気に入りの器たちをディスプレイしている収納棚

じつはこちら、無印良品の収納アイテムに木板を乗せたものなのだそうです。

収納棚

「これは以前住んでいた部屋のときに購入したんですけど、標準のキャスターだと備え付けキッチンの下に入らなくて、自分で低いキャスターに付け替えたりしたんですよ。

それでこの部屋に住むことが決まってから間取り図を見ていたら、ちょうどダイニングの壁面の幅に合うぞっていうことを発見。ぴったりなサイズの木板もあったので、それを乗せて今ではディスプレイの棚として活躍してくれています」(ケントさん)

暮らしのアイデア

いま持っているものを大切にして、暮らしに応じて柔軟に組み合わせる

窓際の収納

先ほどの収納棚をはじめとして、「あるものを使って・限られたものの中で、なんとかしよう」という考え方は、おふたりの暮らしの中で大切にしていることのひとつになっていました。

「この部屋に落ち着くまで、年に1回のペースで引越しをしていたので大きな家具とかも買えなくて……。なので引越しが簡単で、どんな間取りの部屋でも柔軟に使えるように、基本的には木板とコンクリートを組み合わせて、手持ちの材料で必要なものを作るというのが習慣になっていますね。

木板とコンクリートブロックを組み合わせた状態

この本棚も、以前の部屋で使っていた木板とコンクリートブロックを組み合わせて作ったものです。

本って大きいサイズでも大体高さ30cmくらいで、コンクリートブロックを2個重ねるとちょうど良い大きさになるんですよ。

ケントさんが指を添える

ただ、図録とかだと30cmを少し越えるものもあるので、そういうものは本棚の上段にまとめて、上段のコンクリートと木板の間に小さいゴム片をかませて高さを調整したりしています」(ケントさん)

ダイニングテーブル

ダイニングテーブル 天板の裏

「あるもので作ったでいうとコレもだよね」とエリナさんが教えてくださったのがこちらのダイニングテーブル

「このテーブルも実は購入したものではなくて、私の実家にあった家具の塗装を剥がして天板として再利用したものなんです」(エリナさん)

椅子

「友人の家に遊びに行くと、大きなソファーとかがあって良いなと思うんですけど、ただそういう大きな家具を揃えると引っ越しのときに間取りの制限が出てきてしまう

なので、大きな家具や収納はできるだけ自分たちで工夫をして、その代わりに椅子やドレッサーといったサイズ感で一生モノのアイテムを揃えることにしています」(ケントさん)

使えるものを大切に使い続けるという、いま改めて見直されている暮らしを、既に実現されているおふたり。

お話を伺う中で、こうした素敵な暮らしを実現できるのは、その前提となる対話を欠かさないおふたりの関係性があってこそなのだろうなということを感じました。

残念なところ

埋め込み式のシーリングライト

埋め込み式のシーリングライト

もしあれば……と念のために伺った、このお部屋の残念に感じているポイント。「あっ! 1個だけありました!」と思い出したように教えてくださったのがライトが埋め込み式で、手持ちのペンダントライトを付けられなかったということ。

集めていたお気に入りのライトたちは残念ながらこのお部屋では出番がなく、現在は押入れにしまわれているのだそう。

「入居当初は本当にショックで、現場復帰可能な方法でDIYしてみようかなとも考えていたんですが、結局部屋がゴチャゴチャしてしまうだろうということで諦めました。

考えてみないと思い出せないくらいに今はこの状態に慣れていますが、次に引っ越すことがあればまた活躍させたいですね」(ケントさん・エリナさん)

これからの暮らし

ふたりで選んだアイテムを大切に使い続ける

お話を伺うほどに素敵な関係・暮らしを築かれているなあと感動しきりの取材陣。名残惜しさを感じつつも、最後に「これからの暮らし」について教えていただきました。

お気に入りの調理器具を紹介してくださるおふたり

お気に入りの調理器具を紹介してくださるおふたり

「この部屋での暮らしを始めるときに、ふたりでコンセプトのようなものを決めたんです。そのときに『心地よくモノが収まる空間にしたいよね』という話になって。

もちろん値段が安くても機能的なものがあればどんどん取り入れていきたいんですけど、基本的にはロングライフデザインのものを選んで、使うだけじゃなくて見ているだけでも楽しい・心地いい空間を作っていけたらなと考えています」(ケントさん)

窓際

「そうですね。なので、このデザイナーさんやブランドで固めるという感じではなく、自分たちで納得しながら選んだものをひとつずつ増やしていけたらいいですね

デザイナーの名作家具って、自分たちで使って終わりというものでもないので、そうやって大切に選んでいったものをいつか別の必要としている誰かに引き継いでいけたらと考えています」(エリナさん)

おふたりが次はどんなアイテムをお迎えするのか、そしてどんな暮らしをされていくのか、またお話を伺える日を楽しみにしています。



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