最近、甘口の日本酒の人気が高まっているようです。特に甘酸っぱいタイプがトレンドで、おいしい銘柄がたくさん登場しているんだとか。
そう言われると飲んでみたくなりますよね? できれば、デザートのように甘いタイプに限らず、甘すぎずに飲みやすいものも知りたい……そこで今回も日本酒のプロ・木村咲貴さんに相談してみました。
「甘すぎずに飲みやすい甘口の日本酒や、いま注目のおいしい銘柄を教えてください!」
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木村 咲貴さん
SAKEジャーナリスト。早稲田大学文化構想学部文芸ジャーナリズム論系卒。編集者・ライターとして食や日本酒をテーマとした雑誌・書籍制作に従事したのち、渡米。カリフォルニア大学ロサンゼルス校にてジャーナリズム・サーティフィケイト取得後、「SAKEジャーナリスト」として日本と海外を日本酒(SAKE)の情報でつなぐ活動に努める。WSET Level 3 Award in Sake資格保持者。
twitter:@sakechi
【解説編】そもそも、甘口ってなぜ甘い?辛口との違いは?
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ーーまず最初にお聞きしておきたいんですが、日本酒の「甘口」に定義はあるんですか?
日本酒に含まれる糖の量が多いものが甘口です。あとは、熟成によってカラメル感や蜂蜜っぽさが出るケースもあります。
ただ、辛口・甘口というのは、造り手にとっては明確な基準があるんですが、酒屋さんや居酒屋さん、そして飲む人が言うぶんにはもっと主観的なものだと思います。
ーーなるほど、主観が影響する部分が大きいんですね。甘口って単純に甘いだけじゃなくって、「飲みやすいもの」を指してる場合もある気がします。
『辛口ではないもの』くらいの意味で甘口と言っているケースもあるのではないでしょうか。辛口が日本酒のスタンダードという時代があったので、辛口を基準として考える人が多いのだと思います。
ーーそうなると、甘口と辛口の違いはどう線引きしたらいいんでしょうか…?
先ほども言ったように、甘口も辛口も主観的な感覚なので、明確に線引できるものではないんですが、ざっくりとイメージをつかむ、くらいのことはできるかもしれません。
甘口も辛口も幅のある表現なんです。例えば辛口なら、“アルコール辛い”、“昔ながらの日本酒らしい味わい”、“すっきり淡麗”などを示すことが多いと思います。
その反対の意味を甘口とすると、“アルコール感が少ない”、“飲みやすい”、“糖の甘みがしっかり感じられる”くらいの意味合いになるかなと思います。
【解説編】甘口の日本酒は、3つのタイプに分けられる
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ーー甘口と一言に言っても、タイプにはけっこう幅があるんですね。好みのものを見つけるため、 選ぶときの目安になる分類はありますか?
味わいで考えると、大きく次の3つに分けられます。
①甘酸っぱいもの
②シロップ系
③クラシックな甘口
1つ目は、甘酸っぱいもの。フルーツやヨーグルトのように、酸味があってジューシーなタイプです。
2つ目は、シロップ系。カラメルやメープルシロップのような甘みがあって、熟成酒や貴醸酒というカテゴリに多いです。
3つ目は、クラシックな甘口。甘みはあるけれど、日本酒らしい味わいのお酒です。
また、低アルコールやにごり酒は甘口が多いので、この2つのカテゴリも押さえておくといいですよ。
【おすすめ商品】甘口の日本酒・プロが推す13選
次に、甘口のおすすめ日本酒をご紹介します。木村さんに教えてもらった①甘酸っぱいもの/②シロップ系/③クラシックな甘口の3分類に加え、低アルコールとにごり酒。さらにスーパーなどでも買える安い商品も含めた、6カテゴリでピックアップしました。
【甘酸っぱい】甘口の日本酒おすすめ3銘柄
玉旭 ECHOES(玉旭酒造/富山)
白ぶどうジュースや甘口の白ワインのような味わいで、日本酒のアルコール感が苦手な人におすすめしたい一本。アイスクリームや、チーズを使ったスイーツと相性ぴったりです。
ブラックスワン(白杉酒造/京都)
フルーツのようにジューシーで、蜜のように濃密なお酒。酒米ではなく、酒造りをするのが難しいとされている食用米だけでお酒を造るユニークな酒蔵で、甘酸っぱい味わいのお酒がたくさんあります。
山形正宗 まろら(水戸部酒造/山形)
リンゴのような爽やかな香りに、乳製品のようなやわらかい酸味と甘味が心地よく、すいすい飲んでしまいます。温めて飲んでも美味しいですよ!。
【シロップ系】甘口の日本酒おすすめ3銘柄
満寿泉 貴醸酒(桝田酒造店/富山)
蜂蜜のような甘味と、ほんのりほろ苦さがあります。濃密ながらも透明感のある、とてもきれいなお酒。食後酒として、チーズやフルーツ、デザートと合わせてみてください。
達磨正宗(白木恒助商店/岐阜)
カラメルやチョコレートのような甘味と、ほろ苦さやスパイシー感のバランスが絶妙。熟成酒ですが、小瓶でも買えるハードルの低さがうれしいブランド。熟成年数によって、だんだん濃く複雑になっていく味わいの違いも楽しいです。
【クラシック甘口】の日本酒おすすめ2銘柄
にいだしぜんしゅ(仁井田本家/福島)
まさに“お米の甘味”という優しい味わいのシリーズで、軽やかなタイプからコク深いものまで幅広く美味しいです。すべて自然栽培米で造っている酒蔵さんで、お米への強いこだわりを感じます。
シン・ツチダ(土田酒造/群馬)
濃厚でこっくりとした甘味に、飲むほどハマる複雑な旨味。『純米吟醸』や『純米大吟醸』というカテゴリのお酒は、お米を半分くらい削っているんですが、これはお米をほとんど磨かず、食用米と同じ90%という精米歩合で造っています。温めるとさらにまろやかになりますよ。
【低アルコール】甘口の日本酒おすすめ2銘柄
HINEMOS(RiceWine/神奈川)
ジュースのように飲みやすく、日本酒が苦手な人に試してもらうと『本当に日本酒?』と驚かれるブランド。アルコール度数5%からあり、『時間によって飲むお酒を選ぶ』というコンセプトもユニークです。
ひめぜん(一ノ蔵/宮城)
甘酸っぱく、アルコール度数が8%と低いので、果実酒を飲んでいるような気分になります。甘い日本酒がまだまだ少なかった1980年代からあるロングセラー商品です。
【にごり】甘口の日本酒おすすめ銘柄
讃岐くらうでぃ(川鶴酒造/香川)
飲むヨーグルトやカルピスのようにさわやかな味わい。にごり酒ですが、アルコール度数6%ということもあって、まったく重たさがありません。
【コラム】甘くてバラエティ豊かな「どぶろく」が流行中!
木村さんによると、最近はにごり酒よりもより強い甘味や酸味を楽しめる「どぶろく」が流行しているのだそう。
「にごり酒とどぶろくの違いは、濾しているか、濾していないか。濾過して濁り具合を調整したものがにごり酒で、アルコール発酵したお米を濾さずにそのまま瓶詰めするのがどぶろくです。
どぶろくは、日本酒の免許を持っていなくても造れるので、『クラフトサケ』という新しいカテゴリーとして造る若い造り手が増えています。ホップが入ったものや、フルーツ、スパイスなどと合わせたものもあっておもしろいですよ!」
▼木村さん注目のクラフトサケどぶろく
稲とアガベ
【安い・スーパーで買える】甘口の日本酒のおすすめ3銘柄
セセシオン(菊正宗/兵庫)
ベリー系の果実やプラムに似た甘酸っぱさがあります。この価格でこんなトレンド系の味わいが造れるのは菊正宗ならでは。和洋中どんなジャンルにも合わせられる懐の広さです。
菊水ふなぐち(菊水酒造/新潟)
ぎゅっと濃縮された蜜のような甘味や、ほんのりホワイトチョコレートっぽいニュアンスのあるお酒。アルコール度数が19度あるのですが、日本酒辛さがあるかと思ったら大間違い。むしろ、ぐいぐい飲めてしまうので要注意です。
すず音(一ノ蔵/宮城)
フルーティですっきり甘い、アルコール度数5%のスパークリング。ベリー系の『花めくすず音』、フローラルな『幸せの黄色いすず音』など、バラエティ豊かなラインナップがあります。
【Q&A】甘口・辛口の見分け方など
木村さんに、甘口の日本酒の見分け方や、飲みやすい日本酒の選び方に関する疑問に答えてもらいました。
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Q. 日本酒を買うときに、甘口・辛口の見分け方はありますか?
アルコール度数が低いものやにごり酒は、甘口であることが多いです。また、『貴醸酒』(水の代わりに日本酒で仕込んだ日本酒)と書かれているものは、製法上の理由から、甘口になります。
最近は、ラベルがかわいらしいものにも甘口は多いです。
Q. 日本酒感が強いもの、飲みにくいものを避けて選ぶ方法はありますか?
低アルコールの日本酒をおすすめします。日本酒の平均的なアルコール度数は15~16度と、カクテルやサワーに比べて高めなんですが、10%前後、またはそれよりも低いものはアルコール感が少なく、甘くて飲みやすいです。
Q. フルーティな日本酒は甘い印象あり。フルーティと甘口は同じもの?
フルーティとは、鼻で感じる香りのことで、甘口は、舌で感じる味のこと。甘い香りがすると、味も甘いように感じることがありますが、フルーティ=甘口ということではありません。実際は、フルーティなお酒にも、味はそこまで甘くないものは多いです。
Q. 日本酒が甘すぎると感じたり、飲みにくいときはどうしたらいい?
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甘みの強いものは、氷を入れてロックにしたり、ソーダを少し加えたりして飲むのもアリ。蜂蜜やカラメル感があるタイプなら、バニラアイスにかけて、デザートとして楽しむのもいいと思います。
あとは、料理と合わせると美味しくなることも。お肉料理や味の濃い洋食などと合わせてみてください。
Q. 甘口の日本酒はトレンドなの? そのわけは?
はい、最近は甘味や酸味の強い日本酒が増えてきています。理由のひとつは、日本の食生活が多様化して、和食に合うような淡麗辛口タイプだけでなく、洋食にも合う甘酸っぱいお酒のニーズが増えているから。
もうひとつは、甘口の日本酒に対する悪いイメージが薄れてきているから。かつて、甘味料などを加えた日本酒に対して、『甘くてベタベタしている』と苦手意識を持つ人が少なくありませんでした。ところが、2006年にお酒の添加物に関する法律が変わって、昔のようなベタベタの甘い日本酒はほとんど造られなくなりました。
こうした流れもあって、最近は甘い日本酒=美味しくないと考える人が減ってきて、酒造メーカーさんも積極的にいろいろな味わいにチャレンジできているのだと思います。
Top Image:GettyImages、編集:佐々木智恵美
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