日本酒が好き。特に、フルーティな日本酒が好きかも?と思っている編集部Sです。
フルーティな日本酒って、軽やかで飲みやすい印象があって、POPや商品解説に「フルーティ」と書いてある商品を選びがちです。でも、スルスル飲めることもあれば、甘すぎたりアルコール感が強く感じて飲み進められないことも。
あらためて考えると、そもそもフルーティって何? 美味しい銘柄はもちろん、自分にぴったりの銘柄を選ぶポイントも知りたい。
そこで、以前日本酒について教えてもらったSAKEジャーナリストの木村咲貴さんに、今回も聞いてみました。
「木村さん、そもそも日本酒の”フルーティ”ってなんですか?」
木村 咲貴さん
SAKEジャーナリスト。早稲田大学文化構想学部文芸ジャーナリズム論系卒。編集者・ライターとして食や日本酒をテーマとした雑誌・書籍制作に従事したのち、渡米。カリフォルニア大学ロサンゼルス校にてジャーナリズム・サーティフィケイト取得後、「SAKEジャーナリスト」として日本と海外を日本酒(SAKE)の情報でつなぐ活動に努める。WSET Level 3 Award in Sake資格保持者。
twitter:@sakechi
▼解説編
フルーティは「味」ではなく「香り」のこと
フルーティさを生み出すのは「酵母」
フルーティな日本酒を味で分けると3タイプ
初心者にも飲みやすい「低アル」商品も多い
▼選び方編
「純米吟醸」「純米大吟醸」を選ぶとフルーティな確率が高い
ラベルがかわいいとフルーティな場合が多い
新しいフルーティ。「クラフトサケ」も選択肢に
▼おすすめ編
フルーティな日本酒銘柄11選
-バランス
-甘口
-スッキリ
-ジューシー
▼Q&A
飲み方・料理など
【解説編】フルーティは「味」ではなく「香り」のこと
ーー日本酒の”フルーティ”とは、そもそもどんな意味ですか?
フルーティとは文字通り“果実のような”という意味。舌で感じる味よりも、鼻で感じる香りによるところが大きいです。
ーーメロンのような香りっていうのは感じたことがあるんですが、果実ということはメロン以外にも種類がある……?
メロン、バナナ、りんごはよく言われますね。そのほか、桃、パイナップル、マスカットなどいろいろなフルーツがあります。『まさにメロン!』みたいな強い香りから、『言われてみればメロンかも?』と、ほのかに香るものまで幅広いです。
フルーティさを生み出すのは「酵母」
ーーそのフルーティーさって、どこから生じるものですか? 米って全然フルーティじゃないですよね?
日本酒の原料はお米だけじゃないんです。米・米麹・酵母・水から造られるのですが、香りを語るうえでポイントになるのが『酵母』です。
酵母はお米をアルコール発酵させてお酒に変えるために必要な原料ですが、アルコールだけでなく香り成分も作り出します。
この酵母の種類によって、果実のような香りが生み出されることがあるんです。生み出される香り成分(吟醸香)は主にバナナ系とりんご系の2つですが、香り成分のバランスによっていろんなフルーツの香りに感じられるんです。
一般的に、『吟醸』がつく精米歩合60%以下まで磨いた日本酒にはフルーティなものが多いですね。
ーーなぜ磨くとフルーティな香りが出やすくなるんでしょうか?
フルーティなお酒を作るには、『吟醸づくり』という方法を使うんですが、これがお米をよく磨いて、低温で発酵させるというやり方。磨くことで、フルーティな香りの邪魔になる糠などの香りを抑えたり、米に含まれる脂質を除くことで香りを合成しやすくするといった効果があります。
フルーティな日本酒を味で分けると3タイプ
ーー日本酒の「フルーティさ」にいろいろな種類があることはわかったのですが、結局自分はどんなタイプが好きなのかがよくわからないです……自分の好みのタイプはどうやって見つけたらいいですか?
先ほどお話したように、フルーティというのは香りのこと。日本酒に対する好みは”香り”だけでなく”味わい”に左右される部分が大きいので、味に注目して考えると好みのタイプが見つけやすくなるはずです。舌が感じる“味わい”がどんなものなのかを考えてみるといいでしょう。
フルーティな日本酒は大きく分けて、①甘い②スッキリ③ジューシの3タイプに分けられます。
①甘いタイプは、お酒自体の味わいを甘く造っているもの。ボリューム感があるものも多いです。②スッキリは、香りはフルーツのようだけれど舌に甘みが残らないもの。③ジューシーは、酸味があって甘酸っぱいと感じるものです。
ーーなるほど。日本酒の種類によっては「甘すぎる」と感じることも多いので、香りはフルーティだけど甘くないスッキリタイプが私の好みなのかもしれません。
この①甘いというのは、日本酒でよく聞く「甘口」と同じですか? ②のスッキリが「辛口」ということ……?
そもそも甘口/辛口という言葉は、たとえ酒屋や飲食店で働くプロでも人によって使う意味が違うことが多いので、扱うのが難しい言葉なんです。
なので、甘口/辛口とつなげて考えるのではなく、『糖分が多いかどうか』に注目した方が味わいの特徴は理解しやすいかなと思います。
フルーティなお酒は香りのせいで『甘い』と感じやすいですが、味まで甘口であるとは限りません。フルーティで甘みもしっかりした日本酒もあれば、フルーティだけど舌に甘みが残らずスッキリしたタイプもあります。
初心者にも飲みやすい『低アル』商品も多い
ーーわかってきました。私が好きなのは糖分が少ないタイプ、②スッキリか③ジューシーが近いと思います。他にフルーティな日本酒について覚えておくといいことはありますか?
味ではないですが、フルーティなお酒には低アルコール商品が結構あります。日本酒の平均アルコール度数は15〜16%なんですが、フルーティかつ低アルにすることで、日本酒を飲み慣れていない人にも飲みやすいように仕上げられているので、お酒があまり強くない人や、ビギナーの方は試してみるといいかもしれません。
【選び方編】「純米吟醸」「純米大吟醸」を選ぶとフルーティな確率が高い
ーー次は具体的な選び方を教えていただきたいんですが、そもそも、試飲せずに「フルーティかどうか」を見分ける方法ってあるんですか?
『純米吟醸』や『純米大吟醸』と書かれている商品は、フルーティである可能性が高いです。先ほど、フルーティな香りを生み出すにはお米をよく磨き低温で発酵させると話しましたが、『純米吟醸』『純米大吟醸』はこの作り方で醸されています。
『純米』がついていない『吟醸』や『大吟醸』の商品もフルーティといえばそうなんですが、個人的にはシャープな味わいのものが多いと感じています。
ジャケ買いもできる!? ラベルがかわいいとフルーティな場合が多い
ーー「純米吟醸」や「純米大吟醸」以外に見分け方のヒントはありますか?
ジャケ買いするのもおすすめですよ。『ほんとに?』と思われるかもしれませんが、ラベルがかわいい日本酒は実際にフルーティなものが多いです。
昔は、日本酒はラベルにまでお金をかけている酒蔵さんが少なく、ラベルの印象と味わいが直結していませんでした。でも最近は、ジャケットの大切さに気づいて、味わいのイメージに合わせたデザインにしている酒蔵が多いんです。
ラベルを見ただけでわからなかったら、お店の人に『フルーティなお酒はありますか?』と聞いてみるといいでしょう。
新しいフルーティ。「クラフトサケ」も選択肢に
ーーほかに、”フルーティ”という観点で、木村さんが注目してる銘柄や商品はありますか?
最近、『クラフトサケ』という新しいジャンルが出てきています。お米を原料に、日本酒の造り方をベースとしながら、日本酒では法的にできないことをやるジャンルです。
その中でも、フルーティといえば福岡県のLIBROM。20代の二人による酒蔵で、発酵中のもろみにフルーツやハーブを入れて一緒に発酵させるという造り方をしているんですが、これがすごく美味しいんですよ。
日本酒のフルーティさに、フルーツやハーブがブーストをかけるというか、味や香りのレイヤーを増やしてくれるというか……ともかく普通のリキュールとは違った魅力を楽しめます!
【おすすめ編】フルーティな日本酒銘柄11選
次に、フルーティな日本酒のおすすめをご紹介します。
【解説編】で木村さんに教えてもらった①甘い/②スッキリ/③ジューシーのカテゴリに加えて、味のバランスに優れて飲みやすい2銘柄もセレクト。
1つの銘柄内でも、純米吟醸・純米大吟醸といった精米度合違いや、原料米の違いによって複数の商品展開がある場合が多いのですが、味わいの傾向は同じなので、入手しやすいものや気になったものを試してみてください。
【バランス】ほどよいフルーティさでスルスル飲める
和歌山県/平和酒造「紀土」
フルーツのような香り、やわらかい口あたり、スルスルとした飲み心地と、バランスがいい銘柄。華やかさがありながらも料理の味を邪魔せず、食中酒としても優秀です。
【編集部コメント】写真の「純米大吟醸」は飲み疲れせず、食事にも味わいやすいので、記事中の日本酒の中でも最も手が伸びた1本。あっという間に空いてしまいました。
【バランス】原料米の品種によってフルーティさが変わる
新潟県/高千代酒造「59 Takachiyo」

フルーツのような香りと丸みのある味わいで、淡麗辛口の多かった新潟酒のイメージを変えるブランド。『59 Takachiyo』シリーズはお米の品種ごとに商品が出ているのですが、それぞれ異なるフルーツのニュアンスが楽しめます。
【バランス】パック酒のイメージが変わるフルーティさ
兵庫県/菊正宗酒造「ギンパック」

パック酒の概念を変えるすごいお酒。独自に開発した特別な酵母によって、お米をそこまで磨かずに、りんごのようにフルーティな香りを引き出しています。
【編集部コメント】紙パックからこのお酒が出てくるか!という驚きのフルーティさ。普段の食事にも合わせやすいので、日頃日本酒を買わない人でも気軽に試しやすそうです。
【甘い】甘酸っぱさにハマる。ラベルもかわいい
千葉県/飯沼本家「甲子林檎」
リンゴ酸をたくさん出す酵母を使っているんですが、『本当に日本酒?』と疑ってしまうほど甘酸っぱくて飲みやすいお酒です。日本酒を飲み慣れていない人にもぜひ試してほしいですね。
【編集部コメント】ラベルの印象通りのキュートな甘酸っぱさ。フルーティ好きへのプレゼントにもいいかもしれません。
【甘い】香り成分が本物のフルーツとほぼ同じ!?
京都府/月桂冠「果月」

フルーティというより、まさにフルーツを目指したような銘柄。自社に研究機関を持ち、高い技術を開発してきた月桂冠が、果実らしさを追究したブランドで、香り成分などが本物のフルーツとほとんど同じという驚異の商品です。
【編集部コメント】桃はフルーツの雰囲気に加えてキャラメルのような香ばしいこっくりとした味わいも感じました。桃・メロン・ぶどうの3種類を並べて飲み比べてみても。
【甘い】大手が生み出す甘酸っぱい系の1本
兵庫県/菊正宗酒造「セセシオン」

プラムやぶどうのような甘酸っぱさで、食前酒や洋食にぴったりの一本。菊正宗のような歴史と技術力あるメーカーが、流行りの甘酸っぱい系を作るとこうなるのか……! と衝撃でした。
【スッキリ(エレガント)】洗練された美しい味わいと透明感
三重県/清水清三郎商店「作」
美しいフルーツの香りと、抜群の透明感。品質を守る観点から、流行の生酒は作らないと決めているんですが、まるで生酒みたいにフレッシュな味わいです。
【編集部コメント】エレガントってこういうことか……と実感する繊細な味わい。日常的な料理にも合わせやすく、食卓に取り入れやすかったです。
【スッキリ(エレガント)】フルーティさと繊細なバランスを味わいたい
山口県/長州酒造「天美」
上品なフルーティさがあり、甘みや酸味などすべての味わいの要素が繊細なバランスで共存しています。お米の違いを引き出すのも上手で、どれを選んでもハズレがありません。
【編集部コメント】前述の「作」と同様にエレガントですが、より華やかな印象。味わいのバランスがよく後味すっきりで飲みやすいので、気づいたら空に……。
【ジューシー】ピチピチとしたフレッシュ感と爽やかさ
奈良県/油長酒造「風の森」
ほんのりガス感があるフレッシュなお酒で、マスカットや洋梨など上品なフルーツの香りがあります。適度な酸味によるジューシーさがあり、後味はさわやか。飲み心地がよくビギナーの方にもおすすめしやすい銘柄です。
【編集部コメント】ラインナップはすべて無濾過生原酒。日本酒好きに特に支持されている印象があります。開栓直後はピチピチしていますが2〜3日すると落ち着き、たっぷりとまるみのある巨峰のようなフルーティさに変化しました。二度美味しい1本。
【ジューシー/低アルコール】甘すぎない&酸味でぐいぐい飲める
長野県/湯川酒造店「十六代九郎右衛門 13」

ラベルのイメージどおりキュートな味わい、でも決して甘ったるくないお酒。アルコール度数が13%と日本酒にしては低く、酸味のバランスがいいのでぐいぐい飲めてしまいます。
【ジューシー/低アルコール】柑橘系のフルーツ感&酸味
佐賀県/光栄菊酒造「光栄菊」

柑橘系など日本酒ではあまり見かけないフルーツ感と、心地よい酸味があるお酒。アルコール度数も13%と低めなのでスイスイ飲めちゃいます。
Q&A|飲み方・料理など
木村さんに、フルーティな日本酒についての疑問や、日本酒全般の楽しみ方に関する疑問に答えてもらいました。
Q. フルーティな日本酒は、どうやって飲むのが美味しい?(温度・料理)
しっかり冷やして、口の広いワイングラスなどのグラスで飲むと、フルーティな香りをしっかり楽しめます。
小さいおちょこだと香りが感じられないので、家にあるいろいろな器で飲み比べしてみて、美味しいと感じるものを見つけてみてください。
料理は、メロンなら生ハム、パイナップルなら豚肉など、その香りに似たフルーツに合うものをイメージしてみるといいでしょう。
Q. 店でおいしいと思っても家で飲んだら違う。どうしたらおいしく飲める?
フルーティさを感じられない、または逆にきついと感じるなら、酒器を変えてみること。口の広いグラスなどの酒器は香りを広げ、狭いお猪口などは香りを抑えてくれます。
または、開けたては青い果実のように味が若い場合もあるので、ひと晩ほど置くと、香りが開くこともあります。
甘ったるくて飲み疲れしてしまうなら、トニックウォーターやライムの果汁などを一滴垂らすとグッと飲みやすくなります。
Q. 銘柄をすぐ忘れてしまって、楽しみ方が広がらない
基本的には、無理して覚えなくていいと思っています。お酒を飲んでいるときは忘れっぽくなるものだし、銘柄を覚えているほど楽しめるかというとそうでもないからです。
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写真:岡崎健志、取材・構成:佐々木智恵美