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美味しいコーヒーを淹れるための道具のひとつ、ドリップケトル。お湯を注ぐだけなら、ヤカンでもいいのでは?とも思ってしまいますが、ヤカンとドリップケトルとでは、ドリップのしやすさが段違いなんです。

ドリップケトルは注ぐお湯の量をコントロールできるので、好みのコーヒーの味わいを引き出しやすいです。ヤカンはドバッとお湯が出てしまうので、コーヒーのドリップには向きません」

そう教えてくれたのは、カフェ店主の梁川健人さんです。

ドリップしやすい高品質なドリップケトルは「注ぎ口の形状」に特徴が。おすすめ形状をはじめ、ドリップケトルの主な種類や選び方を徹底ガイド。梁川さんが厳選したおすすめのドリップケトルも紹介します。

まずは、選び方のポイント(たった1つ!)から解説。

梁川健人(やながわ・けんと)さんのイメージ

梁川健人(やながわ・けんと)さん
カフェ「喫茶 八蔵」店主。スペシャリティコーヒーの専門店に勤務。コーヒーのドリップや焙煎補助などの業務を経験した後、出張喫茶としてさまざまなイベントで珈琲を提供し、人気に。百貨店への期間限定出店なども行う。2018年にオープンした「喫茶 八蔵」では、産地や農園までこだわったスペシャリティコーヒーを丁寧にドリップ。その味わいを求め、地元はもちろん遠方からも多くの人が訪れる。

喫茶 八蔵(HP)
https://www.hachikura.net/

喫茶 八蔵(Instagram)
https://www.instagram.com/hachikura2015/

■ 目次
▼選び方
ドリップケトルは「湯量の調節のしやすさ」で選ぶ
材質・熱源はどう選ぶ?
 -【材質】ステンレス、ホーローなど
 -【熱源】電気や直火など
人気・王道ブランド4つ
 -ハリオ
 -フジイ(月兎印)
 -タカヒロ
 -カリタ

▼おすすめ商品
プロが使ってるのはコレ!梁川さん愛用のケトル
プロのおすすめドリップケトル13選
 -人気・王道
 -注目
 -電気
 -こだわり・プロ仕様
 -便利なグッズ

▼レビュー
ニトリのドリップケトルの使い心地は?

ドリップケトルは「湯量の調節のしやすさ」で選ぶ

コーヒーが淹れやすいドリップケトルの選び方のポイントは1つ。「湯量の調整のしやすさ」です。湯量が調整しやすいかどうかは、首と注ぎ口の形状で見分けることができます。ステンレスやホーローといった材質の違いはそこまで気にしなくてOK。とにかく大事なのは形です。

根元が太く、先が細いものを選ぶのが鉄則

写真のように根元が太く先が細いものは、湯の量を少なく注ぐことも、多く注ぐことも可能で、湯量の調節がしやすい形状です。

根元から先まで同じ細さのものは、注げる湯の量に限界があるため、多く注ぐのは苦手。静かに細く注ぎやすい形状です(記事内でおすすめしている一部商品は、多く注ぐことも可能)。

口が「くびれている」と湯切れがいい。口の先がカーブしているものも◯

注ぎ口は、くびれがあるタイプとないタイプに分かれます。

  • くびれがある=鶴口
  • くびれがない=細口

と呼ばれることもあります。鶴口(上記写真)はくびれがあることによってお湯の量や勢いをコントロールしやすく、また注ぎ終わりに湯がスッと切れるようになっています。

「細口の場合は、注ぎ口の先がカーブを描いているものがおすすめです。注いだ時に湯が真下に落ちるので狙った場所にお湯を注ぎやすく、湯切れもいいです」(上記写真がその形状)

0.7〜0.9L程度の小さめが◎。大きいと重くて注ぎにくい

Image: Amazon.co.jp

ドリップケトルのサイズは0.7〜0.9L程度がおすすめ。大容量のものはお湯を入れると重くなるので、ドリップの際にだんだん手が疲れてきてしまい、コントロールしづらくなります。

「温度計つき」でなくても大丈夫

Image: Amazon.co.jp

ドリップケトルには温度計がついたタイプもありますが、実は温度計がなくてもコーヒーは美味しく淹れられます。

100℃に沸騰したお湯をヤカンからドリップケトルに移すと、ドリップケトルの材質にもよりますが90〜93℃前後まで温度が下がります。そのままコーヒーを抽出していけばOKなので、改めて温度計で測らなくても大丈夫なのです。もちろんこだわり派の人は温度計も活用するといいでしょう。

ドリップケトルの材質・熱源はどう選ぶ?

繰り返しになりますが、ドリップケトルで最も大事なのは「注ぎやすい形」。材質や熱源は好みや予算に合わせて選びます。種類のバリエーションと特徴は次の通り。

【材質】ステンレス、ホーロー、銅の3つがメジャー

材質は「手入れのしやすさ」や「保温性」を左右する要素。メジャーなのは、ステンレス、ホーロー、銅の3つです。

ドリップケトルの主な材質を示す図
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コーヒーの味にこだわるなら銅製が一番おすすめですが、その分価格は高め。この記事で紹介するステンレス製やホーロー製のドリップケトルでも十分美味しく淹れられるので、お財布と相談して買いやすいものを選びましょう。

●ステンレス製
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「ドリップケトルによく使用されている素材で、錆びにくいのが特徴です。手に取りやすい価格のものが多く揃っているので、買いやすいですね」

●ホーロー製
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「表面がガラスコーティングされていて、汚れにくく錆に強いのが特徴です。カラフルな製品も多いですよ」

●銅製
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「熱の伝導率が高く、ヤカンからお湯を移した際にお湯が冷めにくいので、狙った温度でコーヒーを淹れやすいことが特徴です。光沢をキープしたい人は定期的に磨く必要がありますが、磨かずに経年で変化する姿を楽しむこともできます」

【熱源】直火にかけないのが基本。電気や直火式は場合によっては選択肢に

ドリップケトルは基本的には火にかけず、ヤカンや電気ポットで沸かしたお湯を移して使うのがおすすめ。詳しい理由は追って説明しますが、火にかけて沸かすヤカンとは別物だと考えるのがいいでしょう。

ただ、直火にかけてお湯を沸かすタイプ、電気でお湯を沸かすタイプのドリップケトルも販売されているので、それぞれの特徴を比較・解説しておきます。

ドリップケトルの3つの熱源を示す図
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●お湯を注いで使うタイプ
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一番のおすすめは、お湯を注いで使うタイプ

コーヒーは基本的に90〜93℃前後のお湯で淹れると美味しいと言われていますが、沸騰したお湯をヤカンや電気ポットからドリップケトルに移すことで、ケトルの材質にもよりますが90〜93℃前後に冷ませます。

「直火にかけてお湯を沸かすタイプのドリップケトルも、この使い方ができます」

●直火タイプ
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直火にかけるタイプはお湯の温度調整が難しいので、あまりおすすめではありません。お湯を沸騰させた後、ドリップに適した温度(90〜93℃前後)に冷めるまで待つ必要があるからです。

「ドリップしやすいケトルは小さめなのでガスコンロの五徳に乗らない場合が多く、持ち手も熱くなりやすいです。逆に、ガスコンロに乗るサイズを選ぶとケトルが重くて注ぎにくくなります」

直火にかけられるタイプでも、別のヤカンや電気ポットで沸かした湯を移して使うのであれば温度調整が大変・持ち手が熱いといった心配はありません。

●電気タイプ
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電気で沸かすタイプも、温度設定できない商品の場合は温度調節が難しくあまりおすすめではありません。

「時短という点では便利なので、使いたい場合は80℃や90℃などにお湯の温度を設定できるタイプを選ぶといいでしょう。他の2つのタイプと比べると、重いのが難点です」

ちなみに、90℃に設定して湯を温める場合は沸騰はしませんが、沸騰させなくてもコーヒーの味はほぼ変わらないとのこと。

「水から90℃に温度を上げたお湯と、一度沸騰させてから90℃に温度を下げたお湯とでは、理論上はコーヒーの味に違いが出ます。ただ、実際にはほぼわからないレベルの違いなので、気にする必要はありません」

ドリップケトルの人気・王道ブランド4つ

ドリップケトルの主な人気ブランドは、ハリオ、カリタ、フジイ(月兎印)、タカヒロの4つ。

「特にフジイとカリタの2つが湯量のコントロールがしやすい印象です」

ハリオ

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ハリオは耐熱ガラスを使った商品を数多く扱うメーカーで、コーヒードリッパー、コーヒーサーバー、コーヒーミルなどコーヒー関連商品も非常に豊富。ドリップケトルはステンレス製中心のラインナップで初心者でも手を出しやすい価格の商品が多く、入手のしやすさも抜群です。

▼ハリオの代表商品

カリタ

Image: Amazon.co.jp

カリタはコーヒー機器の総合メーカー。ステンレス、ホーロー、銅とさまざまな素材・デザインのドリップケトルを扱っていて、特に銅製のものはプロにも人気。この記事の冒頭で紹介したような、根元が太く先が細く、注ぎ口にくびれのある「湯量の調整がしやすい」タイプを数多く扱っています。

▼カリタの代表商品

フジイ(月兎印)

Image: 楽天

キッチンウェア・ハウスウェアを扱うフジイ。オリジナルブランドの「月兎印」は大正15年から続くブランドで、日本におけるホーロー文化の立役者です。ドリップケトルの代表的な商品は「ホーロースリムポット」で、注ぎやすさとカラフルな色展開が人気。同じデザインでステンレスや銅製のものもあります。

▼フジイ(月兎印)の代表商品

タカヒロ

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業務用の厨房用品を扱うタカヒロのドリップケトルは、どれも高品質で注ぎやすく、湯量の調節がしやすいものばかり。材質は基本的にステンレスで、ゴールドメッキやブロンズメッキもあります。タカヒロを代表する「雫」シリーズのほか、ノズルの形状を改良した「遥」も販売されています。

▼タカヒロの代表商品

プロが使ってるのはコレ!梁川さん愛用のケトル

カリタの銅製ケトル(販売終了モデル)


愛用しているのはカリタの銅製のケトルです。湯の量をコントロールしやすい点やグリップが握りやすい点、銅製でお湯が冷めにくい点が気に入っています」


「使い込んでいるので、経年変化で味が出てきています。このモデルは既に廃盤になってしまったのですが、次もカリタの銅製のドリップケトルから選ぶつもりです」

【コラム】軽くて注ぎやすいドリップケトルがトレンド?

最近注目を集めているのは、軽くて注ぎやすいドリップケトル。ハリオのV60ドリップケトル・エアーのように軽い樹脂製で計量カップのような形をしているものや、フォームレディのcupPot(下記写真)のようにハンドルがなく、直接手で持って注ぐタイプのものなど、扱いやすさや注ぎやすさに着目して開発されたものが発売されています。

Image: Amazon.co.jp

「最初は見た目の面白さ、斬新さに目が行きますが、使ってみると注ぎやすさがわかりますね」

プロのおすすめドリップケトル13選

タイプ別のおすすめの商品を梁川さんに選んでいただきました。前述の解説ではそこまでおすすめではなかった電気、直火タイプの中からも使いやすいもの、注ぎやすいものをセレクト。

「どれも使いやすいので、デザインが気に入ったものを購入してまずは使ってみてください。使っていくうちに手に馴染んで、より使いやすくなりますよ」

【人気・王道】

メジャーどころから4点紹介。タカヒロはこだわり派の人におすすめです。

フジイ|月兎印 ホーロースリムポット


「ホーロー製のケトル。注ぎやすい形と、キャメル・ブルー・レッドなどカラーバリエーション豊富な点が特徴です。内側は耐久性の高い耐熱性の釉薬で仕上げられているので、長く使えます」

カリタ|コーヒー達人・ペリカン #52125


「こちらもホーロー製。一見すると『こんなに太い注ぎ口で、お湯を細く注げるの?』と思ってしまうかもしれませんが、かなり細く注げます。また、もちろん勢いよく注ぐこともできます。どこかユーモラスなフォルムで、昔から人気の高いケトルです」

ハリオ|V60ドリップケトル・ヴォーノ

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手に取りやすい価格でお手入れしやすいステンレス素材、更にコーヒー器具で有名なハリオ製とあり、人気の高いケトルです。細口で、お湯を細く注ぐのが得意です」

水を多く入れるとやや重くなって持ちにくい点には注意。

タカヒロ|コーヒードリップポット 雫

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「かなり注ぎ口が細いタイプですが、細くも太くも注げ、湯量のコントロールはしやすいといえます。喫茶店などでも使われている本格派のケトルです」

【注目】

梁川さんが注目しているケトル4つを紹介。近年登場した持ち手が無いタイプや、デザイン性の高さと注ぎやすさを兼ね備えたブランドです。

MERMOO YILAN|ドリップケトル


「北欧っぽいかわいらしさのあるデザインです。タイプとしてはタカヒロのコーヒードリップポット 雫に似ていて、根元から細いタイプでありながら、湯量のコントロールはしやすいのが特徴です。ぽたぽたとしずくを落とすようなドリップが得意なので、じっくりコーヒーを抽出したい人に向いています」

フォームレディ|cupPot

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「持ち手がなく、本体をそのまま掴んでドリップする斬新なデザインです。持つ部分のコルクが熱さを防ぐとともに、滑り止めの役割もしています。取っ手を持つよりもダイレクトに湯の量を調節できる感覚があり、注ぎやすいですね」

ハリオ|V60ドリップケトル・エアー

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「変わったデザインのケトルですが、樹脂製で軽く扱いやすく、注ぎやすさも申し分ありません。価格が安いので、まずは手頃な価格の道具を揃えてハンドドリップを始めてみたいという人におすすめです」

kaico|ドリップケトル

Image: 楽天

「直線的なデザインが印象的なケトルです。注ぎ口が逆三角形で、上部は広く、下部は狭い形状になっているので、浅く傾ければ細く注げ、深く傾ければ勢いよく注げます。木のつまみもおしゃれな印象です」

【電気】

湯を早く沸かせて便利な電気ケトル型のドリップケトル。温度調整できて、湯が注ぎやすい形状の商品が梁川さんのおすすめです。

ただ、いずれの商品も重いのが難点。重いとドリップ中に手が疲れてきてしまい、お湯のコントロールが定まらなくなってしまいます「重さは気にならない」という人にはおすすめです。

エペイオス|電気ケトル EPCP001


電気ケトル型の中ではイチオシです。お湯が沸くのが早く、38〜100℃まで1℃単位で温度を設定できます。お湯もブレることなく注げます。高価ですが、その価値があると思います」

COSORI|電気ケトル CO108-NK


「玉露は60℃、ウーロン茶は85℃、コーヒーは90℃というふうに用途別にボタンがあり(下記写真)、押すだけで希望の温度のお湯を沸かすことができるので、温度設定が非常に明快で使いやすいです。ただ、注ぎ終えたあとにお湯が少し伝ってきてしまうのがやや気になります」

山善|電気ケトル YKG-C800-E

Image: Amazon.co.jp

「お湯が沸くのが早く、温度の設定は60〜100℃まで1℃単位で可能。コスパの高い商品ですが、COSORIと同様、注ぎ終えたあとにお湯が少し伝ってきてしまうのが難点です」

【こだわり/プロ仕様】

コーヒー専門店などでも使用されているプロ仕様のドリップケトルをセレクト。いずれも注ぎやすさや保温性などに優れています。やや高価ですがその分素材がしっかりしていて質感が高く、所有欲も満たしてくれる逸品です。

「プロが使用するだけあり、機能性が高いケトルです。コーヒーにこだわりたい人にはおすすめです」

カリタ|コーヒーポット ウェーブ #52274

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錆びにくく、手入れしやすいステンレス製のケトル。根元が太く、先が細く、鶴口の理想的な形をしていて、湯量のコントロールも自由自在です。私が愛用している銅製のドリップケトルよりは安価ですが、同等の注ぎやすさです」

カリタ|コーヒーポット ドリップ式専用 銅 #52262

Image: Amazon.co.jp

銅製なのでドリップ中にお湯の温度が落ちにくく、おいしく淹れられます。内側は錫メッキで加工されていて、水質が変化しないよう配慮されています。湯量のコントロールは非常にしやすいですね。高品質なドリップケトルを長く使いたいという人におすすめできる商品です」

【便利なグッズ】

ドリップケトルを使わずとも、湯を細く注げる便利アイテムがあるってご存知ですか? アウトドアにも持ち運びやすい一品を梁川さんが教えてくれました。

SorairoPictures|ワイヤスキッター

Image: 楽天

Image: 楽天

「ワイヤーでできたくちばしのような形をしているドリップ器具。アウトドアで使うシェラカップや、金属製のマグなどにひっかけて使うと、お湯を細く注ぐことができます。これがあれば、ドリップケトルがなくてもコーヒーのハンドドリップができます」

ニトリのドリップケトルの使い心地は?【使用レビュー】

ニトリのドリップケトルはシンプルなデザインと手頃な価格で人気。その使い心地を梁川さんに検証してもらいました。

結果:細く注ぐのは得意だが、たっぷり注げないのが難点


「細く湯を注ぐコントロールができるので、ドリップは比較的しやすいですね。湯の勢いもありますが、多めには注ぎにくいので、少し湯量が足りなく感じるタイミングがあります」

首の部分が細いことにより、一定以上の湯量が出せないことがわかりました。

ハンドドリップは抽出の最後の段階で多めの湯を注ぐことですっきりした風味のコーヒーに仕上げられますが、その用途で使うのは難しそうです。

写真:岡崎健志、編集:佐々木智恵美

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