Photographed by 中山実華 Text by 大森りえ

人気企画「メーカーさんいらっしゃい」。メーカーの垣根を取り払い、同ジャンルの製品の開発秘話や業界の今後について語り合っていただく座談会です。

今回は進化し続ける「電気調理鍋/電気圧力鍋」のこと。材料を入れてセットしさえすれば、おいしい料理ができあがっているという夢のような調理ツールとして、愛用者も増えています。

おいしくて時短になることはもちろん、小型化も進んで私たちのキッチンにも取り入れやすくなった3機種について、3メーカーの担当者さんにお話を聞きました。

<今回お集まりいただい3社の皆さん>

株式会社A-Stage/國井 麻衣さん
マーケティング企画部 広報・PRグループ
「リデ ポット」の広報に携わって料理の機会が激増。帰宅したら「リデ ポット」に食材をセットしてバスルームへ。お風呂から上がるとできあがっている料理をつまみに晩酌をするのが楽しみ。今回ご紹介いただいたのは電気圧力鍋「リデ ポット PCH-20L」。

シロカ株式会社/佐藤 一威(くにたか)さん
開発部 開発グループ グループマネジャー
「料理の手間やコツを知らずして自動調理器の開発はできない」と料理教室に通い、そこで得た気づきを「おうちシェフ」シリーズの開発にも生かしている。最近ハマっているのはケーキづくり。今回ご紹介いただいたのは電気圧力鍋「おうちシェフPRO SP-2DP251」。

シャープ株式会社/吉田 麻里さん
国内スモールアプライアンス事業部 調理ソリューション企画開発部 主任
新しい「ヘルシオ ホットクック」が搭載するポテトサラダのつぶしまで自動で行う機能は、「めんどくさがり」を自称する吉田さんの発案だとか。週末には「ホットクック」を使って2、3品をつくり置きすることも。今回ご紹介いただいたのは水なし自動調理鍋「ヘルシオ ホットクックKN-HW10G」。

自動調理鍋の小型化が止まらない。それはどうして?

ROOMIE KITCHEN編集部(以下、編集部):自動調理鍋って、もっとどっしりとしているイメージがあったんですが、まず最新機種の小ささに、本当に驚きました!キッチンに置いておくスペースがないから普段はしまっておいて、使うときにわざわざ出すという人も少なくないようです。そうなると、結局しまいっぱなしになってしまいますよね。

國井/A-Stage:
おっしゃる通り、キッチンに置きっぱなしにできるサイズ感とデザイン性は、リデ ポットとしても一番こだわったところです。

開発当時、電気圧力鍋自体とても便利なのに市場に浸透していないことに気づいてリサーチをしたところ、ご自宅に電気圧力鍋を導入しない理由で一番多かった回答が「おしゃれな電気圧力鍋がない」だったんです。

そこで、キッチンに置いておけるコンパクトなサイズと、インテリアや空間になじみ、思わず写真に撮ってSNSにあげたくなるようなデザイン性にこだわりました。

しかし、ただおしゃれなだけでなく、普段からたくさん使ってもらえるよう、機能面で圧倒的な強みも持っていたい。そこで着目したのが、「炊飯機能」。高級炊飯器にも負けないような炊飯機能を持ち、かつデザイン性に優れた電気圧力鍋というのが最終的に導き出した製品コンセプトになっています。

「リデ ポット」WHITE 1.2L 14,800円(税込)/Re・De

佐藤/シロカ:
たしかに自動調理器は「昭和の炊飯器感」が拭えない製品が多かったですよね。その点、「リデ ポット」はデザイン性だけでなく、最大1.8気圧という高い圧力を実現しています。僕もごはんを炊いて食べてみましたけど、すごくおいしかった

本当にがんばってつくられたんだろうという苦労が、同じ開発者として手に取るようにわかります。

國井/A-Stage:
ありがとうございます。リデ ポットはごはんが一番おいしく炊ける最適な圧力設定にこだわった結果、最大1.8気圧にたどり着きました。発売前に製品を販売店様に紹介したときも、ごはんがすごくおいしいという感想をいただいていて、その時は本当に苦労が報われた気持ちでした。

シロカさんも去年約1.9気圧の「おうちシェフ PRO」を出されましたよね。「スマートプレッシャー技術」の報道資料を読んで、とても企業努力されたんだろうと感銘を受けました。

シャープさんの「ヘルシオ ホットクック」は、サイズ展開もなさっていますが、小型化はどのように検討していかれたんですか?

吉田/シャープ:
「ヘルシオ」というブランドでウォーターオーブンをリリースしたのが2004年で、ホットクックは2015年に誕生しました。1.6Lタイプ(2〜4人分)のサイズから始まって、翌年に大きな2.4L(2〜6人分)を発売しました。

調べてみると、ホットクックのご利用者の約60%がファミリー層で、約30%が単身または2人暮らしのご家庭だったんですね。そこで、その約30%の世帯の方へより使いやすいものをお届けしたいと考え、2019年に発売を開始したのが1.0Lタイプ(1〜2人分)の小さなサイズなんです。

「ヘルシオ ホットクック」ホワイト 1.0L 50,000円前後(税込)/シャープ

機能とデザイン、価格に妥協はしない。小型化で難しいことは?

編集部:小型化するといっても、機能はアップグレードしたいですし、小さくしたからには価格も下げたい。サイズと機能、価格の落としどころを見つけるのは大変そうですね。

佐藤/シロカ:
まさに、そこですよね。小さなサイズのなかに機能を盛り込むのは大変ですし、そこへ一定で高い圧力をかけるにはパーツにもコストがかかってきます。「おうちシェフ PRO」は低温調理と自動減圧機能を追加したので、デザイナーと営業と開発のせめぎ合いが何か月も続きました(笑)。最後は工場に「何とかコストを抑えてほしい」とお願いして、首を縦に振ってもらいました。

この小さいサイズとこの価格で、よくここまでいろんな機能が盛り込めたなあと、我ながら感心しています。

「おうちシェフ PRO」グレー 1.68L 17,980円(税込)(税込)/シロカ

吉田/シャープ:
本体を大きくするのも小さくするのも、ただサイズを変えればいいというのではなく、イチからすべて見直さなければいけないので、サイズ変更は非常に大変です。

小さくても、大きいサイズと同様の料理を体感いただきたいですし、ホットクックの特長である「かきまぜ」や無線LAN接続の機能を、小さなサイズながらにどう実現するかということも、高いハードルとなります。もちろんおいしさの面でも妥協はできませんから。

「ヘルシオ ホットクック」(シャープ)は、付属の蒸しトレイを使えば2種類のメニューを同時に調理可能。例えば、下段でごはんを炊きながら上段でおかずを作るなど、晩ごはんの用意が一気にできる。

國井/A-Stage:
そういった点では、リデ ポットはブランドとして初めてリリースする製品だったので、前例なく取り組めたことはよかったかもしれません。

サイズも、近年の世帯数平均を踏まえ1-3人向けの小さく持ち運びやすいものというイメージでデザインしていたので、当社の場合、そこはあまり大きな問題になりませんでした。むしろ、先程の炊飯が美味しくなる圧力設計や調色に苦戦しましたね。

全体的なデザインのバランス、色や素材感には徹底してこだわっているので、当初イメージしたものになるまではかなりのトライアンドエラーがあったと聞いています。

マッシュポテトのような肉じゃがを食べ続ける試作の日々

編集部:製品の開発に携わって、うれしい、楽しいと感じるのはどんなときですか?

國井/A-Stage:

電気圧力鍋としてはもちろんなのですが、炊飯器の代わりに購入される方が多いと聞くと、私たちのこだわりのポイントがきちんとユーザー様に届いているんだと実感して、広報担当としてうれしくなりますね。

リデ ポットはInstagramでレシピなどの情報発信にも力を入れているのですが、そのコメントなどで、「料理に手間と時間がかからなくなって、暮らし方が変わった、子どもと過ごす時間が増えた」などと言っていただけると、皆さんの生活にリデポットがしっかりと溶け込んでいる様子が想像できて、もっと多くの方にリデポットを知ってもらいたい、使ってもらいたい、という気持ちになります。

「リデ ポット」(Re・De)は現代の住宅事情を考えて炊飯器と電気圧力鍋をふたつキッチンに揃えなくてもいいように、圧力を使う料理のほか、とくに炊飯機能に力を入れて開発。炊きあがったごはんの美味しさに定評がある。

佐藤/シロカ:
時短という点でいうと、電気圧力鍋は料理の手間は省けても、圧力が下がるまでふたが開けられないので、「結局、時間がかかる」というお声をいただいていたんです。そこで、おうちシェフ PROには蒸気が自動で排出される「自動減圧機能」を追加しました。

そこに気づいて「本当に時短になった」とおっしゃっていただけるのはすごくうれしいです。また月に数通、直筆のお手紙をいただけるのでありがたく読ませていただいています。

「おうちシェフ PRO」(シロカ)は「一定高圧力×自動減圧機能」のスマートプレッシャー技術でこれまで難しかった細やかな圧力コントロールで一段とおいしく、また従来の自然減圧時と比べて短時間での調理を可能に。蒸気排出も安全設計。

吉田/シャープ:
ホットクックの強みは、ほったらかしにいているのに、人が手をかけたようにおいしい料理ができるところ。しかし、満足いく仕上がりになるまでには、何度も試作を繰り返します。「本当に正解はあるのか、いつになったらたどりつけるのか」と、マッシュポテトのようになった肉じゃがを毎日食べ続けるわけです(笑)。

理想の料理に近づくと光が見えたようなうれしい気持ちになりますね。きっと調理器具を手がけるメーカーさんなら同じだと思います。

國井/A-Stage:
メーカーあるあるですね! 私たちもまさにそのとおりで、一時期は開発メンバーだけでなく、各部署から人を集めて社内で白いごはんを毎日食べ続けるという異様な光景だったみたいです(笑)。

炊飯にこだわる「リデ ポット」(Re・De)は取り外し・丸洗い可能な内蓋付き!高温で一気に炊き上げることで、ムラなく粒立ちがしっかりしたご飯に。浸水や蒸らしも含めて25分でふっくら美味しく炊き上げる。

佐藤/シロカ:
そういう点では、自社製品での試作はもちろんですが、他社製品との比較なくしては開発はできません。弊社にもリ・デ・ポットがありますし、ホットクックに関しては歴代モデルをいくつも持っていて、実際に調理と試食をしています。そうやって切磋琢磨することで、お客様によりいい製品をお届けできたらいいですよね。

SNSを通じて、利用シーンを見せてもらえるのがうれしい

編集部:シャープさんは2015年にいち早く電気調理鍋を発売した先駆けですが、自動調理鍋が市民権を得てきたなという実感はありますか?

吉田/シャープ:
2017年のはじめぐらいまででしょうか、製品のラインナップを追加してもユーザー様が増えない時期もありました。それが無線LANを搭載した新製品を発売したところ、メニューをどんどん増やしていけるという楽しみも後押ししてファンが急激に増えていってくれるのを肌で感じました。

口コミやファンの方による料理本やYouTubeでの発信、さらに昨今のSNSブームでハッシュタグをつけて投稿してくださる方が増えていき、コミュニティがどんどん広がっていくことをうれしく思っています。

「ヘルシオ ホットクック」(シャープ)を使ったメニューで人気の高いのものがカレーや肉じゃがを使った料理。加熱の進行にあわせて自動でかきまぜてくれるため、焦げてしまいがちな無水メニューのカレーやシチューも上手に調理。肉じゃがなどの煮物は煮くずれなく、少なめの調味料でも中までしっかり味がしみ込む。

無線LANに接続することで専用レシピサイト「COCORO KITCHEN」レシピサービスから新しいレシピをダウンロードできる。画像は「ヘルシオ ホットクック」レッド 2.4L。

佐藤/シロカ:
以前までは、私たちが見届けられるのは販売までで、購入いただいたご家庭でどう使われているかは知り得なかった。でも今はSNSで実際の使用シーンやコメントが拝見できるのがすごくうれしく楽しみでもあります。

製品は、開発した私たちにとって子どものようなもの。家庭の押し入れにしまわれてしまうのが一番残念なんですよね。だから、生活の一部にしていただくために、購入後のサポートもきちんとしていきたい。そういう点では、シャープさんが先駆けでやっているネットワークへの接続は、避けては通れないと思っているんです。「夏だから、こんなレシピはどうですか?」というところまで提案していきたいですね。

國井/A-Stage:
電気圧力鍋で簡単・時短は実現できても、料理は献立を決めるところから始まっています。ですから、ユーザー様がアクセスしやすい形で、気づきになるような新しいレシピの提案は常にしていきたいですね。ネットワークにつないで献立を提案できるのは、ユーザー様への大きなサポートになりますよね。

吉田/シャープ:
そうですね。共働きが当たり前のようになりつつありますが、家事の中でも料理の負担は大きく、食べることからは逃れられません。そこをいかにサポートしていくかは、今後も変わらない課題だと思います。また、介護の現場や保育の現場など、人手の代わりにホットクックが活躍する機会を広げていきたいとも思っています。

競合他社の垣根を取り払い、業界として盛り上げていきたい

編集部:ちなみに、シャープさんは電気圧力鍋の開発はしないんですか?

吉田/シャープ:
実は私も、A-Stageとシロカのおふたりに「電気調理鍋はつくらないんですか?」とお聞きしたいと思っていたんです(笑)。弊社としてはもちろん圧力鍋も検討したことはあるのですが、お客様はホットクックの「かきまぜ」という機能に価値を感じてくださるので、混ぜることと圧力の両立が、現時点ではなかなか難しく。ただ、選択肢にまったくないかというとそうではありません。

佐藤/シロカ:
シロカとしても、圧力を使わない調理器のことは考えてはいます。何でも圧力をかければいいというわけではありませんので、常圧といって圧力をかけない料理法との両立ができないかな、などはよく考えますね。

あとは、簡単・時短・おいしいだけでなく、自動調理鍋だからかなえられる「健康」の部分も訴求していけたらと考えています。どんな栄養素がどのぐらい残るといったエビデンスは、メーカーの垣根なく紹介していきたいですね。

「おうちシェフ PRO」(シロカ)で計測した栄養素の残存率。高圧力を均一に加え続けることで、調理によって溶け出してしまう栄養の量を抑えてくれる。もちろん、より味が染み込み、よりやわらかな仕上がりに。

國井/A-Stage:
普段、こういったいわゆる競合他社の方とお話しする機会がないので、今日は本当に勉強になりました。

佐藤/シロカ:
本当ですね。他社さんと同じ電気調理器という土俵で会話する場はなかなかありません。企業ごとに秘密はありますし、迂闊に話してしまうと……ってこともあるかもしれません。でも自社製品のアピールというより、いいところをほめて引き出せるという場が純粋に楽しかったです。業界として盛り上げていくことが大切だと思います。

吉田/シャープ:
今回、皆さんとお話しすることで、これまでの開発の中で悩んだことなどを思い返すことができました。もっと業界を盛り上げていきたいというモチベーションにもなりました。

「自分のために開発してくれたの?」と感じるほど、かゆいところに手が届く自動調理器。誕生の背景には、ユーザーの住まいやライフスタイルを細かくイメージしながら「より良い暮らしを」と取り組む開発者の苦労があるのですね。

デザインや使い勝手はもちろん、製品に込められた思いも受け取って、毎日の食事の時間をよりおいしく楽しいものにしていきたいものです。

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