パンを切ることに特化した特殊な包丁、パン切り包丁。「わざわざパンを切るためだけに、包丁を買う必要があるの?」と思っている人もいるかもしれませんね。

パン研究家の小島喜和先生によれば、頻繁にパンを食べる人なら、パン切り包丁は必ず持っておきたい道具。普通の包丁とは切れ味が全く異なるため、パンライフのクオリティがぐっと高まります。

この記事では小島先生が実際に30年も(!)愛用している1本と、よく切れるおすすめのパン切り包丁を厳選して紹介。切れ味が長持ちするお手入れの方法や切り方についても解説します。

小島喜和さんのイメージ

小島喜和さん
料理・菓子・パン研究家。テーブルトップダイレクター。
アメリカ、フランスの製菓学校で製菓、製パンを学び、ディプロマを取得。都内製菓教室の指導者コース終了。都内レストラン製菓部門勤務後、現在は料理、製菓、製パンなどの教室を東京および高知で開催している。朝はパン派の料理道具マニア。日々こだわりをもって使いやすい道具を探し求め、検証を繰り返している。高知県の生産者と消費者を結びつけるプロジェクト、海空土(みそらど)を立ち上げ、こちらも活動中。 
オフィシャルサイト海空土 Instagram

そもそも、パン切り包丁は必要? 

「パンをよく食べるなら、パン切り包丁は絶対に必要! 私は毎日使っています」というのが小島先生の回答。

相当よく切れる包丁なら、パンを「切れなくはない」とのこと。でも、家庭用の一般的な包丁では刃が入りにくく、入ったとしてもパンがスムーズに切れずに潰れてしまうそう。

▼普通の包丁で食パンを切ると…

対してパン切り包丁なら、やわらかい食パンにもハード系のパンにもすっと刃が入り、力を入れなくてもスムーズに切れます。パンが潰れることもありません。

▼切れ味のいいパン切り包丁なら…

パン切り包丁は、刃の“種類”と“長さ”で違いが出る

パン切り包丁は、刃の種類と長さの掛け合わせで、切りやすいパンが変わってきます。

刃の種類

主な刃のタイプは以下の3つ。

▼【波刃】万能タイプ

刃がギザギザしている。パンの表面に切れ込みを入れやすい。やわらかい食パンと、固いハードタイプのパンのどちらも切れ、万能です。

▼【平刃】食パン向き、ハード系は向かない

Image: 楽天

普通の包丁のように刃がまっすぐ。刃が入りにくいのでハード系のパンは切りにくい。食パン向き。

▼【ハイブリッド刃】食パン向き、ハード系は向かない

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先や根本が波刃で、真ん中が平刃になっている①と②のハイブリッド。刃が入りにくいのでハード系のパンには向かない。食パン向き。

長さ(刃渡り)

10~40cm以上と幅がありますが、一般家庭向けの多くの商品は20~26cmの長さです。

刃渡りは、切りたいパンの幅にプラスして数cm必要。それを考慮すると、食パンをスムーズに切ることができるのは26cm以上のタイプです。

刃渡り23~25cmでも食パンを切ることは可能ですが、刃渡りに余裕がないので、26cm以上のものと比べると切りにくさを感じることも。

小さいパンだけを切るのであれば、11~23cm程度でも対応できます。

電動ナイフ

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特殊なタイプとして、2枚の刃が動いてパンを切る電動ナイフがあります。電動ナイフは基本的に波刃が付属しています。

刃の種類・刃渡りと切りやすいパンの関係

以上のことをふまえ、刃の種類・刃渡りと切りやすいパンの関係を以下にまとめました(そもそも商品自体が少ないタイプは空欄にしています)。

一番万能で、おすすめな刃は波刃。刃渡りによって小さいパン・食パン・ハードパン・大きいパンと何でも切れます。

10~22cm 23~31cm 32cm以上
波刃 小さいパン 食パン・ハード系パン 大きいパン
平刃 食パン
ハイブリッド刃 食パン
電動ナイフ 食パン・ハード系パン

電動ナイフは刃渡り18~20cmのものが主流。ナイフを前後に動かさなくても切れるため、刃渡りが短くても食パンは問題なく切れます。

プロが見てるのはココ! 切りやすさを決める3つの条件

刃の種類と長さによって、切りやすいパンに違いが出ることはわかりましたが、実際に切りやすい1本を選ぶためにはどこに注目したらいいのでしょうか?

小島先生が実際に購入する際にチェックしているポイントを教えてもらいました。

①26cm以上が切りやすい長さ

刃渡りによって切りやすいパンのサイズが変わりますが、一番万能な刃渡りは26~31cmほど。食パン、ブールなどの大きなハード系のパン、ホールケーキなど何でも切れます。

刃渡り23~25cmでも食パンを切ることは可能。でも刃渡りに余裕がないので、26cm以上のものと比べると切りにくさを感じることも。

22cm以下は小さなパンや、大きなパンを小さく切り分けるときに。32cm以上は基本的に業務用で、家庭では持て余す大きさです。

②刃の幅が広いとまっすぐ切れる

刃がついている部分から、峰(包丁の背)までの幅のこと。山型食パンなど高さのあるものを切ることが多いなら、幅が3cm以上あるものがおすすめ。幅があるほうが包丁がぶれにくいので、まっすぐ切れます。

③適度に刃がしなると切りやすい

ほどよくしなるものがおすすめ。しなりすぎると包丁がぶれて切りにくく、全くしならないのも切りにくいといわれています。

しなり具合が確かめられないときは、この記事で紹介するメーカーのものがおすすめ。いずれも品質の高い包丁を製造するメーカーです。

パン研究家が推すのはこの一択!「刃渡り26cm以上で波刃」のヴォストフのパン切り包丁

結局、どんなパン切り包丁を買えばいいの? と小島先生に聞いたところ、「刃渡り26cm以上で波刃」のもの一択。これがあればどんなパンでも切れるそう。

実際に、先生の自宅では刃渡り26cm以上で波刃のパン切り包丁1本で食パン、ハード系のパン、ホールケーキなど何でも切っているそう。先生が愛用しているものがこちら。

ヴォストフ|クラシック ブレッドナイフ 26cm

ヴォストフはドイツの刃物の産地であるゾーリンゲンを拠点とする有名刃物メーカー。その特徴は波刃のカーブの深さです。

「波刃のカーブの深さと切れ味は比例します。このパン切り包丁は一つひとつのカーブが深く、切れ味が最高どんなパンにもすっと刃が入ります

一度も研がずに30年使っていますが、切れ味が全く衰えないのも素晴らしい点。刃渡りも26cmとちょうど良く、刃の幅も広め。ほどよくしなり、切りやすい。これ以外のパン切り包丁は考えられません。

一生モノを探しているなら、自信を持っておすすめできます!

▼山型食パンを切っているところ

食パンを家で切るとき、普通は何度も前後に刃を動かさなくてはならなかったり、断面がギザギザになったりしがちです。また、よく切れるパン切り包丁でなければ、パンを薄く切ることはできません。

ヴォストフのブレッドナイフで切ってみると、それほどパンを切り慣れていないライターでも、薄くきれいに切ることができました! 包丁を下ろしながらすっと引くだけで食パンが切れます。

▼ハード系のパンを切っているところ

ハード系のパンの固い皮も楽々。のこぎりのように前後に動かさなくても、板前が柳刃包丁でお刺身を切るように、スーッと一引きで切れます。

【コラム】プロ推奨の買い方は「長め1本+短め1本」の2本使い


26cm以上の長めの1本は何でも切れる頼もしさはありますが、小回りがきかない点がネック。そのため、何でも切れる頼もしい26cm以上の波刃と、さっと取り出して気軽に使える16cm以下の波刃もあると、さらに使い勝手がよくなります

短めのパン切り包丁は、小さなパンを切ることはもちろん、バターやチーズを切ることもできて便利。

ちなみに小島先生は、お気に入りの短めのパン切り包丁(同じもの)を何本も持っていて、あらゆる場所で使っているそう。先生が使用する短めのパン切り包丁はウェンガーのもので残念ながら廃盤になっていますが、近いものはビクトリノックスのスイスクラシック トマト&テーブルナイフです。

ビクトリノックス|スイスクラシック トマト&テーブルナイフ

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重さ29g、刃渡り11cmというコンパクトで軽量な包丁。かわいい見た目からは想像できないほどの鋭い切れ味で、パンやお菓子、チーズ、トマトなどに、使わない日はないというくらい活躍してくれます。ちなみに、編集担当はこの商品を10年以上愛用。切れ味は衰えることなく、毎日のように活躍しているそうです。

手頃な価格も人気の秘訣。一家に1本あって損はない包丁です。食洗機対応。

パン切り包丁のおすすめ8選

先生がおすすめするヴォストフクラシック ブレッドナイフ 26cm以外の、おすすめの品を紹介します。先生に教えて頂いた選び方やアドバイスをふまえて厳選しました。 

【26cm以上の波刃】のおすすめTOP4

1位 ビクトリノックス|ブレッドナイフPro

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アウトドアで使うマルチツールナイフで有名なビクトリノックス。キッチンで使うナイフも非常に鋭い切れ味で、プロからも高い評価を得ているブランドです。

ブレッドナイフProは、先端に向かって少し湾曲した刃が特徴。最後まで刃がパンをとらえるので、切り残しがありません。

刃が幅広で、食パンなど高さがあるものを切るときもぶれずにまっすぐ切りやすく、使いやすい1本です。

◎データ
刃渡り:26cm

2位 サーモハウザー|スライサー 波刃 26cm

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サーモハウザー(テルモハウザー)はプロ向けの製菓・製パン道具を専門に扱うドイツのブランド。パン切り包丁もさまざまなサイズがありますが、家庭で使うなら26cmがおすすめです。

刃の部分はモリブデン合金素材で柔軟性と耐久性に優れ、ハンドルは特殊強化樹脂で衛生を保ちやすい設計です。

◎データ
刃渡り:26cm

3位 ミソノ|モリブデン鋼 ウェーブナイフ No.696 30cm

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岐阜の刀都・関でプロ向けの包丁を製造するミソノ。国内外の料理人から絶賛される、日本を代表する刃物専門メーカーです。

刃渡り30cmと大ぶりなため、大きなパンやケーキを切ることが多い人におすすめ。抜群の切れ味で、さびにくいモリブデン鋼を使用しています。

◎データ
刃渡り:30cm

4位 マトファー|波刃ナイフ 310mm

Image: 楽天

マトファーはフランスのプロ向け製菓・調理道具メーカー。妥協のない物作りで世界中の製菓・製パンのプロに愛用されています。

波刃ナイフの刃渡りは31cmと、今回紹介するなかでは一番大ぶり。ステンレス製の深めの波刃で、さびにくく、やわらかいパンもハードなパンも難なく切れます。

◎データ
刃渡り:31cm

【23~25cmの波刃】のおすすめTOP3

1位 ヴォストフ|クラシック ブレッドナイフ 23cm

Image: 楽天

小島先生が愛用している「ヴォストフ」のブレッドナイフの、刃渡りが3cm短い商品。圧倒的な切れ味と耐久性があり、この長さのクラスでも一番のおすすめはやはりヴォストフです。

刃物の街であるドイツのゾーリンゲンで製造された「メイド・イン・ゾーリンゲン」を守り続けていて、その品質は折り紙付きです。

◎データ
刃渡り:23cm

2位 青木刃物製作所|堺孝行PC柄 パン切りナイフ

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堺孝行を製造する青木刃物製作所は刃物の産地、堺を代表する包丁メーカー。料理用の包丁だけでなく、パン切り包丁もスパッと切れます。

刃はさびにくくよく切れるモリブデン鋼、柄は腐敗せず衛生的に使えるナイロン66という樹脂製で作られています。

◎データ
刃渡り:25cm

3位 ビクトリノックス|グランメートル ウッド ブレッドナイフ ブラック

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ビクトリノックスのなかでも、グランメートルは高級なシリーズ。

小島先生が愛用する「ヴォストフ|クラシック ブレッドナイフ 26cm」と同様、切っ先(刃の先端)から持ち手まで1本の鋼材を使用した、安定性に優れる設計。

さびにくく高い切れ味が持続する、モリブデンバナジウム鋼を使用しています。

◎データ
刃渡り:23cm

【16cm以下の波刃】のおすすめ

16cmの波刃は小回りがきくので、26cm以上の長めのナイフとの2本持ちがおすすめ。小さなパンやスイーツを切り分けるのに便利です。

ツヴィリング|ナウ S ユーティリティーナイフ

Image: Amazon.co.jp

ツヴィリングはヴォストフやサーモハウザーと同じく、ドイツのゾーリンゲンを代表する刃物メーカーです。

「ナウ S」は2020年に販売を開始した、比較的新しくモダンなデザインのシリーズ。なめらかな切れ味で、パンやスイーツの「ちょこっと切り」に便利です。食洗機対応。

◎データ
刃渡り:13cm

Q&A|研ぎ方・切り方など

お手入れ方法や均一な厚みに切る方法など、プロの知識を小島先生に聞きました。

どうやったら長く使えるの?

A. 汚れや水気を包丁に残さないことが鉄則です。
使ったらすぐに洗剤で洗い、ふきんで水気を拭き取ります

さらに、刃にものがぶつからないように保管することも大切。包丁差しなどに入れるとよいでしょう。出し入れの際は刃の部分があたらないようにします。

パンを切るときも、まな板までゴリゴリと切ってしまわないように注意。刃がまな板に近づいてきたら、少しずつ包丁を立てて持ち手を引き上げていき、最後は包丁の先の部分だけでパンを切るようにします。

切れ味が悪くなったら、どうやって研ぐの?

A. パン切り包丁は基本的に研げません。
波刃を研ぐことは技術的に難しいため、切れなくなったら買い換えるしかありません。ただし、よいパン切り包丁を丁寧に扱えば、数十年単位で切れ味を保てます。

まな板は専用のものを使うべき?

A. できればパン専用のまな板を用意しましょう。
ほかの食材のにおいがパンについてしまうことを防げます。

一般的なプラスチックのまな板でもOKですが、木製のまな板のほうが包丁の刃が傷みにくくおすすめ。溝つきのタイプはパンくずが溝に落ちるので扱いやすいですよ。

均一な厚み・きれいな断面に切るコツは?

▼パンを潰さずに切るコツ

小さく切り込みを入れてから、包丁を手前に引くようにして力を入れずに切っていきます。

包丁を前後に細かく動かすのはNG。1ストロークで引いて切るのが理想ですが、食パンなど高さがあるものは難しいので、その場合はZの字を書くように「手前に引く→少し前に→手前に引く」と刃を動かして切ります。

▼食パンをきれいな断面に切るコツ
小さく切り込みを入れてから1ストローク or Z字で切れば、きれいな断面になります。焼きたてのパンは切りづらいので、冷めてから切りましょう。

▼サンドイッチをきれいな断面に切るコツ
Image: Shutterstock

押すように切ると中身がはみ出してしまうので、小さく切り目を入れてから力を入れずにZ字で切ります。

▼均一な厚みに切るコツ
Image: Shutterstock

パン切り包丁は片刃なので斜めに包丁が入りやすく、気を抜くとすぐに斜めに切れてしまいます。「まっすぐに切る」ことを意識してゆっくり丁寧に切りましょう。

まずはパンを真上から見て切る幅を決め、刃を入れる場所が手前と奥で同じ幅になっているか確認します。次にゆっくり刃を入れていき、切り終わりも同じ幅になるように何度も目で確認しながら切ります。

刃がぶれないよう、包丁の角度を一定に保って切りましょう。

【検証】100均のパン切り包丁・電動ナイフの使い勝手を試してみた

パン切り包丁は100均でも購入できるため、その切れ味が気になっている人は結構多いよう。そして、電動ナイフは小島先生のおすすめではありませんが、オンライン上では人気です。実際のところは使いやすいのかどうか、二つの気になるパン切り包丁の使い勝手を試してみました。

【検証1】100均のパン切り包丁の使い勝手は?


100均で購入したパン切り包丁。浅めの波刃で、刃渡りは約16cmです。本記事で紹介した中では一番小さめのサイズですが、使いやすさや切れ味はどうでしょうか? 食パンとハード系のパンを切ってみました。

【結果】100均のパン切り包丁は食パンには向かない


刃渡りが短く、切れ味も非常に鈍いため、スムーズに切れません。何度も刃を動かしているうちに、パンの断面はボロボロになってしまいました。
ハード系のパンは、食パンよりは切れる印象。波刃である分、三徳包丁よりは刃が入りやすいと感じました。

【検証2】電動ナイフの使い勝手は?


力を入れずに美しい断面で薄く切れるという電動ナイフ。刃渡りは約18cmで、こちらも本記事で紹介した中では短めです。


2枚のブレードが前後に素早く動くので、刃を下ろすだけで食材が切れるというしくみ。刃は取り外して洗えます。これで、食パンとハード系のパンを切ってみました。

【結果】電動ナイフは切れるが扱いづらい


切れ味はよく、食パンの断面もきれいなのですが、しっかり握っていないと刃先がぶれてしまい、均等な厚みで切ることができません。本体が重く、握る部分が太いので、ぶれないよう握り続けるのはやや大変でした。
また、最後まで切れたかどうかが感覚的に分かりづらく、まな板に刃が強くぶつかってしまう点もややネックでした。
刃渡りは18cmと短めですが、通常のパン切り包丁のように刃を動かす必要がなく、まっすぐ刃を下ろせばよいため、刃渡りの点では食パンも問題なく切れました。
ハード系のパンも切れ味や断面は問題ありませんが、食パンと同じく切りづらさを感じる結果となりました。

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