蒸溜酒のひとつであるジン。ジントニックなどのカクテルにも使われているので、ジンを口にしたことのある方も多いのではないでしょうか。そんなジンの世界で今、「クラフトジン」と呼ばれるジンが盛り上がりをみせています。
700種類のジンを揃えるバーのオーナーで、ジンのエキスパートである小野寺さんに、クラフトジンの選び方や、おすすめのジンを聞いてみました。お家で手軽に試せるおいしい飲み方についてもご紹介します。
クラフトジンにはなんとなく興味があるけれど、何を選べばよいのかわからないという方は必見です!
小野寺総章さん
東京・小岩にあるBar Soutsuオーナー。700種類ものジンに囲まれた隠れ家のようなお店では小野寺さんのセレクトした、とっておきのジンが楽しめる。各地の蒸溜所に足を運んだり、SNSで情報発信をしたりと、ジンの魅力を伝えるために日々精力的に活動している。
Twitter: @BarSoutsu
Instagram: BarSoutsu
おすすめのクラフトジン10選
世界のクラフトジン5選
日本のクラフトジン5選
こんなジンを見たことがありますか?

Image: GettyImages
クラフトジンが盛り上がるなか、SNSで注目されたものや話題になっているものを紹介していただきました。
「グリーンフック ジンスミス アメリカンドライジン」
一時期SNSで「圧倒的に美味しい」とジン好きの間で話題になった、ニューヨークのジンです。有機小麦から造られたベーススピリッツに9つのボタニカルを使用しています。
澄み切ったような鮮やかさと繊細さを持つドライなジンです。
「バスタブジン」
商品名にもなっている「バスタブジン」の由来は、禁酒法時代に密造酒で流通した、浴槽にボタニカルを漬け込む造り方からきています。文化的な面を踏襲しているジンでもあるので、最近はオーセンティックバーに置かれることが多い印象です。
「香の森」
養命酒製造が作ったジン。ジンというとハーブやスパイスのお酒ですが、こちらは養命酒製造さんが長年培った、生薬やハーブの知識がそのまま落とし込まれた力作です。
まるで森の中にいるような味わいが特徴的な一本。
「ゼロツハートジン」

クラフトビールで有名なスコットランドのブリュードッグが手掛けるクラフトジン。クラフトビール好きの方によくご提供する一本です。
「ジンをこよなく愛するジン熱狂者の為に」をコンセプトにつくられたジンで、ジンに重要なジュニパーベリーを知るためにピッタリの1本です。
「季の美」
国内でのクラフトジンブームを牽引したといっても過言ではない一本。ジンだけをつくっている数少ない日本の蒸溜所のひとつです。
ジャパニーズジンの先駆け的存在であるにも関わらず、いまだに絶対的な人気を保ち続ける頼れるジンです。
「ネバーシンク」
ニューヨーク州のリンゴ100%ベーススピリッツに11種のボタニカルをブレンドしたジン。一口飲めば驚くほどフルーティーな風味と、ほのかに感じるシナモンのようなスパイシーさがある、当店でも大人気のジンです。
これをきっかけにクラフトジン好きになった方も多い、ジン好きの間でもファンの多い一本です。
クラフトジンってそもそもどんなもの?
とても自由度が高い蒸溜酒
なにをもってジンとするかという、ジンの厳密な定義は地域によって異なりますが、一般的に流通しているものを簡潔に説明すると、ジンとはジュニパーベリーを含むハーブやスパイス類を使用した蒸溜酒のことを指します。
ジュニパーベリーはセイヨウネズと呼ばれるヒノキ科の針葉樹の実。ほどよい苦みや甘み、ハーブのようなニュアンスやスパイシーさがあり、ウッディな香りもする、とても複雑な風味のボタニカルです。
ジンのアルコール度数については、EUでは37.5%、アメリカでは40%以上と定義づけられていますが、蒸溜方法や製法、原料、生産国はさまざまです。
ジンを名乗るためにはジュニパーベリーを含んでいればよいので、その他にボタニカルが100種類以上入っていても、1つも入っていなくてもジンだと名乗ることが出来ます。
多種多様なボタニカルが使われ、製法も多様なジンは、圧倒的に自由度の高いお酒だといえるでしょう。
使用するボタニカルについては、EU法で「規定の範囲内での天然素材、または天然もしくはそれと同一の成分の香料を使用し、ジュニパーベリーの香りが主であること」と義務付けられていますが、ジュニパーベリーの香りが主とは言えないような、強烈なフレーバーを持つジンが増えてきている現状もあります。
タガメが入ったものや、月の隕石を入れたもの、ゾウのフンやアリが入っているものなど、果たしてこれはボタニカルなのか……という個性的なジンも登場しています。
「クラフト」かどうかは実は関係ない?
クラフトビールなどと違って、実はクラフトジンに明確な定義というものは存在しません。
「クラフト」という言葉からは少量生産のものや、地域ごとの特性をいかしたもの、つくり手の熱意がこもったものというニュアンスが感じられます。実際にそういったジンは増えていますし、消費者の方々もそういったジンを求めている流れはあるでしょう。
一方でクラフトという言葉が品質を保証するものではないのにもかかわらず、一般流通している「クラフト」とつかないジンにネガティブなイメージをもたれるのではないかという懸念もあります。クラフトという言葉がつく、つかないにかかわらず、ジンを楽しんでほしいですね。
なぜクラフトジンが盛り上がっているの?
ジンは「多角的な魅力に溢れたお酒」だという小野寺さん。ここ数年でたくさんのクラフトジンが発売されていますが、こういったクラフトジンの盛り上がりにはどのような理由があるのでしょうか。
製造から販売までがスピーディ
ジンは熟成に時間がかかるウィスキーや、様々な規定のあるラム、テキーラなどに比べて、製造から販売までが比較的短期間で完成します。
ウイスキーブームで誕生した新しい蒸溜所の多くがウィスキーの熟成が終わるまでの間にジンを製造することが、ジンブームの一因になっていると考えられます。
既存の設備を活かせる
焼酎などに使う蒸溜器がジンづくりに転用できることも参入者が急増している理由の一つと言えるでしょう。
しかしながら決して片手間でジンがつくられているということではなく、多くの方が熱意を持ってジンづくりに取り組んでいらっしゃると感じます。
個性的な魅力の出しやすさ
ジンは使用するボタニカルで地域ごとの個性が出しやすいお酒です。
例えば、白ぶどうを原料にしたフランスのジンや、牡蠣の殻を使った広島のジン、日高昆布を使用した北海道のジンなど、土地や造り手の個性をいかしたストーリー性のあるジンが楽しめることもジンブームの大きな理由のひとつでしょう。
クラフトジン、どうやって選ぶのがよい?
実に多種多様なクラフトジンですが、どの銘柄から飲み始めるか迷ったら、何を基準に選べばよいのでしょうか。
特徴的な「ワード」に注目して選ぶ
ジンは製法や使われているボタニカル、ベースに使われているお酒の原料、生産国など、とにかく要素が多彩で複合的なので、なかなか一つの要素に焦点を当てて系統立てることが難しい面があります。
そのようなバリエーションの豊かさがジンの魅力でもあるのですが、初めて選ぶときは、それぞれのジンに必ずといっていいほどある特徴的な「ワード」を探すことをおすすめします。
例えば、「リンゴをベースに使ったもの」や「京都の素材をふんだんに使用したもの」「土の隕石が入ったもの」「ダヴィデ像の顔がボトルの形になっているもの」……など、それぞれのジンに何かしらの特徴が存在しているので、そこから直感的に選んでいただくのが、好きな銘柄にたどりつく一番の近道なのではないかと思います。
おすすめのクラフトジン10選
ジンを知り尽くした小野寺さんに、世界各国でつくられるクラフトジンとメイドインジャパンのクラフトジンをそれぞれ5本ずつ紹介していただきました。
世界のクラフトジン5選
例えばウィスキーには「5大ウィスキー」と呼ばれるような、大まかな産地の括りがあるのですが、ジンにはそういったものがありません。
ジンは世界的に幅広く生産されていて、味わいの系統も地域ごとに非常に複雑で多様です。
ネグローニやマティーニ、ジントニックのようなカクテルで飲まれることを想定した銘柄も多く存在します。
スティンジン 500mL
トウモロコシを原料としたベーススピリッツにリンゴやエルダーフラワー、スパイスやハーブといったボタニカルが使用されたジン。アルコール度数47%。
オーストリアのジンで、ジュニパーベリーに6種類の南スティリア産のりんごやエルダーフラワーなど、約28種類のボタニカルを使用したジンです。
非常に濃厚で満足感のある1本で、店にある700本のジンの中でもトップクラスの人気を誇る銘柄のひとつ。
これを1本飲み干せばもうジンの沼から帰って来られない…と自信を持って言える、一押しの銘柄です。濃厚かつ複雑でありながら、分かりやすくもバランスの取れたジンでもあるので、特におすすめの一本です。
飲み方はジントニックかストレート、ロックもおすすめです。個人的に一番好きな飲み方はストレートです。
クラフターズ アロマティックフラワージン 700mL
エストニアの穀物をベーススピリッツに、厳選された12種類のボタニカルで構成されたジン。アルコール度数44%。
エストニア産のクラフトジンです。ボタニカルに使用されているローズヒップフラワーエキスはジンを褐色にする天然色素を含んでいます。
ウィスキーのような色合いのある見た目で、いわゆるジンらしくないのですが、このジンの最大の特徴は、爆発的な華やかさ。飲んだ瞬間お花畑の中にワープしてしまったのではないか…と思えるようなジンです。
海外のジンではあまり感じることのないソーダ割りがおすすめのジンですが、トニックウォーター、ロック、ストレートすべて美味しくいただける不思議な力強さを持ったジンです。
グライフジン 700mL
地中海のジュニパーベリーを使用したジン。アルコール度数43%。
イタリアのジンです。地中海で育ったジュニパーベリーをしっかりと感じることの出来るエネルギッシュな一本です。
何よりも特徴的なのがサルデーニャ海の海水を使用していること。海水を使用したジンというのは世界的にも数が少なく、ボタニカルの香りに加えてほのかに潮の香りを感じる数少ないジンです。
トニックウォーターとの相性が抜群で、ほのかに塩気を感じるジントニックはぜひ一度飲んでいただきたい一本です。
プロフェッサー ムッシュジン 700mL
伝説的なバーテンダー、ジェリー・トーマスに感銘を受けて作られたジン。アルコール度数43.7%。
ベルモットで有名な老舗メーカーの作るイタリアのジンです。ジュニパーベリーもイタリア産のものが使用されています。
アメリカの禁酒法時代、ジンはバスタブで作られていたという歴史があり、そのオマージュから同様の「バスタブ製法」で作られています。
厳密にはバスタブ製法で作られたジンと、通常の製法で作られたジンを混ぜて作られているのですが、バスタブ製法を採用しているだけあって、色合いがボタニカルそのままの色をしています。非常に余韻が長く味わい深いジンです。
特徴的なジンではあるのですが、こちらも汎用性が高く、ジントニック、ジンソーダ、ロック、ストレート、どれも美味しくいただけます。1つ挙げるならばジントニックがおすすめです。
アークティック ブルージン ネイビーストレングス 500mL
有機栽培されたものや、蒸溜所近くの森で育てたものなど、選び抜かれた原材料が使用されたジン。アルコール度数58.5%。
北極地方の雪解け水と野生のブルーベリーから作られるフィンランド産のジン。フィンランドの森の中にいるような心地よさを体験できる、非常に妖艶な1本です。
ピックアップした10本の中では一番繊細なジンですが、味わい深い複雑さもあるので、慣れるほどに余韻がどんどん心地よくなっていく一本です。飲み方としては、ストレートがおすすめです。
日本のクラフトジン5選
日本のジンは特に、ここ2年の間に一気に増えました。北から南まで地域ごとのキャラクターがはっきりと分かれているのは世界の中でも珍しく、地域の特徴を生かしたジンを飲むと、そのグラデーションを楽しめるでしょう。
ゆずや山椒、お茶といった日本固有のボタニカルを使用しているものは、特に海外の方にも楽しまれているようです。
日本のジンはソーダ割りを意識してつくられているものが非常に多いのですが、そのような国は他になく、そこが日本のジンの一番の特徴なのではないかと思います。
ラスト ジン エレガント 200mL
エシカルをテーマに酒造りをする蒸溜所が手がける、多くが廃棄される酒粕を使用したジン。アルコール度数47%。
東京・蔵前で作られているジン。香水のような香りを持つクラフトジンで、ラベンダーなどのフローラルな香りや、ほのかに感じるスパイシーさが絡み合う唯一無二のジンです。
まるで「飲む香水」と言われるジンでもあります。蒸溜家の方も若く、個人的には今、日本で一番勢いのあるジンの蒸溜所なのではないかと思っています。
飲み方はソーダ割りが一番おすすめです。
クラフトジン 欅(けやき)700mL
宮城県の醸造メーカーが東北初となるクラフトジン蒸溜所を設立し、そこでつくられたジン。アルコール度数42%。
宮城県産のゆずの果皮やセリを使用したジンです。日本のものにしては珍しく、ジントニックに特化した銘柄で、ゆずの爽やかな香りとセリのほのかな苦味がトニックウォーターと相性抜群です。
ジャパニーズジンはどうしてもハイプライスなイメージがあると思いますが、こちらはコストパフォーマンスに優れていて、宅飲みにも使いやすい1本。
非常に爽やかでおいしいジンなのでぜひ一度試してみてください。
トーキョーハチオウジン クラシック 500mL
ジンのスタンダードと言われる「ロンドンドライジン」に引けをとらないものを、という想いから誕生したジン。アルコール度数45%。
東京・八王子にある蒸溜所で作られているジンです。ニュートラルコーンスピリッツをベースに使った、ジャパニーズジンには珍しい、地域性やボタニカルの差別化をせず、ジンそのものの原点に立ち返ったような直球勝負の一本。次世代の日本のスタンダードジンになり得るのではと思っています。
ラベルには八王子にちなんだ八角形が描かれているなど、作り手のコンセプトも洗練されています。
飲み方としては、スタンダードカクテル全般がおすすめですが、まずはジントニックを試してみてください。
ジャパニーズクラフトジン 棘玉 700mL
国内では極めて稀な国産のオリジナル蒸溜機を使ってつくられたジン。アルコール度数47%。
日本古来のボタニカルと高度4.5の超軟水を使用した、埼玉でつくられているジン。店のジンの中でもトップクラスにジュニパーベリーを感じることのできる1本です。
ジンで一番重要であるジュニパーベリーそのものの味が伝わるので、ジン本来の味を一度知りたいという方におすすめです。これを知った上で、いろいろなボタニカルのジンを試していくと、より一層ジンを楽しめると思います。
飲み方としてはストレート、ロック、ジントニックがおすすめです。
火の帆 KIBOU 500mL

※写真は100mL
美しく透明度が高い海に臨む、自然豊かな積丹半島にある蒸溜所で作られたジン。アルコール度数45%。
北海道・積丹独自のボタニカルをふんだんに使用したジン。バランスがとれつつも積丹の美しさを連想させるような豊かで上品な味わいです。
この「火の帆」シリーズは非常に高品質であるのにも関わらず、新しいシリーズが絶えず発売されているので、安心して楽しみやすい銘柄だと感じます。
ジンに対する熱意を各所から強く感じる、常に目が離せないメーカーさんです。飲み方としては、ストレート、ジントニックがおすすめです。
自宅でのクラフトジンの楽しみ方
クラフトジンを手に入れたら早速自宅で試してみたいもの。具体的にどんな飲み方があるのでしょうか。
まずは定番のあのカクテルを
数あるジンのカクテルの中でも、まずはジントニックを試してみてください。最近のジンの銘柄はライムやレモンを必要とせず、氷を入れたグラスにジンとトニックウォーターを入れるだけでかなり美味しく飲めるものが多いので、手軽に作れます。
トニックウォーターについて
トニックウォーターは本来はキニーネという苦味成分にライムやシトラスなどを加えた炭酸水の総称なのですが、今はそれに当てはまらないものも多く発売されています。
当店では10種類以上のトニックウォーターを使用していますが、個人的におすすめの銘柄はフィーバーツリーの3種類。バーテンダーがジントニックによく使用する、しっかりとした味わいのトニックウォーターの銘柄です。
もうひとつ、ジン好きの方の中で今話題になっているのがCAPIというオーストラリアのメーカーのものです。
CAPIもフィーバーツリーと同じく苦味がしっかりとしているので、ジュニパーベリー本来のちょっとした甘さのようなものを引き立ててくれるおいしいトニックウォーターです。
新しいものでは、日本でつくられるファーブラザーズという「個性豊かなクラフトジン」の為に開発された特別なトニックウォーターもおすすめです。
ハーブを合わせて
タイムやローズマリー、ミントといったハーブ類とジンは非常に相性がよいのでジントニックやジンソーダを飲むときにプラスすることでより一層楽しむことが出来ます。特にドライなタイプのジンはダイレクトな変化が楽しめるのでおすすめです。
スパイスを合わせて
ジンはスパイスとの相性も抜群です。ご家庭で飲む場合には、ブラックペッパーやカルダモンといったスパイスをぜひ試していただきたいです。ジンソーダやジントニックに一振りするだけで驚くような味の違いを楽しめます。
こちらもドライタイプのクリアなジンでぜひ試してみて下さい。
日本のジンと和食を合わせる
ジンは自由度が高くカクテルの幅も広いので、ジン全体として相性の良い食べ物を探すのは少し難しいですが、カレー等のスパイスを用いた料理との相性が良いとされています。また、日本のジンは焼酎や日本酒をベースにつくられているものが多く、そういった銘柄は和食と相性がよいでしょう。
まだまだ浸透していない飲み方ですが、季の美など水割りと相性の良いジンもあります。ぜひご家庭で気軽に食事と合わせてみてください。