髙阪正洋(CORNELL)

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お茶がウマい。

最近そう感じるようになってきたのは、きっと歳のせいじゃない。コンビニ、カフェ、自宅でも、これまではもっぱらコーヒー派。

それが、このところは「今日はコーヒーにしようか、それともお茶にしようか?」と選んで楽しむように。もともと料理やうつわ集めも好きなものですから、茶器や湯飲みにも、俄然興味がわいてきたりなんかして。

お茶を飲みはじめたきっかけは、ある取材でもらったティーバッグでした。でも、暮らしに根付きはじめたのは、確実に“あの宿泊体験”のあとから。

「日本茶」がテーマの宿泊施設

過日おとずれたのは、新橋・虎ノ門エリアに構えるHOTEL 1899 TOKYO飲むだけでなく“食す”日本茶をテーマにした御茶ノ水の和食ダイニング「RESTAURANT 1899 OCHANOMIZUに並ぶかたちで2018年12月に開業した宿泊施設です。

平日の新橋・虎ノ門エリアということで、ビジネスマンたちがせわしなく行き交う場所を想像していたのですが、駅からすこし離れた場所であるためか、ホテルの周囲は思ったよりも落ち着いた雰囲気。

地上9階建のビルに、63室の客室が用意されていますが、1階スペースには日本茶カフェ「CHAYA 1899 TOKYO」が入っています。ここでは、抹茶、ほうじ茶、和紅茶をはじめ、ミルクで割ったラテや、日本茶を使ったスイーツやパン、パフェまで、“食す”日本茶を幅広く楽しむことができるのです。

なかでも人気メニューだという「濃茶ラテ(温/冷 600円~)」と数量限定の「お茶パフェ(1400円)」。

もちろんカフェだけの利用も可能で、じっさい、通勤前や昼食後にさっと立ち寄ってテイクアウトしていくビジネスマンもかなり多いとか。

※通常営業時、座席には交互に隣との間隔を確保するためのパネルが置かれていますが、撮影のため一時的に外しています。

カフェスペースの窓際席は、日本家屋の「縁側」をモチーフにしたつくりに。ひと続きになったベンチシートや座布団クッションなど、散りばめられた「和」のエッセンスに、ここがビジネス街のど真ん中であることをうっかり忘れてしまいそうになります!

ふだんの利用客のみならず、海外からの観光客にも人気というのも、さもありなん。

チェックインカウンターが、まさかの茶室!?

チェックインのために2階へ。

※通常営業時、カウンター上には飛沫防止用のアクリルシートが設置されていますが、撮影のため一時的に外しています。

エレベーターから降りると、茶室をイメージしたという美しい木枠に囲まれたチェックインカウンターがお目見え。“賑わい”の1階と打って変わっての静謐なムードにしばし浸っていると、どこからともなくふわりと漂ってくるのは、お茶の香り。ここはホテルの受付のはず、いったいなぜ?

そう思って足を進めると、そこにこつぜんと姿を現す茶器の数々。これは幻覚だろうか……?

なんてことは、もちろんありません。じつは2階のチェックインカウンターには宿泊者向けのティーカウンターが併設されていて、ホテルスタッフが目の前でお茶を淹れてくれるサービスが提供されるのです。

さっそくティーカウンターで、日本茶をいただくことに。

考えてみれば、これまで30年以上生きてきて、家庭以外でだれかにお茶を淹れてもらったことって数えるほどしかない。慣れないことにちょっと緊張するけれど、ホテルスタッフが懇切丁寧に案内してくれるので、ひと安心。

ティーカウンターでは、常時3種類の日本茶が提供されます。この日のラインナップは、抹茶、煎茶、和紅茶。インフルエンザの予防にもなると言われるカテキンが多く含まれると教えてもらって、ならばと和紅茶をチョイス

1899で仕入れている日本茶の多くは、埼玉県狭山市の農家「宮野園」のもの。この日の和紅茶は「紅優香」という品種でした。

作法を気にせず自由でいい。“新発想なお茶の楽しみ方”とは?

お茶を淹れる際にとくに大事にしているのは、抽出する時間と温度です。たとえば煎茶なら70度、和紅茶なら90度くらいがちょうどいいと言われています。和紅茶は抽出しすぎると渋みが出てしまうので、蒸らし時間は30秒程度にしています。

とホテルスタッフの立原さんが説明してくれるのにふんふんと耳を傾けていると、あっという間にできあがり。「お茶を淹れてもらう」ってことにちょっと緊張してたけど、なんだ、ふだんカフェでコーヒー買うのと変わらないくらい気軽なんだね!

ティーカウンターは22:00まで開いているそうなので、宿泊中、3種類のお茶をぜひともコンプリートしたい

“紅茶”と聞いてイメージしていた雑味がなくて、まろやか。穏やかな酸味のおかげか、飲み口もさっぱり。これ、美味しい。

で、「やっぱり、専門スタッフに淹れてもらうと一味ちがいますね~」なんてうっかり口走ってしまいました。でも、どうやらそれは1899が提案するお茶の楽しみ方ではないのだとか。「この道具を使うべし」、「お湯は○度じゃないとダメ」、「一煎目が~で、二煎目が~で……」と、小難しい作法がついて回ると考えられがちな日本茶の世界。

でも、1899が提案するのはもっとのびのびとしたお茶との付き合い方

一般的な美味しい淹れ方はもちろんお伝えできますが、それに厳密になる必要なんてないんですよ。

そんな風に言われると、ふっと肩の荷が降りる心持ちに。たしかに1階のカフェでも、ミルクで割ったラテや、お茶を使ったスイーツやパンが提供されていたっけ。堅苦しいお茶の世界じゃなくて、好きなように楽しめばいいっていうスタンスがそこにも表れてる。

お茶をソーダで割ったっていいし、とにかく熱々のお茶が好きなひとは、玉露を90度で淹れて飲んだっていい。なにごとも、まずは自分が美味しい、楽しい、って思わないことには続かない。変に肩肘張らなくていいわけだ!

2階には物販コーナーも。急須や茶漉し、茶葉やティーバッグなど、自宅で日本茶を楽しむための商品がずらり。

そこで思い出したのが、最近自宅で飲むようになった日本茶のこと。これまでもっぱらコーヒー派だったものですが、ある取材でいただいたティーバッグをKalitaのコーヒーサーバーに突っ込んで、お湯を注いで飲むことに。「邪道なんだろうけど、十分美味しいし、まぁいっか」くらいに思って。

きっと、そういう適当さがあったからこそ生活のなかに難なく取り入れることができたんだろうな~。そんなことに、このとき気づいたのでした。

世界観たっぷり、でも居心地のいい客室

美味しい和紅茶をいただき、うっかりくつろいでしまいましたが、ここからがホテルの醍醐味。チェックインを済ませて、いよいよ客室へ。

新橋・虎ノ門エリアということでビジネスホテルライクな簡素な客室を想像していましたが、とんでもない。1階、2階にも負けず劣らず、しっかりと世界観が演出されています。それも、居心地のよさを損なわない絶妙な塩梅で。

緑茶を連想させるグリーンのカーペットには、1階の壁面にもあしらわれていたモチーフが。これは茶室の“四畳半”をイメージソースにしているのだとか。

選んだコーナーデラックスツインの部屋には、広々のベッド、広々の洗面台、そしてシックなバスルームが! これだけでも大満足といった内容ですが、そこは1899。客室にも、日本茶を存分に楽しめる工夫が凝らされています。

客室はすべて「茶屋をイメージした庵」をコンセプトにしていて、4種類のデザイナーズルームが用意されています。茶室をイメージした丸窓や、茶せんがモチーフの照明、1階のカフェと同じく縁側をイメージしたベンチシートなど、一風変わった内装デザインがあしらわれますよ。

バスアメニティーも、お茶の成分が配合された特注品。お茶の香りに包まれるリラックスタイム、なんて贅沢なんだ!

極めつきが、こちらのカウンター。

ここにはケトル、急須、湯飲み、ティーバッグ、茶菓子といった一式が揃っていて、いつでも好きな時間に好みの日本茶を楽しめるようになっています。

窓際のベンチシートに座って、自分で淹れたお茶をいただきます。そうそう、じつはこの日、ちょっとした書き仕事をするかもしれないとノートパソコンを持ってきていたんです。でも、仕事のことは一旦忘れてゆっくり過ごすことに。

たぶん、客室にあるのがコーヒーセットだったら、そうはいかなかったんじゃないかと思います。バチっと目が覚めて、仕事のスイッチが入っちゃってたことでしょう。そこにあるのがお茶だったから、思い切り羽を伸ばすことができたんじゃないかな

宿泊体験を、自宅に持ち帰って

翌朝、1階のカフェで朝食をとってから出かけることに。小分けにパッケージングされた料理から好きなものを自由に選んで、温かいお茶をもらって(前日に飲んでいなかった番茶をチョイス)、せっかくならばと窓際の席に座ります。

日本茶が練り込まれたジューシーなソーセージと、ほくほくと甘いほうじ茶パンが絶品。洋食と日本茶の組み合わせもまた、自由で美味しいお茶の楽しみ方のひとつかもね!

いつでもどこでも、100円もしないペットボトルで飲めるお茶。外食すれば、食後に無料で出てくるお茶。僕らにとって日本茶という存在はこんなにも身近なはずなのに、自分で選んで、自分で淹れて飲むことは、意外にも生活と縁遠い。自戒も込めつつ、改めてそんな風に感じました。

でも、今回作法に縛られない自由なお茶の楽しみ方に触れて、ちょっと入り口が見えた気がします。小難しく考えて飲む必要なんてないし、かといって、ペットボトルで済ますばかりではもったいない

もっと自分流に、自由に楽しめばいい。この宿泊を通して、日本茶の知らなかった一面を体験することができました。きっと二度、三度と泊まるたび、どんどんお茶が楽しくなっていくんだろうな~!

じっさい、この日すっかり新たな世界の入り口に立ってしまった僕は、チェックアウトのときに茶漉しと茶葉を購入(記事のためじゃなく、100パーセント自分のため)。

自宅にあるグラスに茶漉しをセットして、茶葉を入れ、そこに直接お湯を注ぐ。ウマい。これが正解の淹れ方かどうかなんて、知らない。でも、それでいいのだ!

HOTEL 1899 TOKYO 公式サイト

Photographed by
Kenya Chiba(1~15,17,20,21枚目)
Masahiro Kosaka(16,18,19,22枚目 )

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髙阪正洋(CORNELL)

衣食住にまつわるもの、こと、ひとを、取材・執筆します。月刊フリーマガジン『口果報』編集長。

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