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大根はスライサーで薄切りに。酒、醤油、砂糖で味わう割下不要の「大根のすき焼き」(『土を編む日々』199ページより/写真:砺波周平)

Twitter「きょうの140字ごはん」などで知られるエッセイスト・料理家の寿木(すずき)けいさん。新刊『土を編む日々』(集英社)は、「野菜とそれにまつわる記憶」をテーマに、32のエッセイとレシピが綴られた美しい一冊です。

“土の恵みを編む”ように旬の食材を慈しむ寿木さんの視点と、大胆にもひとりで柚子1個分を使い切る「柚子とバターのスパゲッティ」をご紹介します。

「すべての菜のおかず」が教えてくれる旬の喜び

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2種類の冬野菜が主役。寒い季節に恋しくなるアツアツの「ねぎと山芋のグラタン」(『土を編む日々』205ページより/写真:砺波周平)

食材の旬が分からない。たとえ分かったとしても、どう料理すればいいのか自信がない」。これは、本書の「はじめに」で触れられている寿木さんの友人の言葉です。仕事もプライベートもなんとか頑張っていても、ふと「旬が分からない」自分、スーパーで鮮度がいまいちの野菜を手にとってしまう自分に、焦燥感のようなものを感じてしまう。私自身もしばしば感じる気持ちだったので、冒頭から引き込まれました。

もうそんな季節かと思いを馳せても、いざ台所に取り入れようとすると、難しい。ほかにやらなくてはならないことが多すぎるのです。

かたやSNSには、おいしいもの好きによる投稿が溢れています。ビットで描かれた雄弁な旬を、まず視覚で消費するのが、今という時代なのでしょう。冒頭の友人の言葉は、時が指の間をこぼれ落ちていくような切なさと、ひとつであるように思います。

(『土を編む日々』はじめに より引用)

米どころとして知られる富山県砺波市で、五人姉妹の末っ子として生まれたという寿木さん。食卓には理に適ったシンプルな方法で調理されたたくさんの惣菜、寿木さんが言うところの“すべての菜のおかず”が並び、旬の味わいを教えてくれたといいます。

色鮮やかな幼少期の記憶と、グルメ雑誌の編集者として多くの名店を訪れ、人生の折々に料理をふるまってきた経験と。寿木さんの野菜レシピはどれも簡単でおいしく作れるのに、「こんな食べ方があったんだ」と思わせてくれる新しい味、心の琴線に触れる懐かしい味が詰まっていて、何度も作りたくなってしまいます。

私にとって寿木さんのレシピは、時が指の間をこぼれ落ちていく切なさを、喜びに変えてくれるもの。食材の旬を楽しめたという充実感が、自分のペースで生きている、という自信を少しだけ与えてくれるのです。

柚子をたっぷりのバターと食べる絶品スパゲッティ

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旬の柚子の果汁をたっぷり使って味わいたい「柚子とバターのスパゲッティ」(『土を編む日々』201ページより/写真:砺波周平)

昨年の冬にTwitterで知って虜になったのは、「柚子をたっぷりのバターとともに食べるスパゲッティ」。酸っぱいもの好きとしては作る前から「絶対においしい」という確信がありましたが、それはもう夢のような味でした。

難しい調理ではないから、ソースは直前に気楽に作る。フライパンにバターオリーブオイル、にんにく一片を熱し、香りが立ったら取り出す。にんにくの役割はあくまでも、ソースに厚みとやわらかさを出すため。そこへ、スパゲッティの茹で汁を少し取って混ぜ、乳化させる。

柚子の果汁は、ひとり最低でも半分、できれば一個分。砂糖をほんの少し足すと、柑橘の角が取れる。 塩で味をととのえ、茹で上がったスパゲッティを加えて、汁を吸わせる。仕上げに柚子の皮を散らして出来上がりだ。

(『土を編む日々』153ページより引用)

1人につき、薄く削いだ柚子の皮の千切りと、果汁を丸ごと1個使うという思い切りの良さが痛快です。「クリーミーで酸っぱくて、こうして書いていても、奥歯と舌の間によだれが溜まってくる」と寿木さん。その表現につられて作った私も、思い出してはたまらなくなる現象に悩まされ、ひとりランチ用に繰り返し作ったことを思い出します。

レシピにはすみずみまで動機や理屈があり、そのひとが五感を使って歩いてきた道そのものだと思う。どう作っても自由だからこそ、自分の味にたどり着き、それを大切な相手と分かち合えたとき、めいっぱい夏遊びをした夕暮れのような充足感が作り手を包む。

(『土を編む日々』54ページより引用)

凜とした生き方が凝縮されたレシピと言葉の数々に、憧れずにはいられません。寒くなるこれからは、柚子はもちろん大根、白菜、冬ネギもおいしい季節。旬の食材の力を味わいながら、いつか自分の味にたどり着けたらと思います。

土を編む日々

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