髙阪正洋(CORNELL)

髙阪正洋(CORNELL)

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いま刻々と変化する街、下北沢。大規模な再開発や、若者を中心とした古着カルチャーの盛り上がりにも背中を押され、ここ数年で一気に様変わりしました。

そんな下北沢の新名所といえば、「MUSTARD™ HOTEL SHIMOKITAZAWA(以下:マスタードホテル)」。気にはなっていたのですが、なかなか泊まるタイミングがありませんでした。なんせ下北沢、夜深くまで遊んだって電車やタクシーで自宅に帰れちゃいますから。

MUSTARD™ HOTEL SHIMOKITAZAWA

ところが今回、ROOMIEで紹介することにかこつけて宿泊できることに、わーい。ハイ、職権濫用ってやつです。……なんてなかば観光気分で泊まってみたんですが、蓋を開けてみれば、ホテルというより「セカンドホーム」と言えるような仕掛けが隠されていたのでした。

あえて寝るためだけの空間にした、意外な理由

下北沢の端っこ。古着屋やレコード屋、居酒屋がごたまぜになったエリアを東北沢駅方面に向かって抜けたところに構えるのが、マスタードホテルです。

現在絶賛再開発中の、世田谷代田駅から東北沢駅までのおよそ1.7kmにわたる小田急沿線上。そこの最東端にあたるそこに、2021年9月にオープンしたばかり。

コーヒーショップやバーバー、ギャラリー、カレー屋までが渾然一体の商業施設Reloadから連なる宿泊施設でもあって、ホテル内にはコーヒーショップ「SIDEWALK COFFEE ROASTERS」と焼酎バー「くらげ」が併設されています。

どちらも、宿泊者でなくても利用可能。外のウッドデッキにはテイクアウトしたコーヒーを味わうひとたちもいて、街にオープンな感じがしていいな~。

さっそくチェックイン。必要事項をシートに記入すると、朝食券とカードキーを渡されました。宿泊エリアにはカードキーがないと出入りできないようになっていて、夜11時以降は正面玄関の出入りもこのカードキーで行うことになっています。

で、チェックイン後にそのまま案内されたのが、フロントの一角にあるレコード棚。どうしてホテルのフロントにレコードが?

じつはマスタードホテルでは、レコードの貸し出しをおこなっています。全部屋にターンテーブルが備え付けられていて、300枚あるレコードから選んで好きなだけ聴いていただけるんです(森さん)

マスタードホテル 支配人の森 裕之さん

そう教えてくれたのは、支配人の森さん。下北沢にも構えるレコード店JAZZY SPORTのセレクトによるレコードが、常時およそ300枚揃っていて、宿泊者は一度に3枚ずつ部屋に持ち帰ることができるというわけ。

近年そうしたサービスをおこなうホテルは増えてはいるけど、音楽の街・下北沢ってことで、親和性はバツグン

そもそもマスタードホテルは、下北沢の街と訪れるひととのハブになりたいと考えています。たとえば音楽についても、これまで興味がなかったひとにも触れてもらい、ここでの体験を経て街をより楽しんでいただく。街あってのホテルですから、街にも還元していきたいんです(森さん)

ふむふむ、なるほど。宿泊施設であると同時に、下北沢という街を存分に楽しむための起点でもあるわけだ!

そこに暮らすひとや訪れるひとが自由に利用できるコーヒーショップやバーが、ホテルの入り口にあるのにも納得。街とゆるやかにつながろうとしているんだね。

真っ白な部屋をキャンパスに見立てて

さて、全60部屋を擁するマスタードホテルですが、本日宿泊するのはスーペリアダブル。入ってみると、たっぷりとした広さのダブルベッド、デスク、そしてレコードを聴くためのターンテーブル。

バスルームには洗面台とシャワーがあるのみで、海外のホテルみたいにアメニティも限られています。すごくシンプル。悪く言ってしまえば、少し物足りない感じも……。

じつは、部屋の設備はあえて必要最低限にしてあるんです。内装もしかりで、装飾を省いたごくシンプルなデザインに。たとえばベッドのシーツも白に統一しています。でも、それをキャンバスに見立てて、その日買った古着やレコード、観劇したチケットの半券、そうしたものを広げていただく

その1日を振り返りながら、明日に備えていただく。ここは“滞在する”ための場所ではなく、ただ体を休めるための場所にしてもらいたいんです(森さん)

レコードを聴いてゆっくり過ごすのもいいし、荷物を置いて街に繰り出すのもいい。じっさい僕も、今回ホテルで過ごした時間はほんのわずかでした。チェックインしたあとすぐに街に出て、近くの友人を誘って飲み屋へ。

そこを出たあとも、遅くまでやっているレコード屋を回って、たっぷり下北沢の夜を堪能してからホテルに帰ってきたのは、夜深くなってから。で、そのままベッドにダイブイン。

レストランやプールなど、館内が充実し過ぎていると、ホテルのなかだけで過ごしてしまいがち。もちろんそんな滞在も最高なんですが、マスタードホテルはそのミニマルなあつらえゆえに、「ならば、街を堪能しよう!」って気持ちに、自然となれる。

まさに、街とひとをつなぐホテルってわけです。

リモート会議や映画鑑賞にも。ワンコインの「時間貸し」

滞在体験にことさら特化しないほかに、マスタードホテルにはもうひとつ大きな特徴があります。それは、部屋の「時間貸し」をおこなっていること

たとえば僕が今回泊まった14.7㎡のスーペリアダブルの部屋は、2名までの利用が30分500円(ワンコイン!)単位で可能(朝8時から夜10時までの時間帯)。

で、宿泊時同様、飲食の持ち込み、アメニティやターンテーブルなどの利用も可能。また、希望者にはプロジェクターやNintendo Switchなども貸し出しているんだって! 

プロジェクターで天井に映画を映して、恋人同士寝転んで鑑賞。下北沢で買ったレコードをいち早く聴いてみる。急なリモート会議に、静かなホテルの部屋を利用する。近所の美味しいビストロで買ったテイクアウトを持ち込んで、友人とホームパーティー風に楽しむ。

ほかにもアイデア次第で、思いも寄らない使い方ができそうだな~!

そう考えてみると、マスタードホテルって日常の延長にある感じがする。家のテレビじゃなくて、たまには大画面でNETFLIXを楽しみたいとか。音楽は好きだしふだんからSpotifyでは聴いてるけど、たまにはアナログで聴いてみたいとか。

フリーランスの僕は自宅での作業が基本なのですが、締め切りが立て込んでいて集中が必要なときもあります。そんなときに、気軽に利用できる“離れ”というか、セカンドハウスというか。自分の家の延長みたいな感覚で、マスタードホテルを使ってみるのもいいかも!

これだけもてはやされてる“おうち時間”だけど、おうちの外にも、その可能性は広がっていたんだ。

マスタードホテルが、暮らしをにわかに拡張する

翌朝。

閑静なエリアに位置するので、電車や車の騒々しい音で眠りを妨げられることもなく、カーテン越しのやわらかな陽光と、通勤するひとたちの足音で心地よい目覚め。身支度を済ませて、1階のフロントへ。

コーヒーとベーグルサンド、そして具沢山のスープがセットに。
けっこうボリュームがあって、満たされる。

チェックアウトを済ませてから、SIDEWALK COFFEE ROASTERSで朝食をいただきました。前日に降っていた雨も止んで、空気がキリッと気持ちよかったのでテラス席を選ばない手はない。

なんか、「早起きして近所のコーヒーショップで過ごす優雅なひととき」、そんな、日常で憧れるけどなかなか実現できない1日のはじまりみたいで、ちょっとトクした気分!

宿泊の機能は極力シンプルに、そのぶん、街とひとをつなぐことに特化するマスタードホテル。従来型のホテルの価値観にとらわれず、時代に合わせて形を変えていく自由な発想とゆるやかなサービスに、はからずも触れることになりました。

それにしても、ホテルの部屋が日常の延長として使えるっていうのは本当に目からウロコだし、このアイデアによって暮らしがまたたく間に拡張されそうな予感!

家族や友達と過ごす時間から働き方まで、どんな日常のシーンにもマッチするこの場所を、ROOMIE読者のみなさんなら、どんな風に使います?

MUSTARD™ HOTEL SHIMOKITAZAWA

Photographed by
Kenya Chiba(1~11,17,18枚目)
Masahiro Kosaka(12~16枚目 )

髙阪正洋(CORNELL)

髙阪正洋(CORNELL)

衣食住にまつわるもの、こと、ひとを、取材・執筆します。CORNELL。

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