まつい ただゆき

まつい ただゆき

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現在、オン・ジャパンの代表を務める駒田さん。前回、サラリーマン時代からオン・ジャパン立ち上げの頃までのお話を伺いしました。

その後、Onの本国であるスイスの経営陣に伝えられたことで、現在のオン・ジャパンに繋がるわけですが……。信じられないドラマがありました。

成田空港で起きたふたつの奇跡

Onジャパン代表の駒田博紀さん

──前回のお話を聞いていると、とても簡単に晴れてOnファミリーの一員になったような印象ですが、実際のところ大変だったのではないでしょうか?

2014年9月、会社からOnの契約解除を告げられて途方に暮れていたある日、Onの共同創業者であるキャスパー・コペッティから連絡がありました。2週間後に日本に行くから会えないかと。

良いチャンスだと思い、プレゼンテーションしようと資料を用意したんです。それにはいろいろ書いていたんですが、言いたいことはひとつ。

日本にOnを根付かせたいので、Onジャパン株式会社を作りましょう、だったんです。

──実にわかりやすいですね。そのときに思いは伝わったんですか?

実は、キャスパーが来日する直前に、今度は同じく共同創業者で元プロトライアスリートのオリヴィエから、成田空港でトランジットがあるから明日会えないかと急に連絡があったんです。

あまりに急なことだし、普通なら絶対に行かないんですけど、ぼくがアイアンマンになると約束した本人が来るので、空港まで行ったんです。

会うと、Onの契約解除の話を聞いたけど、どう思うのか? って聞かれました。

そのときに伝えたのは「Onはぼくの人生を変えてくれたと思っているので、このまま日本撤退させるわけにはいかないと思っていると。そして何よりも、自分自身のためにも」みたいなことを話したんですよ。

そしたら、笑顔で「わかった」と言って、次の目的地に飛び立って行ったんですね。

オリヴィエが去った数日後、キャスパーへのプレゼンに臨むわけですが、その最中、彼はずっとスマホをチラチラ見ていたので、あまり伝わってないな、飽きちゃったかな、って焦ってたんです。

すると「ヒロキ、いま誰からメッセージがあったと思う? オリヴィエからだ。彼がヒロキを必ずファミリーに入れろと言ってる」と。

Onジャパン代表の駒田博紀さん

──まるでドラマじゃないですか! 劇的なエピソードですね!

「それからしばらくして、2015年1月にスイスに呼ばれました。キャスパーに話したことを経営陣の前で話して、その場でオン・ジャパンを立ち上げることが決まったんです。

それで、本当に色々ありましたが、無事に2015年の5月1日に立ち上げました。正直、この時期は身体も精神的にも苦しいことは多かったですが、夢に向かっている楽しさはありました。少なくとも走っているときだけは苦しいことも忘れることができました。

昔の僕はワークライフバランスを意識していたんですけど、Onに携わってからはワークライフ・ミックス。ハーモニー、と言ってもいいかも知れません。

仕事も趣味も仲間も、すべてがそこにあったから情熱を注ぐことができたんです」

シンプルなデザインがファッションシーンも席巻

Onのランニングシューズ

ブランドのアイコニック的なモデル「クラウド」。カラバリも豊富で、色違いで揃えているファンも多く、デイリーにも使いやすエントリーモデル。左/Black|White、右/Slate|Grey 各15,180円(税込)

──Onのシューズが多くのランナーから注目を集める一方で、最近はファッションシーンからも人気ですね。

元々はランニングブランドなので、まさかファッション的に注目を集めるなんて、当初は予想もしていませんでした。

クラウド」というOnで一番売れているモデルがあるんですが、これを発売した当初、海外でファッションに敏感な層が履き始めたんです。

テニスプレイヤーのロジャー・フェデラーもその一人。インスタグラムで履いているのを見つけて、すぐに本国スタッフがアプローチをしたんです。そこで意気投合して、彼には社員としてOnに参加してもらうことになったんです。その流れで生まれたのが新作のTHE ROGERです」

Onの「THE ROGER Advantage White 」

THE ROGER Advantage White | Rose 15,180円(税込)

──シンプルな見た目なので、洋服を選ばずコーディネートできそうですね。それでいて、歩きやすいというのは魅力的です。

「2019年からはグローバルで“パフォーマンス・オールデイ” という打ち出しをして、ランニングマーケットだけでなく、ファッションやライフスタイルマーケットにも積極的に進出しています。

そのため、ランナー以外の人にもOnを知ってもらっている実感はありますけど、個人的な満足度はまだ60点くらい。ランニングマーケットでのトップ4ブランドになることを目標にもっとがんばっていきたいですね」

ランニングを通したサステナブルな取り組みも

──ところで、昨今はさまざまなメーカーや企業が、SDGsの取り組みに積極的な印象があります。そんな中で、Onも環境面に配慮するなどを意識しているようですね。

自然環境を国として大切にしているスイスでは、「サステナビリティ」はOnというブランドの中に当然に組み込まれている考え方です。地球環境を大切にするスタンスは、Onの企業文化にも「The Survivor Spirit」として明記されています。

Onのシューズで使用している記事はサステナブル

──具体的にOnが実践しているサステナビリティとは、どんな内容になりますか?

例えば、新作の「Cloudswift」であれば、アッパーを構成するメッシュ生地は100%リサイクル素材を使用しています。

実は、製品のライフサイクルのうち、地球の環境にも影響がある二酸化炭素の排出が最も多いのは、バージンマテリアルと言われている未使用素材の製造時なんです。

ですから、Onでは今後発売する商品については、極力バージンマテリアルを使用しないという方向に進んでいます。

Onのサブスクリプションサービス「Cyclon」

──なるほど。原因となるバージンマテリアルを使わなければ、環境に対する悪影響のリスクを軽減できるというわけですね。

はい。また、On独自の大きな試みとして、完全な循環型消費モデルを目指すための「Cyclon (サイクロン)」というランニングシューズないしプロジェクトを立ち上げようとしています

現在、社会に存在するほぼすべての製品は、「製造→消費→廃棄」という直線的なライフサイクルを経ていますが、Cyclonは、「製造→使用→回収→再製造」というような循環型のライフサイクルを目指しています。

その実現のために、購入や所有ができない仕組みとして、サブスクリプションサービスのご提供をスタートしました。月々3,380円をお支払いいただくことで、定期的にCylonをお届けし、使っていただく。そして、ランニングシューズとしての耐用距離が過ぎる頃、それを回収。同時に新たなCyclonをお届けします。

回収されたCyclonを構成する素材はすべて再利用され、新たなCyclonとして生まれ変わります。このようにして、使い終わったシューズは廃棄されることなく、新たに生まれ変わっていくわけです。

Onのサブスクリプションサービス「Cyclon」

──それはブランドとしても、大きなチャレンジであり、とても意義のあるお取り組みですね。

自然豊かなスイスアルプスで生まれたOnは、そのブランドフィロソフィーとして当たり前のように「サステナビリティ」が組み込まれていました。

こういった考え方や哲学はスイスに限リませんよね。そもそも私たちランナーは、自然の中で「遊ばせていただいている」わけです。その大切な遊び場を後の世代に受け継いでいくこと。それがランナーとしてできる「サステナブル」な取り組みのひとつだと思っています。

それって、世界中のランナーに共通であっても良いと思いませんか?

ファンは尊敬する友達。正直に時にクレイジーに接する

Onジャパン代表の駒田博紀さん

──グローバルで展開しているOnですが、日本ならではの特徴というのはあるのでしょうか?

「本国からは、日本はエンドユーザーとのコミュニケーションが活発だと言われます。SNSやイベントでは、社員自身が積極的に表に出て、顔と名前を伝えるようにしています。僕のことはもちろん、人事やカスタマーサービスの名前まで、お客さんは知っているんです(笑)。

大手メーカーでも、こんな密な繋がりはないと思います。イベントの後にはお客さんと一緒に飲みに行ったりもするので、オンだけじゃなくて、オフまで付き合っているのは強みですね

──駒田さんのSNSでの繋がりを具現化されていますね。飲みに行くと、商品に関する本音も引き出せそうです。

「そうですね。初代のクラウドはソールに石が挟まりやすかったのですが、『神社の参拝に行くとひどい』とか言われましたね。分かってるなぁ~って(笑)。

いまはソール形状をハの字にしたので挟まりにくくなっているんですが、そうすると『完璧なクラウドだと、かわいくない』とか無茶なこともいってくる(笑)。

そういうフランクな付き合いができる仲間がいるのは財産だと思います」

Onジャパン代表の駒田博紀さん

──最後に、駒田さんがブランドを人に伝えていくうえで大切にしていることを教えて下さい。

「マーケティングとか技術的なことだけじゃなくて、自分の思っていることを正直に、誠実に伝えるようにすることが大事だと思っています。

でもマジメすぎると、ともすれば、つまらなくなってしまいます。ですので、ちょっとクレイジーな部分は大切。ずっと敬語で話していても、ツッコミだけタメ口にするとか(笑)。

ショップであれ、メディアであれ、お客さんであれ、誰に対しても尊敬する友達に対するような姿勢を忘れないようにしています」

駒田さんも愛用する最新モデル「クラウドスイフト

Onのランニングシューズ

最新モデル「クラウドスイフト」。手前/Rock|Slate(メンズカラー)、奥/White|Flame(メンズカラー) 各17,380円(税込) メンズカラーはほかに、Denim|Midnight、Black|Rockを入れて4色展開。レディスは、Lake|Sky、White|Limelight、Glacier|White、Black|Rockの4色展開

アーバンランニング用に設計された最新モデル。軽やかなフットワークを可能にしながら、優れた衝撃吸収力により硬い路面で受ける衝撃を抑えてくれます。
アッパーはリサイクルされたエンジニアードメッシュでOnの特徴的なステップインによる簡単な着脱も可能。優れた衝撃吸収力によって、硬い路面からの衝撃から守ることからも、アーバンランニングをサポートしてくれる一足です。

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Photographed by Kosumo Hashimoto(6〜8枚目を除く)

まつい ただゆき

まつい ただゆき

フリーランスエディター/ライター。雑誌で10年、web媒体で10年のキャリアを経て2017年に独立。現在はアウトドア関連の企画・取材・執筆から、webメディアのプロデュース&コンサルティングまで、“編集スキル”を軸に活動中。趣味はキャンプと部屋改造。

feature

価値観が多様化する現代、ブランドはどのようなフィロソフィーの下に、モノやサービスを提供しているのか? 彼らが描く未来像やあり方を解き明かすことで、我々もまた、未来に向けてどのようにあり得るのかを考えていきます。

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