髙阪正洋(CORNELL)

髙阪正洋(CORNELL)

10年という月日が経つと、いま住んでいる部屋も、立場や環境も大きく変わってきます。ただ、たとえ環境が変わっても「これだけはずっと持っていたい」というモノが、ひとつはある……。

そこで、さまざまなジャンルで活躍する方々に「10年後も手放さない」思い入れのあるモノを、31×34.5cmという限りのある『ROOMIE BOX』の中に詰め込んでもらいました。

なぜ、「10年後も持っている」と考えるのか―――。大切に持ち続けるモノについて語る姿から、その人の暮らしが徐々に見えてきます。

作家 桝本壮志


1975年生まれ。広島県出身。放送作家、コラムニスト、小説家。吉本総合芸能学院(NSC)大阪校13期生で、同期芸人にブラックマヨネーズ、チュートリアル(徳井義実)、野生爆弾など。その後、渋谷公園通り劇場の作家となり、『ぐるぐるナインティナイン』で放送作家デビュー。『今夜くらべてみました』、『ナニコレ珍百景』、『世界まる見え!テレビ特捜部』をはじめ、これまでに数多くの番組を手がける。2010年からは母校であるNSCの講師も務め、2020年12月17日、自身初の本格小説『三人』を上梓。
Twitter:@SOUSHIHIROSHO

10年後も手放さないモノ

徳井義実さん、小沢一敬さんからもらった“使えない”プレゼント

いったん別居中なのですが、今年の4月まで、チュートリアル徳井とスピードワゴン小沢のふたりと、三人で暮らしていました。

40歳越えた独身男たちが恥ずかしいのですが、実は誕生日とクリスマスには、毎年かならずメッセージつきのプレゼントを渡し合っているんです(笑)。とりわけ思い出深いのは、彼らから初めてもらったプレゼント

徳井くんからは、万年筆を。きっと、作家としていつか硬めの文章も書くかもしれないと、そんな未来を想像してくれたんでしょう。嬉しかったですね。嬉しすぎて、使えないんですよ。でも使いどきは決めていて、それは彼が結婚するとき。僕か小沢に保証人を頼むのであれば、そこで使いたいと思っています。

小沢は、みなさん知っての通り“ピーターパン”ですから。初めてのプレゼントも奇妙なモノでした。ある夜、3人で集まってWBCの試合を見ていたんです。日本が逆転勝ちして、興奮したんでしょうね、「ふたりにプレゼントしたい!」と突然言い出して。

それもなぜか、「グラサンあげたい!」と(笑)。

徳井くんにはお洒落なレイバンのサングラスを。そして「桝マンにはこれ!」って渡されたのが、絶対Hydeさんしか掛けへんやろ!っていう、このサングラスだった。徳井くんからもらった万年筆と同じく、これもまだ使っていません。こちらは純粋に、掛けたくないから(笑)

ただ、どちらもずっと残しておきたい大切なモノです。

モノって、ストーリーだと思うんです。人に贈り物をするとき、お店に行って、相手のことを考えながら選ぶ。その時間は“僕のためだけの時間”なんですよね。それが透けて見えるから、とっても嬉しい。そして受け取った側が、どうやってそれを使うか、大切にするか。そんな風にストーリーは続いていく。

そしてなによりも、“プレゼントを贈りたい人が隣にいる”って、素敵ですよね。モノを通して、気持ちが交換されていく感じがする。心の交換でもあるわけですね。そういう意味では、プレゼント交換そのものも、たぶん、この先10年以上続けていくんじゃないでしょうか。

起死回生のきっかけになった、芥川龍之介の全集

芥川龍之介の全集は、僕が“ホームレスのような生活をしていた時代”にたまたま拾ったモノであり、いまの仕事を続けるきっかけにもなった、非常に思い入れのあるモノです。

僕は大阪での芸人時代を経て上京したのですが、それからは、渋谷公園通り劇場という吉本の劇場で作家の仕事をしていました。でも、その劇場がつぶれてしまって。ほぼ住み込みで働いていたので、同時に、家もなくなってしまった。

途方に暮れていたところ、当時付き合っていた女の子が「一緒に住んであげるよ」と言ってくれて、その言葉に甘えることにしたんです。毎日、その子から500円もらって生きるみたいな、本当にていたらくな生活をしていた。夜な夜な、そこらに落ちている吸い殻を拾って吸ったりなんかして。働きたい。でも、作家の仕事も諦められなかった

あるとき、いつものように近所を歩いていたら、日本文学全集が山積みで捨てられていたんです。暇やしな~と、なんとなく持ち帰ったそれを読んでいるうちに、「やっぱり俺は作家になりたい……!」という気持ちが、ふつふつと湧いてきました。それで、すぐに企画を書いて、当時は麹町にあった日本テレビに持ち込みました。

いまは静岡第一テレビの会長をされている桜田和之さんが、たまたまその企画書を見てくださって。翌日から、『ぐるぐるナインティナイン』に入ることに。そうして、どうにか生き延びることができたんです。

かれこれ20年くらい前の話ですが、実は後日談がありまして。

徳井と小沢とシェアハウスをしようと物件を探しまわっていた頃のこと。あるとき不動産から紹介されたのが、あのとき彼女と暮らしていたアパートの目の前の物件だったんです。この全集を拾ったのも、同じ街。なんだか不思議なものですが、その街は、僕の原点なんだと思います。

あの伝説的番組の、最終回の台本

番組放送当時、おそらく日本人のだれもが知っていた『森田一義アワー 笑っていいとも!(以下:いいとも)』の最後の台本です。

タモリさんをはじめ、とんねるずさん、ウッチャンナンチャンさん、ダウンタウンさん……そうそうたる面々が一堂に会した、最後の放送回。

この台本には、とにかくいろんな人の愛が詰まっています。背表紙にタモリさんのイラストがあしらわれていたり、スタッフたちのコメントがびっしりと綴られていたり。さまざまな想いが詰まった、32年間の結集です。

僕にとって『いいとも』は、ひとつの転機をくれた、特別な意味を持つ番組なんです

名物企画の「テレフォンショッキング」のゲストに、作家の百田尚樹さんが出演した回でのこと。『探偵!ナイトスクープ』という超人気番組の放送作家を長くやってきた百田さんが、こんなことを仰っていたんです。

「放送作家は裏方なので、僕の書いたものは、ほとんどの人の目に触れることなく無くなっていきます。それを何十年も続けてきた結果、自分自身の文章を、タレントさんやスタッフさんだけじゃなく、世の中のいろんな人に見てほしい。そういう気持ちが芽生えた」と。

僕はいつものようにスタジオアルタの裏でその様子を見ながら、わかる。と思った。もちろん、当時も放送作家という仕事に満足していました。でも、自分の書いたものを人の目にさらしてみたいと、そのときから強く思うようになったんです。

そのときの気持ちに背中を押されて、小説『三人』を書きました。登場人物は、徳井と小沢をミックスさせた芸人、僕自身、そして三人目は読者のみなさん。「僕らのシェアハウスに、読者を同居させたとしたら」というアイデアがはじまりです。

人生のどん底も、数々の失敗も経験してきた僕の書く物語が、いまの読者、そして令和を生きる芸人たちの心の支えになったらいいなと、そんな思いで芸人のリアルを書き上げました。

どんな反響があるか、売れなかったらどうしようと、いまは、めちゃめちゃ怖いです。でも、それも悪くないですよ。あえてそういうところに身を置くことで、見えてくるものもきっとある

僕はNSC東京校の講師を長く務めているのですが、生徒たちに“新しいことにチャレンジするように”と、つねづね言っています。自分の居心地のいいところに居つくな、と。

たとえばスーツ漫才をやっている若手には、もっといろんな洋服を着るように言っています。ともすれば、自分はスーツの漫才師だ、という角度からしかものを見れなくなってしまうので。最初から“専門店”になるんじゃなく、まずは、いろんな店をオープンしてみること。専門性を尖らせていくのは、それからでも遅くない。たとえばSNSだってそうで、Twitter、Instagram、TikTok……とにかく何でも、まずはやってみるのがいい。

日頃からそんなことを生徒に伝えているのですが、そんな自分が、放送作家という場所に居ついてしまっていてはいけない。だからこそ、新しいことに挑戦してみたんです。売れなかったらかっこ悪いけど、その姿も含めて、生徒たちには見ていてもらいたいですね。

生徒たちから贈られた、アホみたいな、夢のかたまり

そんな生徒たちから、さまざまなモノを、数え切れないほどもらってきました。これは、トランプのトランプ。NSC22期生の生徒が卒業するときにくれたものです。生徒たちが僕にしてきた数々のイタズラの写真が、トランプになっています(笑)。

これまで6000人くらいの生徒を見てきましたが、お笑い芸人を目指そうって子たちですから、まぁアホみたいなことばっかりしてきよるんです。教室に行ったら教卓がコタツに変えられていたり、応援うちわを持って無言で席に座っている生徒がいたり。

ある生徒は、「僕は深田恭子さんのことがこの世で一番好きです!お金がないなか、この写真集も買いました。でも、これは桝本さんに預けます。僕が芸人として売れたら、この写真集をめくりたい。それまでは預かっておいてください!」と一方的に写真集を押し付けてきた。ちなみにその写真集は、6年経ったいまでも僕の手元にあります(笑)。


彼らは必死に、なんとか気付いてもらおうと、それぞれにアピールしてくるんです。どんなにアホなことでも、そこには若い子たちの夢が詰まっているから、邪険にできませんよね。徳井と小沢とのプレゼント交換の話にも通じるような、想いの連鎖を感じてしまうんです。

ボランティア活動をする人たちが、ふと、助けられているのは自分のほうだって気づく。そんな話をよく聞きます。講師の仕事も、それと一緒かもしれない。若い子たちと一緒にいると、“教えてもらっているのは自分”だと気づく瞬間があります。人の上に立つって、たぶんそういうことなんじゃないでしょうか。この仕事をはじめて10年経って、ようやく思い至っています。

作家 桝本壮志さんの10年後

10年後も、やっぱり徳井と小沢とは一緒におるでしょうね。ふたりとは、なによりも、同じモノをシェアする喜びがわかっている。ひとつのトースターを三人で使い合うと、そのぶん想いが乗る。三人で暮らした部屋には、三人分の愛着がこもる。だれかと共有することによって、より愛を注ぐことができる

そしてそんな風にしていると、きっと10年後には、モノとの付き合い方もよりよくなっている気がします。

仕事においては、今回小説を書きましたが、僕は物書きである以前に放送作家だと思っています。放送作家っていう仕事が、いまでもすごく好き。だから、世の中の時流を捉えて、みなさんに楽しんでもらえるようなエンタメを作り出す作業は、この先も絶対にやっていたいと思っています

いまから10年前、『鬼滅の刃』やNiziUがこんなにも世間を騒がせているとはまさか想像していなかったように、2030年にはどんな“食材”があるかわかりません。でも、そのときそのときで、うまく調理できる自分でいたいと思っています。

桝本壮志さんのデビュー作『三人』は12月17日(木)発売! ぜひお買い求めください!

芸人二人と放送作家のシェアハウス。そのリアルな生態を浮かび上がらせながら、青年の痛切な日々を描く、青春小説の新たなる傑作!

Photographed by Kaoru Mochida

髙阪正洋(CORNELL)

髙阪正洋(CORNELL)

衣食住にまつわるもの、こと、ひとを、取材・執筆します。CORNELL。

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さまざまなジャンルで活躍する方々が「10年後も手放さない」思い入れのあるモノをご紹介。大切に持ち続けるモノについて語る姿から、その人の暮らしが徐々に見えてきます。

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