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築50年の中古物件をフルリノベーションしたご自宅とともに「みんなの部屋」に出演してくださった、料理家の柚木さとみさん。
今回は、東高円寺駅から歩いて10分ほどの住宅街に建つ、柚木さんのアトリエ「さときっちん」にお邪魔しました。
民家と民家の間にある細い路地を抜けると、「さときっちん」の看板を掲げた築60年以上の古民家がひっそりと。ここで柚木さんは毎月、料理教室を開催されています。
知る人ぞ知る秘密基地を見つけたかのような気分になる佇まいのアトリエは、セルフリノベーションによって完成した居心地の良い空間でした。
お気に入りの場所
友人と一緒に作ったキッチン
家の奥にある開放感のあるアイランドキッチンが柚木さんのお気に入りの場所です。
「コンロの近くに調味料を置いたり、食器を洗ったらすぐにしまえるように食器棚を設置したり、作業動線を考えながら設計しました。
カフェなど飲食店のプランニングもするのですが、自宅の台所で作業効率を考えながら配置したことが仕事にも活きています」
「この白いアイランドキッチンは友人が作ってくれました。
料理教室の日は、ここで生徒さんが作業をすることもありますし、ちょっとしたパーティーを開く時などは、ここで立ち飲みになることもありますね」
カトラリーやグラスを収納している白い棚は、以前、吉祥寺にあったインテリアショップ『MIYAKE』で購入したもの。
取り付けられた揺らぎのあるガラスは、柚木さんのご自宅にも多く見られた意匠です。
背の高い棚にも一工夫
柚木さんのアトリエで印象的なのが、DIYで作ったという、たくさんの調味料を収納した背の高い棚。
「調味料を前後に並べてしまうと、奥のものが取りづらくなりますよね。
この棚は幅8cmくらいの1×4材と2×4材で作っているのですが、調味料を収納するにはその幅を生かした8cmの奥行きで十分。カンタンにDIYできるので、おすすめです」
この調味料を収納する位置にも一工夫が。
「調味料を手に取るときにあまりかがまなくていいように、棚の下段には背の高い調味料を、よく使うものは目の高さに収納しています」
「ハーブなどを入れているのはマヨネーズやオリーブの空瓶、カトラリーを入れているのは中華調味料の空瓶です。カトラリーは自宅同様、木、金属など素材別に分けて入れています」
調味料棚の横は、セイロなどを置いた手作りの棚も。この板はもともと、玄関の床板だというから驚きです。
この家に決めた理由
現在、この「さときっちん」を100%アトリエとして使っていらっしゃいますが、以前は住居も兼ねていたそうです。
「ここを借りたのは2012年。その前は国分寺に住んでいました。国分寺の家でも料理教室をしようと思ってDIYをしたのですが、住み始めて半年ほど経ったときに取り壊しが決まって、急遽、立ち退くように言われたんです。
引っ越しやDIY費用がかかった上に、これから料理教室を始めようという矢先のできことだったので、当時は本当に大変で……」
そこで出会ったのが、この物件。きっかけは、ある方が投稿したTwitterのつぶやきでした。
「以前ここに住んでいた方が、『引っ越すので、次に住む人を探しています』とTwitterに投稿されていたのを、たまたま友人が見つけたんです。
前の家を退去しないといけない状況でしたし、住居兼キッチンスタジオを作りたかったので、すぐに連絡して次の日には物件を見に行きました。その時点で築55年の木造だったので、外観も室内も思った以上にボロボロで、ビックリしたのを覚えています」
リノベーションを頼むことになるであろう建築家と家具屋の友達と一緒に内見した際は、床が傾いているだけでなく、押入れやトイレ、お風呂のドアも無い状態だったのだそう。
仲間の力を借りてセルフリノベーション
ほとんどの友達に反対されながらも、3〜4ヶ月迷った挙句、「自分の好きなように変えられるなら、絶対面白いことになりそう!」と、ここを借りることを決断。
建築家、家具屋、足場職人、画家、陶芸家、元大工など、集まってくれたさまざまな仲間の力を借りて、住居兼アトリエの「さときっちん」を作っていきました。
「リノベーションにかけられる費用は100万円もありませんでしたが、自分で図面を引いて、友達に助けてもらいながらなんとかアトリエを作りはじめました。根太など一部はプロに依頼しましたが、その他はセルフリノベーションなんです」
「床や壁をぬき、天井を無くした、完全なスケルトンの状態に解体した日から、ここに引っ越すまでのリミットは3週間。常時、友達が3人くらい作業していて、なんとか引っ越しの日までに床を先に入れて、前の家から荷物を運び入れました。
そこから壁を作ったり、窓枠を作ったり、照明を取り付けたり。アイランドキッチンも含め、解体から5週間後くらいには、ここで雑誌の料理撮影をしていましたから、今考えるとすごいスケジュールで動いたなと思います」
解体しながら使える廃材などは活用し、前の家で使っていた床材や友人の家で使っていたシンクや室内扉を譲ってもらうなどして、形になった「さときっちん」。
費用をおさえてのリノベーションとは思えないほどに洗練されています。
「トイレ、お風呂、玄関、窓の位置は変えていませんが、割れた窓を閉じたり、ガタガタだったお風呂の柱を補強してタイルを貼ったり。
解体するうちに出てきた梁や柱は、かっこよかったのでそのまま活かしました。今、何が大変だったかを思い返すと、もう全部が大変でしたね(笑)」
残念なこと、気になるところ
冬は寒く、夏は暑い
そうして出来上がったアトリエ「さときっちん」ですが、長い築年数による残念なところも存在しているようです。
「築60年以上なので隙間もありますし、天井を抜いて屋根裏がむき出しになっていることもあって、冬はものすごく寒くて、夏はものすごく暑いんです……」
「天窓から熱が伝わってきますし、網戸もないので夏は蚊が入ってくるから窓を開け放つことができなくて、夏の暑さが大変なので、7月、8月は料理教室をやっていません。
でも最近、アンペア数を上げる電気工事をしたので、今年はエアコンを買い換える予定です。エアコンが効いて涼しくなったら夏も教室ができるんじゃないかと期待しています」
屋根裏がないので、秋になると外にある姫リンゴの木の落ち葉が、屋根と壁の間にある通気口から部屋に入ってくるのだとか。
お気に入りのアイテム
壁を飾る巨大なリース
「結婚式のときに友人のフローリスト・岡本美穂さんがユーカリ、あじさいなど、フレッシュな植物でアーチを作ってくれたんです。
結婚式が終わってから、それを大きなリースにしてアトリエに持って来てくれました。このリースの前で写真を撮る生徒さんが多いです。徐々にドライになり、年々、枯れ具合によって色が変わっていくところも気に入っています」
オーダーした「作業しやすい」テーブル
「アイランドキッチンの作業台がちょっと低いので、作業しにくいなぁと思っていたんです。それを解消しようと、友人がやっているgleamにテーブルをオーダーしました。
まず、テーブルの高さを85cmにしてもらい、椅子もテーブルの下に入れられるように背もたれを低くしました。省スペースを意識しているので、狭い家にも向いていると思います」
生徒さんからは作業しやすいと好評なんだそう。椅子も背もたれが低い分、軽いので移動がとても楽でした。
gleamの照明
「ドラム缶の廃材を使ったこの照明は、gleamの「DRUM SHADE」です。
缶のペイントをそのまま活かしているので、デザインはどれも一点ものです」
男ゴコロをくすぐるようなクールなデザインが素敵ですね。シンプルな照明に少しの個性が欲しい方にはぴったりのアイテム。
Knollのソファ
「15年くらい前に買った『Knoll(ノル)』のソファは、肘掛がまっすぐなので省スペースで気に入ってます。幅が800mmとそこまで大きくないんですが、座面が広いデザインなので、そう見えないですよね。とてもゆったり座れます」
ちなみに、ソファを置いているこのスペースは、もともと押入れだったところを利用したもの。
ソファに座って読書をしたり、パソコンで仕事をしたりする以外にも、ここで暮らしていた頃は、足置きと組み合わせて仮眠を取ることもあったそうです。
廃材を活用したハンガーラック
「この柱は廃材なんです。そこにホームセンターで買ったポールを付けてハンガーラックにしました。
ハンガーラックを付けている壁とペイントは、ROOMBLOOMさんです」
以前からROOMBLOOMの色展開が好きだったという柚木さん。リースを飾っている淡いブルーの壁もROOMBLOOMで塗ったそうです。
プロデュースした「四角い計量スプーン」
「この『四角い計量スプーン』は、私がプロデュースしました。既存の計量スプーンは口の小さな容器の中に入らないことが多いので、それを解消するために作ったんです」
料理好きなROOMIEスタッフもその場で購入を即決。計量部分には便利なメモリも付いていて、重宝しています。
これからの暮らし
「仕事の基本は毎月の料理教室ですが、色々なジャンルの方とのコラボレッスンやイベントなどもしていきたいです。あとは、いずれはアトリエをレンタルスペースとしても活用できたらいいなと考えています。
そのために、ストックルームになっているところを整理して、デスク周りにあるものを移動しようと思います」
多種多様な職業の仲間たちの力を借りて、ピンチをチャンスに変えることで生まれたこのアトリエ。
入居して半年後に立ち退きを宣告されなければ、この場所に「さときっちん」は出来ていなかったのかもしれません。
たくさんの思いが詰まったアトリエは、そこに集う人たちを笑顔に変える空気が漂っていました。
こんな素敵な空間で柚木さんに教えてもらえたら、料理の腕がめきめきと上がりそうな気がしますね。
Photographed by Kenya Chiba
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