岩澤

岩澤

神泉駅から徒歩3分。若手のクリエイターやちょっと尖った新しいお店が入るビルの中に、アトリエ403を運営する久保さんのお部屋があります。

「『場』にある未知に、価値を見出す。」を掲げる会社「NOD」の協力のもと、「浸透」というプロジェクトの一環でつくったというこのお部屋。取り壊し予定の決まっている物件を格安で提供してもらい、久保さん自らセルフリノベーションしてつくりあげたんだとか。

リアルタイムで進化を続ける「403」号室ですが、なんと取材日の1週間後にはビル取り壊しのため、退去が決定していました。

時間的にも金銭的にも制限がある中で、久保さんが大事にしたリノベーションの考え方とは?

名前:久保観丸さん
職業:インテリアコーディネーター
場所:東京都渋谷区
面積:1LDK
築年数:40年以上
住宅の形態:マンション
賃料:2.5万円/月(本来の相場は15万円ほど)
リノベーション費用:12,500円/月

リノベーションをはじめたきっかけは?

「新卒で入った会社の仕事に飽き飽きしてきて、何か新しいことを勉強したいなと思ったときに、漠然と建築に興味を持ったんです。

それでいろいろ調べていくうちに、インテリアコーディネートの町田ひろ子アカデミーっていう学校を見つけて。アメリカから日本にインテリアコーディネーターって仕事を持ってきた町田ひろ子さんが始めた、40年以上歴史がある学校なんですけど。そこに、仕事を続けながら週1で通うことにしました」

「学校卒業後のアシスタント時代、友人に『部屋のデザインをしてほしい』ってお願いされても、どうしてもやりたい雰囲気と内装(まわり縁とかドアの色とか床の色)が合わなくて……。もっと空間はおしゃれにできるって発信したいな、と思って、それなら部屋のリノベーションから手がけよう、と思ったんです。

そんなときに以前作品撮りなどでお世話になっていた『NOD』という会社に声をかけてもらって、この部屋をリノベーションする企画をはじめました」

リノベーション前の部屋。部屋は「NOD」から5万円/月(2部屋合計)で貸してもらっているという

「そこでできたのが、実際にモニターの住民に部屋に住んでもらってから施工をする、『浸透』という企画です。毎月1回『住む→ミーティング→施工』のルーティンを繰り返して住人の生の声を部屋に反映させていきます。

家具から内装をイメージして、こういう内装だったらこの家具が合うよねって、インテリア全体がマッチするように工夫しているんです。まずはじめに家具を置いてから内装をつくっていくから、物がジャマで、施工する度に大変でした(笑)」

自分でできることは自分でやる

「去年の10月からはじめたんですが、やっぱり施工は難しかったです。知識だけなのと、実際にやってみるのとでは、全然違くて……。試行錯誤しながら進めましたね。※取材時は2020年1月

アシスタントでずっとお世話になっていた自分の師匠が、自分でできることは全部やっちゃう人。1回自分でやってみないとわかんないっていう考え方の人だったので……。だから、自分もその姿勢に学んでいる部分はあります。

「古い建物だからかなり歪んでるんですよ。壁のベニヤもきれいに長方形に切ってはめようとしたんですけど、入らなくて……。うまく調整した結果、まっすぐに見えて台形になっていたりするんですよね。そんなふうに、やってはじめてわかったこともたくさんありました」

天井を抜く作業は、2部屋にそれぞれ3人ずつ、1日で終わらせたという

「なるべく既存のよさを残しながら表現していこうと思ったんです。例えば、天井の部分に積み木のように組まれている木は、天井を抜いた時に格子状に組まれていたモノをまばらにカットして、ボンドで繋げて再利用したもの。

天井を抜いたときに部屋の仕切りがなくなって、隣とつながってしまって……。そうすると空調が効かなくなってしまうので、手作業で積み木みたいに木を組んだんです。今まで目に見えてこなかった部分だけど、木としてはすごくいい味がでていたので生かしたいな、と。ちょいちょい黒くなってる部分も、そのまま味として残しました」

「天井を抜いたらパイプ9本ベニヤ3本でコンクリートを抑えてるのが出てきて、それがすごい怖くて(笑)。これとって大丈夫?みたいな(笑)。

ワイヤーがあるのは、格子状に入っていたパイプを抑えていたから。このワイヤーを根元まで切ろうと思ったら、コンクリートの作りが荒くて、きれいに根元まで切れなかったんです。

だから、いっそのこと電気配線も同じくらい無造作にして、あえて乱雑さを出したスタイリングにしていこうって。それもこの空間の味なんじゃないかなって思います」

押入れは白いペンキを塗って、スクリーンにしました。中が暗いから、映像も見やすいんです。スーファミと64はメルカリで買って、男の秘密基地感をレトロに演出してみました。

プロジェクター用の台は大工の友だちに作ってもらったんですが、ちゃんと投影できるように微妙に斜めに作られていて、自分では出来ないことだなと思います」

「ベランダには洗濯機を置いているんですが、もともと洗濯機が外置きの住宅ではないので、外にコンセントがないんですよ。なので、あそこに業務用のランプを置いて、そのコンセントから延長コードで電気を引いています。

業務用のランプって、タコ足配線みたいにコンセントが1個ついていて、そこから洗濯機までコードを伸ばせるんです。だから洗濯機を使うときは自動的に窓が開くっていう……(笑)」

足湯にしたお風呂場

「浴室は、風呂釜をとっぱらって足湯にしました。自分の出身が鹿児島で、ここにもともとモニターで住んでた住民も鹿児島出身の友だちだったんですね。鹿児島は温泉がめちゃあるんですけど、温泉に気軽に行けるようになったらいいねってことで、足湯つくろうって。

すーっごいいいですよ。朝のルーティンが、足湯ためてコーヒー淹れて、コーヒーとPC持ってって足湯で朝の業務をすること」

「大工の友だちは、作ることはできるけどデザインはできない。逆に自分は作業工程はわからないけど、発想はすぐに出てくるから、すごくいいタッグで。

ベニヤで作ってあるから、めっちゃゆがむんですよ。だから常に補強が必要で、粘土が必須(笑)。どうしても予算がない中で、でもやりたいってなってくると、2月までだしってことで、もう割り切るしかない。

夜の22時から次の日の夕方18時くらいまで、寝ずにぶっ通しで終わらせたので……そのせいでちょっと雑になってしまった部分もあって。例えば蛇口をひねる部分。木で囲んだことによって、すっごい狭くなってしまって、指を入れて蛇口をひねるしかないんです(笑)」

お金の使いどころを考える

「人工芝は、100円ショップで買った人工芝のパーツを100枚組み合わせて作っています。トータルで税込11,000円ですね。

人工芝も、キャン★ドゥとダイソーで違うんですよ。ちょっと色が薄いのがキャン★ドゥで、この分厚いのがダイソーなんですけど、ダイソーの方が断然いいです! でもやってみないとわからなかったし、何事も経験ですね。

人工芝って綺麗なロールもあるんですけど、一個一個色が違う、この雑さがいい。雑でもちゃんとやり切ったらそれなりになるよってことが伝えられたら一番いいし、考えてやっているなら全然アリかなって」

(予算はどのくらい?と聞いてみると……)

「『NOD』の物件を使ったプロジェクトでやっているから、材料は格安で譲ってもらったりはするんですけど……施工費は1月あたり、上下の部屋それぞれ12,500円の予算でやってます!(笑)」

「アートのお店で働いてることもあって、価格感についてはよく考えます。高いものを買ったからってオシャレになるわけじゃないって思うんです。

こうやって雑誌の切り貼りを100均の額に詰めてみるだけでもそれなりに見えるし、逆にそのメリハリがあって、よりこっちの高いアートが引き立つし……。

町田ひろこアカデミーのときの同級生(年上の方)が、イエローコーナーっていうアート写真の店の代表だったんですけど、その方がバイトに誘ってくれて。

そこで働くうちに、なんで海外と日本はこんなにアートに対する価値観が違うんだろうって考えるようになったんです。壁に穴をあけられないから、アートを飾ろうってならないのかな、とか……。

日本人は部屋の広さを『何平米』で考えるけど、海外の人は『立方体』で考えるんですよ。空間デザインとして、床だけでなく、壁とか天井とか、上まで使う。だからこの部屋も、天井を開けば部屋として広くなるなと思ったんです」

女性の部屋も手がける理由は?

上の階には、制作途中だった女性の部屋が

「最初は女性の部屋のデザインはできなくて、自分が思うかっこいいテイストのデザインしかできなかったんですけど。そんなときに学校の先生に『あなたは女性の勉強をしなさい。あなたができるようになったら、男性の部屋も女性の部屋も作れる唯一無二だから』って言ってくれて。

そこから化粧品のブランドを勉強したり、雑誌を読んだり、たくさん勉強したんです。そしたらすごい面白くて。だからこの部屋をデザインするのも、すごい楽しかったです」

カルテルのフィリップスタルクがデザインした椅子

「男の子の部屋は、素材感も置いてる家具もチープにそろえたんですよ。モノにお金をかけるより、趣味とか、もっと違うところにお金かけていく感じ。

で、逆に女の子の部屋は、自分たちの年齢でできるラグジュアリー感を出したかったんです」

「ソファーの脚って木であることが多いんですけど、このFrancfrancのソファーの脚は、こんなに細くてアイアンっていうのが珍しいし、ベルベットなのもいいねってことで、メインで置くことにしました。

す~~~~っごいいいんですよ。本来の場所に置いたら。今はまだ作り途中なんで、仕方なくここに避難させてます(笑)」

ソファを置くはずの壁には、塗料やCFの残りが

「この大理石風の床は、CF(クッションフロア)を使っています。マンションとかだとトイレや脱衣所に使われる素材で、安いんですよ。メインで見えるところは大きい1枚で伸ばしています。

まわり縁やドア枠などは全部白で統一して、寝室に行くにつれて濃く、暗い色の雰囲気にしています。いい意味でも悪い意味でもこの家って仕切りがないので、生活の中でオンオフがつけられるように、空間を区切る工夫は必要かなと」

「部屋のデザイン(カラー)を考えるとき、女性誌を参考にすることが多いです。特にCYANっていう雑誌はよく読みます。流行のカラーは、ファッションのあとにインテリアにも入ってくることが多いので、先取りかなって。

CYANの面白いところは、メイクがアップで写るところ。1クールに1冊しか出ない中で、トレンドのカラーを見たり、合わせ方を勉強できたりするので、面白い。

カラーリングに関しては、ナチュラルに合わせるほうが住むときにはいいけど、企画として派手さを持たせるためには勝負にでないといけない部分もあったので、結構悩ました。ピンクに白はすごい合ってたと思うんですけど、紫に白は結構挑戦だったんですよ。でも失敗してもいいやって感覚でやってみると、意外とありだねって」

そこにいる時間が楽しくなる部屋

「施工が本格的に始まったのが2019年の10月末とかで、2020年の2月にはビルを退去しないといけないから、時間が足りなくて。この企画をやるためにアシスタントの仕事を1回中断してきたり、自分もいろんな葛藤があったんですけど……。でもまあ、やりたい、やるしかないって。それで2部屋ほぼ同時に始めて、12月いっぱいで男の子の方の部屋は作り終わりました。

感謝祭を開くきっかけになった「premium」 2020年1月号

この部屋を作るのに計20人ぐらいの人が手伝ってくれてるんですよ。その人たちみんなにありがとうって伝えるために感謝祭を開きたくて、年末にコーヒーのイベントをやったんです。そのイベントに間に合わせるために、こっちの部屋だけ先に終わらせたっていうのもあります(笑)」

「ドイツ人はどんなに汚い服を着ていても、家の中が汚いことの方が恥ずかしいって考える人が多いって聞いたことがあって。だけど日本人って、ファッションにはお金をかけても家の中にはあんまりお金をかけないですよね。毎日過ごしてる部屋なんだから、そこに自分の好きなこだわりを持っている方がいいんじゃないかなって思うんです。

あとはこの部屋を作っていく中で、全部が繋がっていくのが面白くて……。何か行動を起こしたらそれに伴う何かがあるから、それをちょっと楽しむようにしてます」

Photographed by Kayoko Yamamoto

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岩澤

好きなものはグレッチのギター、塩バターあんぱん、シメサバ、珈琲屋らびっと、いんでいら道玄坂、ジャックパーセル、ポーターのサコッシュ、PASS THE BATON、ヘリーハンセンのバックパック、本屋さんに置いてあるジャンク品。 好きな人は椎名林檎、望月ミネタロウ、坂元裕二、岸田繁、西加奈子、あばれる君。

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中古物件を自分にとって最適な空間に生まれ変わらせることができるリノベーション。しかし、費用はどれくらいかかるのか、物件はどう探すべき、業者にはどう相談すべきかかなど、いくつかのハードルが存在します。「RENOVATION STORY」では実際にリノベーションを行った物件を訪れ、オーナーに踏み切った経緯や部屋づくりのコンセプト、苦労した点などを徹底リサーチ。一括りに語られがちな「リノベ」の持つ多様性と、リユースカルチャーを紐解きます。

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