橋本 尚和

橋本 尚和

生活を送る上で、どんな家に住むのか以上に、どんな街に住むのか、も大きな問題になってきます。

でも、私たちが暮らしている「街」って一体何なんでしょうか?

例えば都会に賃貸物件を借りたらご近所付き合いなんてたまに挨拶をする程度で、気にすることといえば、迷惑にならないようにゴミ出しのマナーを気をつけるとかそれぐらい。

多くの「街」ではそんな風景が普通になっているように思います。

でも、それって本当に理想的な「街」のあり方なんでしょうか?

そんな常識を打ち破る、とんでもなくクリエイティブな「まちづくり」をしている人たちに、千葉県松戸市で出会いました。

「MAD City」って?

話を伺ったのは、「(株)まちづクリエイティブ」代表の寺井元一さん。

松戸駅西口を主としたエリアで、「MAD City」というまちづくりプロジェクトを運営しています。

松戸駅西口の風景

DIYを前提に物件を貸す不動産業や新規事業のサポート、国内外からアーティストの制作を支援するレジデンスづくりなど、多岐に渡る活動をしています。

取材にお邪魔した「MAD City gallery」

彼らが、開始当初から掲げているのが、以下の7つのヴィジョン。

・クリエイティブな自治区をつくろう。
・刺激的でいかした隣人をもとう。
・地元をリスペクトし、コラボを楽しもう。
・変化を生み出そう。新しいルールを発明しよう。
・仕事場も住居も、DIY精神で自由に創造しよう。
・河辺でも通りでも駅前でも、街を遊びつくそう。
・東京のみならず、世界とどんどんつながろう。
(引用:MAD Cityとは https://madcity.jp/concept/ )

どれも普通の街とは全く違う方向性のものばかり……。

なんでそんなまちづくりができるのか? どんなことを考えてやっているのか……?

寺井さんに質問をぶつけてみたら、わたしたちの暮らしを豊かにするヒントが見えてきました。

まちづくりとは、自治区をつくること

そもそも何をやろうとしているのか?と聞くと、

「MAD Cityがやろうとしていることは、自分たちでクリエイティブな自治区をつくろうっていうことです」

と寺井さん。

メインの事業は不動産業ですが、それはあくまでも「クリエイティブな自治区を作る」という目的のための手段でしかないといいます。

「収入による入居審査」や「原状回復」の概念は存在しない

ROOMIEの「みんなの部屋」で過去に紹介した古平賢志さん・万歳夏恵さんの暮らす部屋もMAD Cityの物件。
部屋中を自由にDIYされています。©︎Norihito Yamauchi

MAD Cityの取り扱う物件はDIYが可能なものばかり。

賃貸物件によくある、収入状況による入居審査や、入居後、破損させてしまった箇所を元に戻す原状回復の義務がないといいます。

とはいえ、物件を貸すには、何かしら審査をする必要があるはず。

どういった仕組みになっているのかと聞くと、帰ってきたのは驚きの答えでした。

「入居者に求めているのは、クリエイティブマインドがどれくらいあるか。だから家賃が払えるか、収入の保証を見るのではなく、ポートフォリオを見て判断していきます。

その人が家をいじっていくこともウチの価値なので、どんな改装をするかによって、僕らのビジネスが上がるか下がるかが決まってくる。大家は僕らになるので、解体されたらさすがに困る、とかはあるんですけどDIYの自由度はかなり高いですね。

実際に、DIYをした入居者が退去した後、新たな入居者が借りる時には、家賃は上がっています。

他の不動産業の賃貸物件において、常識である『与信』まったくしないですし、『原状回復』っていう概念もありません。そもそも、僕らには原状を超えていくっていう概念しかありませんからね

住人がそれぞれのライフスタイルを開発する

DIYの具体的な事例は50〜70ほどあるそうで、中にはIKEAに勤める住民によるものや、大工さんが新しい工法を試してつくった物件もあるのだとか。

まちづクリエイティブのオフィスも古い木造家屋をリノベーションして作られている。

そのなかでも寺井さんの印象に残っている物件を尋ねたところ、信じられないような事例もちらほら。

工場を貸したら、その中に小屋を建てて、そこを小さい家として使っていた人がいました」

「工場は暮らすことが想定されていないので断熱とかもされていないし、夏はめちゃくちゃ暑い。

でも、ものすごく自由な空間。本人はそこを面白がって、住んでみたくなったみたいです」

工場の中に小屋を作った物件

「小屋の中だけは断熱して、エアコンも設置するっていう工夫をしていましたね。実際に部屋を見に行ったら、工場の天井に洗濯物がたくさん干されていたんですよ。

『なんであそこに洗濯物干してるの?』って聞いたら、『いやぁ、なんかあそこ、めっちゃ乾きいいんすよ』って。

そりゃあ、そうじゃないですか(笑)。だって、すごい熱な訳ですから。

でも、工場の屋根の部分がめっちゃ洗濯物が乾くスペースになる、なんてことは僕は計算できていなかった。彼自身も、たぶん計算できていなかったんじゃないんですかね。

これって、ライフスタイルすらも開発しているような話じゃないかなって思うんです。

実際に手を動かしてみて、手数を重ねていくことで、初めて気がつくものこそが、クリエティブなんじゃないかなと。

自分たちなりに、インプットを入れ続けながら、試行錯誤していくみたいなことが大切だと思っています」

あえてリスクをとる

「僕らは松戸を『実験室』とか『研究室』だと思っているんです。

『まちづくり』においては、アイデアを試すことは、リスクがとても大きいことなので、それ自体がとても難しい。

でも、クリエイティブにおいては、やったことがある人にしか分からないことって、たくさんあるじゃないですか。

実際にやってみたらちょっと思うようにいかなかったこととか、そこから発明が生まれるみたいな話があるし。さっきの工場の中に小屋を建てた人の話もそうだし。

僕らは、まちづくりを通してそういうことをやろうとしていますし、松戸をそういう風に捉えています」

住居を自分の手で作る過程のなかでは、当然失敗してしまうことも少なくないはず。

失敗すれば自分の住環境が悪くなるだけじゃなく、貸す側が損害を被る場合もあるはずで、だからこそ一般的な賃貸住宅には原状回復義務がある。

でも、あえてリスクを取ることで現状を超えていくMAD Cityの姿勢が、そこに住む人のクリエイティビティを触発しているのかもしれません。

出入り自由な人の集まりから文化が生まれる

2010年の活動開始以来、クリエイティブな場所やモノが生まれる土壌を築いてきたMAD Cityですが、意外なことにコミュニティデザインのような取り組みは、あまり積極的に行っていないのだそう。

MAD Cityが行っているのは、既存のコミュニティみたいなものに入って仲良くしていくのではなく、あえてそこから適度な距離をとり、「自分たちで出入り自由な人の集まりをつくる」こと。

「僕らは、イベント箱みたいな物件をひとつ持っているんですけど、そこではDJイベントが結構行われています」

レンタルスペース「FANCLUB」

「その箱で、たくさんイベントをやっているのが、地元の60代くらいの人たちなんですよ。

一方で、いまの若い世代は、高校生ラップ選手権とか、フリースタイルダンジョンとかの影響もあって、ラッパーが増えています。

60代のDJのイベントに、20代のラッパーが参加する、みたいなことが実際にMAD Cityでは起きていますね。

世代の垣根を越えて、一緒にバック・トゥ・バックしたりとか。その箱で月に3〜4回はイベントやって、一緒に遊ぶようになっていますね」

「地元の60代くらいの人たちがDJになった事の起こりは覚えています。もともとウチはお神輿が入ってくる神酒所と呼ばれる場所を事務所にしていたんです。地元の人たちは、ちょっとした飲み会などはその神酒所でやるんですね。

そこで、一緒に忘年会をしていた時に、誰かが持ってきた余っていたミキサーがあったんですよ。僕らは持っていたノートPCを2つ並べて、ミキサーを繋いで、音源を両方から掛けて、右から左にフェーダーを切るっていうのをやっていたんです。

そしたら、50代とか60代の人たちにすごくリクエストされるようになって。ファンクから始まって、『アース・ウィンド&ファイアー』とか、その世代の人たちの曲をいっぱい掛けろって言われるんですが、僕らは知らない。

しびれを切らしたのか、『俺たちがやる』って言い始めて、最終的には彼らにPCすら乗っ取られてしまいました。その後、PCを貸していた人が『俺、PC DJのコントローラー買っちゃった』って(笑)

ニューヨークのブロンクスでレコードからヒップホップが生まれた例がありますけど、なんか、それの日本のおじさん版みたいなものを見た気がしました。

すごい話なんですけど、これが文化の起こりだなあ、と思いましたね

人間の可能性を最大化する「まち」

「まち無しに生きていける人って、ほぼいないと思うんですよ。

基本的に、まちづくりって生活圏をつくるっていうことじゃないですか。

生活圏が自分の人生にいちばん影響を及ぼすんだろうな、とも思っています。だから、自分がどんな街にいるのかっていうことが、自分の幸せっていうものをかなり変えるんだと思います。

ここ数年、MAD Cityでは、クリエイティブな尖ったお店がたくさん出店するようになってきました。その中には、週末限定でお店を開くチャレンジレストランのようなものも出てきています」

「自分が何かをしたいと思った時に、後ろ向きな力がかかることと、後押しをしてくれる力がかかることがありますが、それは、その人の人生を大きく左右するんじゃないかなって思うんですよね。

それはまちも同じだと思っていて、自分のやりたいことが叶うまちもあるし、叶わないまちもあるんです。

僕の中でですが、人間の可能性とか、やりたいことを応援する・しないというのが、まちのいちばん重要な機能だと思っています。

MAD Cityとか、ぼくらのまちづくりにおいては、そういうことを最大化するためにやっていますし、そのために、僕らは、まちを扱っているのです」

MAD City

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橋本 尚和

1992年京都府出身、大阪府育ち。上京2年で4度の引っ越しを経て、さいたま市在住。大きなリビングのある、お家が好き。迷った時は「ワクワクする方へ」がモットー。自由気ままに暮らしてます。

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