「短歌」には伝統、古いイメージがあるかもしれませんが、意識を向けてみると、140文字より圧倒的に少ない“31文字”のことばに、詰まっているストーリーの豊富さに驚きます。
ハッとしたり想像が膨らんだりするのがとても楽しく、日々にクリエイティブな視点を与える気がしています。
その月に合ったテーマで月1本、リレー形式で毎月異なる歌人の短歌を、描き下ろしの10首連作でお届けする企画。連作の中にある展開やストーリーを、短編小説を読むように楽しんでみてください。
第6回目の歌人は尼崎 武さん、テーマは「春」。
春の道かけるかける
死に方でいえば練炭自殺とか凍死の旬がもう終わる頃
ふんだんに朝日の入る寝室で目覚めた瞬間から春まみれ
手を洗う水が最近だらしない つられて頬もゆるんでしまう
胸にある暖炉のことを話そうとしても口から煤ばかり出る
寄りかかりすぎてきみごと倒れてく 人は地面に固定されてない
かんたんに愛とか口にするくせにいちいち重みがあってずるいよ
桜の下で食べたおでんが春だった だし巻きたまご入っていたし
春風のなかに崩れていくときもぼくの輪郭がずっとぼくだ
はじめて通る道の終わりではじめて見たでかい木のことたぶん忘れない
花びらをパンの代わりにばらまいてどこへでも帰れる道にする
1979年佐賀県生まれ。アーティスト奥井亜紀のファンであり、彼女が参加したトリビュートCD『君の鳥は歌を歌える』を通して枡野浩一と短歌を知る。2002年から短歌をつくりはじめ、「枡野浩一のかんたん短歌blog」などに投稿。2009~2011年に同人誌『屋上キングダム』に参加。2015年に枡野浩一短歌塾(第4期)を受講。2017年に歌集『新しい猫背の星』を出版。
twitter:@amagatak
illustrated by ki_moi
第二回目:コインチョコ、ひと月前の指定券、ジョーカー、行けるとこまで行こう(平岡 直子)
第三回目:思い出が狛犬になるカーテンを閉じたらたった一人だけれど(北山あさひ)
第四回目:わたしはピノをあなたはガツン、とみかんを買いコンビニを出るうろうろ歩く(永井祐)
第五回目:虫が出たことに全く興味ないねこは前足たたんで座る(山川藍)
第六回目:ストローでホットコーヒー吸ふやうなさみしい恋もとうに終はつて(染野太朗)
第七回目:巻き込まれ型のへなちよこ探偵のやうな一日たぶん明日も(本多真弓)