「短歌」には伝統、古いイメージがあるかもしれませんが、意識を向けてみると、140文字より圧倒的に少ない“31文字”のことばに、詰まっているストーリーの豊富さに驚きます。
ハッとしたり想像が膨らんだりするのがとても楽しく、日々にクリエイティブな視点を与えてくれる気がしています。
その月に合ったテーマで月1本、リレー形式で毎月異なる歌人の短歌を、描き下ろしの10首連作でお届けする企画。連作の中にある展開やストーリーを、短編小説を読むように楽しんでみてください。
第6回目の歌人は本多 真弓さん、テーマは「お風呂」。
この舟に
きみに逢ふために存在した駅がまだここにあるふしぎきさらぎ
神の名をみだりに口にするやうにひとにふれたいわけでもなくて
薪で焚くお風呂があつた祖母の家 火の神様を祖母は見てゐた
火の神様を見たことのないわたしにもひねればお湯のでるパラダイス
冬の夜 ふゆのくうきをすひこんだふゆのからだをふかくしづめる
巻き込まれ型のへなちよこ探偵のやうな一日たぶん明日も
観客のゐない儀式はおごそかに まはすあしくび もむふくらはぎ
この舟にまどろむなかれ火とみづの婚姻譚をとほく聞きつつ
からだごと逢ひにゆくとき置いてゆくこころのことは忘れてもいい
届かないきもちがあつてもどかしい火は盗まれるたびに生まれる
1965年静岡県生まれ。未来短歌会所属。2004年「枡野浩一のかんたん短歌blog」に投稿開始。2006年未来短歌会に入会し、岡井隆氏に師事。2010年未来年間賞受賞。2012年未来賞受賞。2017年12月14日に第一歌集『猫は踏まずに』を六花書林(りっかしょりん)より発売。
twitter:@mymhnd
illustrated by ki_moi
第二回目:コインチョコ、ひと月前の指定券、ジョーカー、行けるとこまで行こう(平岡 直子)
第三回目:思い出が狛犬になるカーテンを閉じたらたった一人だけれど(北山あさひ)
第四回目:わたしはピノをあなたはガツン、とみかんを買いコンビニを出るうろうろ歩く(永井祐)
第五回目:虫が出たことに全く興味ないねこは前足たたんで座る(山川藍)
第六回目:ストローでホットコーヒー吸ふやうなさみしい恋もとうに終はつて(染野太朗)