アパレルショップで仲よく買い物を楽しむ親子……ではない。今回の取材先である手島さんのお宅でのひとコマだ。
海水浴や町歩きを楽しみに遠方から人々が訪れ、一年でいちばん賑やかな季節をむかえていたある日の葉山。大通りから小道に入ると、のんびりとした日常の空気が流れる住宅地。そこに建つ一軒家で、悠太さんと奥様の満夕さん、一歳5ヶ月の長女羽菜ちゃんの3人は暮らしている。
職業:デザイン関係(悠太さん)
場所:神奈川県三浦郡葉山町
面積:90㎡ 1LDK
家賃:非公開
築年数:築2年
お気に入りの場所
店舗のようなクローゼットスペース
玄関を入るとショップのようなカウンターに、ズラッと並ぶ洋服や小物たち。初めておじゃました人なら、「ああ、お店をやってるんだな」と思うほど。
この家は、“半分建て売り”の形で販売されていたもので、店舗兼住宅としても使えるように設計されていた。居住用として購入したが、もともとの雰囲気が気に入り、ほぼそのまま残す形で家づくりを進めたという。
「不動産会社に見せてもらった店舗想定の完成ラフがとても素敵だったので、その雰囲気に合わせてデザインを考えていきました」(悠太さん)
右壁の中が寝室。足場板を使った壁が、店舗(……ではないクローゼット)の白い壁とモールテックスの床に効いている。
ホテルのようなバスルーム
1階は、クローゼットスペースと寝室、バスルームがある。購入時の状態を活かして、棚などは造作した。雰囲気を崩さないよう、タオルや小物類の色味も統一しているこだわりよう。
アイアン作家がつくったキッチンユニット
キッチンユニットは、アイアン作家がこの家に合わせて製作したオリジナル。鉄パイプと足場板を加工したインダストリアルな雰囲気が魅力的だ。無印良品などのグッズをうまく利用して、棚に合わせて収納を工夫している。
リビングからつながるウッドデッキ
リビングから目線を遮ることなく、そのまま広がるウッドデッキが気持ちいい。
「屋上を作るかウッドデッキを拡げるか迷ったんですが、リビングからすぐに出られるバルコニーのほうが日常的に使えるかなと、ウッドデッキにしました。前の道路は住人くらいしか通らないので、夏はこども用プールを出したり、ごはんを食べたり、人の目を気にせずに過ごせます」(悠太さん)
この家に決めた理由
「数年前までは、都内に住んでいました。転職した会社がたまたまこっちだったので、しばらくして由比ガ浜に引っ越したんです。こどもができたこともあって、家を建てようかということになり、土地を探しはじめました」(悠太さん)
家を建てようと考えていた中で、建て売りのこの家に決めた理由は?
「葉山にはそれほど詳しくなかったんですが、海も山もあるし奥さんがピンときたらしくて。とりあえず鎌倉にある不動産会社エンジョイワークスが主催する、“自転車で街を観光しながら物件をめぐるイベント”に僕ひとりで参加してみたんです。その時にこの家を見て、いいかもと思って。次の週にはふたりで見に来ました」(悠太さん)
この家は、エンジョイワークスが提案しているスケルトンハウス。2017年グッドデザイン賞を受賞した新しい家づくりのスタイルだ。通常はスケルトン(骨格)の規格は決まっていて、インフィル(内装)を施主が自由にコントロールするスタイルだが、ここは湘南に暮らすふたりのアイアン作家が共同製作した階段、ドア、キッチン、照明などがついた半分建て売りの物件だった。
「最初からテイストがつくられていたので住んだ後のイメージが描きやすかったのも、この家に決めた理由かもしれません」(悠太さん)
残念なところ
収納が少ない
「この家は本当に、ものを隠す場所が少ないんです。1階は丸見えだし、2階に作り付けの小さな収納があるくらい。薬箱とか説明書とか、細々した生活感が見えるものはそこに入れています。おのずと取捨選択して必要な物しか持たなくなるので、今ではよかったと思っていますね」(悠太さん)
お気に入りのアイテム
DIYしたテーブル
これも作家さんの造作かと思いきや、悠太さんがDIYしたものだという。WOODPROで取り寄せた板にアイアンの脚を取り付け、家の内装に合うデザインに。
「もともとの内装に合わせて、後から置く家具を揃えていきました。アイアンの黒、木材、相性のいいカーキの3色を基準の色にしています」(悠太さん)
コーヒーグッズ
シンク上の棚には、悠太さんの趣味であるコーヒーグッズがずらっと並ぶ。石かわ珈琲やTHE GOOD GOODIESなど、鎌倉のコーヒーショップで豆を購入することが多いという。
子ども用の机と椅子
羽菜ちゃん用のデスクは、満夕さんの実家がある岐阜の家具屋さんで購入したもの。玩具は木製など、インテリアにもなじむ自然素材のものを選んでいる。
小川キャンパルのモノポールテント
アウトドアは、悠太さんの趣味のひとつ。組み立てると遊牧民が暮らしているような円錐形になる小川キャンパルのテントを愛用している。
「羽菜がもう少し大きくなったら、一緒にアウトドアに出かけたいですね。最近葉山近くに『ソレイユの丘』っていうきれいなキャンプ場ができたんです。ワイルドな場所も好きですが、こどもがいると設備が整っているのはありがたいですね」(悠太さん)
暮らしのアイデア
アイテムは厳選して多用途に使う
「収納がないので、引っ越しを機にたくさん断捨離しました。結果、すごくよかったですね。人ってそんなに物はいらないんだって思いました」(悠太さん)
「1個買うなら、2、3個処分する」「シンプルで長く使えて、味が出るものを選ぶ」「アウトドアアイテムを家でも使う」など、必要なものをきちんと選んで用途を区切らないのが、手島家のすっきり暮らす秘訣のようだ。
パイプをカットして物干し竿に
外から見えるウッドデッキは、家の外観を左右しやすい場所。黒のパイプを注文して端を自分で処理し、物干し竿として使っている。盲点だったが、確かにふつうの物干し竿では一気に生活感が露出してしまう。
これからの暮らし
「これからも葉山に住み続けたいですね。都内は都内の楽しさもあって好きなんですが、引っ越してきて生活がまったく変わりました。休日の過ごし方ひとつでも、東京だと『このお店がおいしいから行こう』という感じだったのが、ここだと『この時間のここで観る夕日がきれいだから行こう』という具合に」(悠太さん)
「きっと都内に住んでいたら、休日に気兼ねなく家族で出掛けられる場所って限られていたと思うんです。ここはだいたいどこも大丈夫。お隣さんの敷地とも壁がないから、子どもにとっては近所も庭のようなものです。家の外に出るだけでいつのまにか友だちになっていたりするのがいいですね」(満夕さん)
店舗想定物件を逆手にとって、すっきり暮らす手島一家。羽菜ちゃんがもう少し大きくなったら、ここでお店屋さんごっこをする姿が目に浮かぶ。
こちらもおすすめ:
Photographed by Shinichiro Oroku