中野駅から約15分、新井薬師前駅から7分ほど歩くと真言宗豊山派の寺院・新井薬師 梅照院がある。春には満開の桜、夏には縁日や盆踊りの賑やかな音、大晦日には除夜の鐘が鳴り響くそのお寺の近くで、奥様と猫2匹と暮らしている、きだてたくさん。
色物文房具専門サイト「イロブン」を運営し、文房具ライターやステーショナリー企業・モリイチの広報として活躍するきだてさんと、猫2匹との暮らしを描いた『おまかわ』などを手がける人気漫画家・栗原まもるさんご夫妻の住まいを訪ねた。3,000点以上の色物文房具や漫画など、ふたりのコレクションした宝物がぎゅっと詰まった空間だ。
職業;文房具ライター(きだてさん) 漫画家(栗原さん)
場所:東京都中野区
面積:55㎡ 3LDK
家賃:18万円
築年数:築26〜27年
お気に入りの場所
ふたりの仕事部屋
フリーの文房具ライターだったきだてさん、現在はモリイチの社員として「森市文具概論」の運営など任されている。会社から帰宅後、すぐに向かうのは仕事部屋だ。
「モリイチの社長から文房具コラムメディアを立ち上げるのに協力してほしいと声をかけてもらって、今年4月から社員として働くことになりました。社長は僕が連載していた『デイリーポータルZ』のファンだったということもあって。会社から帰ってくるとすぐに仕事部屋に行ってメールチェックや執筆をしますね」(きだてさん)
3,000点以上がコレクションされている文房具部屋
そもそも、関西で生まれ育ったきだてさんは、小学校低学年で“おもしろいことを言う人気者”のポジションを掴むべく、学校に合法的に持っていけるおもしろグッズとして文房具を探り始めたのだそうだ。カレーの香りの消しゴムやゲーム盤になる下敷きなど、たしかにクラスに持ってくる人がいたなと思い出して、なんだか懐かしい。その後中学、高校に進み、字が綺麗に書ける道具が欲しい思いで、さらに研究を重ねたという歴史が、きだてさんにはある。
この家に引っ越す際、「まず個室が欲しい」とお願いしたきだてさんの文房具コレクション部屋は、圧巻の一言に尽きる。まず目に入るのが、3,000以上もの文房具を収納した、壁一面の棚だ。「パンチギミックがあるボールペン」「神頼み系の文房具」「特撮アニメ」「ディズニー」など、カテゴリーごとに分類されている。
「文房具レビューのための写真撮影や、『デイリーポータルZ』で変な文房具を作る工作系記事のための作業は、この部屋でします。日々おもしろいアイデアはないかと思いながら工作していますね。例えば、これはコタツペンです。
この棚は20年くらい前から増やし続けていて、一部メーカーが違うものもありますが、ほぼホームセンター・コーナンのオリジナルで980円くらいです。後ろに倒れ防止の器具をつけてます」(きだてさん)
透明な引き出しは気になる文房具が透けて見えていて、「これは何?」と質問せずにはいられない。取材陣が悲鳴をあげたのが、この鉛筆削り。目に鉛筆を入れると口から削りかすが出てくる……。
ダイニングやリラックススペースとして使う和室
栗原さんのお気に入りの場所は、和室。結婚前から使っているウッディな家具や服の収納、趣味の編み物グッズが置かれている。
「テレビを見ながらネームを書いたり、編み物をしたり。自分だけの個室がないので、この和室を半分私物化しています(笑)」(栗原さん)
この部屋に決めた理由
結婚を機に引っ越しを決めたふたり。ライターと漫画家という仕事柄、共同で使える仕事部屋があることが必須条件だった。かつ、きだてさんの文房具部屋が確保でき、2匹の猫と一緒に暮らせて、使える路線が2線以上あること、これらの条件に合う部屋が今の住まい。
「物件サイトで探していましたが、敷金を増額しないと貸してくれないところも多くて、猫OKの物件を探すのは本当に大変です……」(栗原さん)
「取材などで夜遅く帰ってきても、使える路線が多ければ多いほど移動がラクなんです。特に中央線は新宿にも吉祥寺にも、いろいろな街に出られます」(きだてさん)
残念なところ
仕事部屋をもうちょっとスッキリさせたい
パソコン、プリンター、本棚、テレビなど、ふたりの必要不可欠な仕事道具がたくさん。椅子と窓の隙間もギリギリで、プリンターまでアクセスするのも困難だという。
「引っ越しするときに大量に断裁してスキャンしたんですけど、それでもこれ以上本棚に本が入らないので、何か買ったらその分手放すようにしています。一応、夫と私とで入れる場所を分けてるんですが、私の漫画を収納するスペースがもうないので……こそっと夫のコーナーにしまってます(笑)。あとは、電子で買うしかないですね」(栗原さん)
キッチンがちょっと狭い
仕事部屋に隣接しているキッチンは、収納に工夫がされ、栗原さんの好きな乾物などがたくさん置かれている。栗原さん曰く、「広いキッチンや、ソファのあるリビングでくつろぐのが夢です」とのこと。
お気に入りのアイテム
きだてさんが工作した文房具
USBでバッテリーを繋ぐとラバーヒーターがついて、冬の冷えた手を温めながら文字を書くことができるペン。食べ終わったみかんの皮など細工が細かく、つい笑ってしまう。
TAMIYAのロボクラフトシリーズとハサミを組み合わせた「殺人マシーン」は、制作記もある。
林刃物の厚紙切り
文房具の買い付けに忙しいきだてさん。中国や台湾へ足を延ばしたり、国外旅行の際には必ずチェックする。そうして集めた中からお気に入り文房具を教えてもらった。
「ハサミやカッターが好きで、メーカーの新作をチェックしては切れ味など使い心地を確かめます。ポリシーとしては、基本的には自分で買ってレビューすることです。この『厚紙切り』は、一般的なハサミの刃が厚さ1〜1.5ミリなのに対し3ミリもあって、段ボールやプラ板でも簡単に切れますし、10年以上使っていますけど切れ味も落ちていません」(きだてさん)
PLUSのノリノプロ
「テープのりって、使っているうちにたるみますよね。でも『ノリノプロ』は内部に特殊ギアが入っていて、たるみトラブルが一切出ないんです。ツイッターで『テープのりの中で一番おすすめです』って書いたら開発者と対談することになって、記事にもなりました」(きだてさん)
BOUDAIの定規扇子
夏によく使う定規扇子。文房具の人とわかりやすいのでお気に入り。
ディズニーのギミック付きペン
ミッキーとミニーの顔を近づけると、ふたりが目を閉じるのがなんともかわいらしいペン。
「中にマグネットが入っていて目を閉じるんです。これはディズニーストアで購入しましたが、ディズニーの文房具はファーストロットしかないものがほとんどなので、見つけた時に買わないとなくなってしまうほどローテーションが早いんです」(きだてさん)
ドナルド・トランプ氏、ヒラリー・クリントン氏のトーキングボールペン
喋るトランプ氏、笑うヒラリー・クリントン氏のボールペン。
「アメリカは政治家に肖像権がないのでこういう文房具を作り放題なんです。大統領選前になると、大統領になるだろう候補者のトイレットペーパーが出るので、誰が大統領になるかだいたいわかります(笑)。このふたりのときは、どちらとものトイレットペーパーが出たんですよ」(きだてさん)
そのほか、たくさんの文房具
アラビックヤマトのミニノリは、専用革ケースに入っている


数え上げるとキリがないほど、次々におもしろい文房具が出てくる。
ストレス解消に使うカホン
「ストレス解消になるし、文房具部屋は座るところがないので、誰か遊びに来た際に椅子代わりにも使ってます」(きだてさん)
やわらかいペングリップ
栗原さんが買い置きしている、やわらかいペングリップ。もう少し落ち着いたカラーがあってもいいのに……とのこと。
便利な調味料や乾物
栗原さんのお気に入りはキッチンに並んだ乾物。
「糸寒天は戻せばサラダに入れられて、味噌汁に入れれば具になって、ごはんにひとつかみ入れて炊くとモチモチになるんです! 食物繊維も摂れるのでよく使ってますね」(栗原さん)
暮らしのアイデア
押入れを改造した、撮影用のミニスタジオ
「文房具レビューのために、アイテムの写真撮影をすることが多いので、押入れをスタジオに改造しました」(きだてさん)
震災に備えて倒れないようにしている本棚
図書館の書庫のように動く本棚には、本がぎっしり。
「東日本大震災のときに8階建てマンションの最上階に住んでいて、本棚が倒れて大変だったんです。それをきっかけに倒れない本棚を探して、地震で揺れても棚が出てくるだけで倒れないものを見つけました」(きだてさん)
これからの暮らし
「このエリアは駅から離れていて騒々しすぎないし、どこに行くのにもアクセスがいいので、しばらくはここに住みたいと思ってます」(きだてさん)
「猫2匹と一緒に暮らせる賃貸物件を探すのは本当に大変なので……いずれは家を購入することも検討したいですね」(栗原さん)
次に住む街の候補地は、国分寺などの郊外がいいという栗原さんに対し、賑やかで都会であるほどいいというきだてさん。いつもにこやかに話すのが印象的なご夫妻は、次にどこに住むことになるのだろう?
ジムくん、リリーちゃんの記事「ペットのススメ」にて。
あわせて読みたい:
Photographed by Yutaro Yamaguchi