「短歌」に意識を向けてみたら、140文字より圧倒的に少ない“31文字”のことばに、詰まっているものに驚いた。ハッとしたり想像が膨らんだりするのがとても楽しく、日々にクリエイティブな視点を与えてくれる気がしている。
その月に合ったテーマで月1本、リレー形式で毎月異なる歌人の短歌を、描き下ろしの10首連作でお届けする。
連作の中にある展開やストーリーを、まずは楽しんでみてほしい。
第2回目の歌人は平岡 直子さん、5月のテーマは「旅」。
その海岸線の名前
無口なるふたりが長く乗ってきた荷台を揺する道のでこぼこ
外国の案山子はどこか火の匂い添乗員の帽子を乗せて
トロフィーは持ち歩くには重いので強盗がくるのを待とうか
さまよっているのはあなたくつろいでいるだけなのよ巨大な駅は
サイエンス的に求めた頬ずりを手紙のように返してくれる
客室までの長い廊下は歩くうちきみの気管の要素が混ざる
ドアを開け、またお茶会か今度こそ到着ロビーのはずだったのに
ソフトクリームをのぼる蟻は周遊というものをわかっていない
コインチョコ、ひと月前の指定券、ジョーカー、行けるとこまで行こう
新緑の痛々しさのそのなかにたまに探している置時計
illustrated by ki_moi