情緒溢れる街並みが人気の、埼玉県・川越。風情ある街並みは「小江戸」と呼ばれ、重厚な造りの商家が連なる蔵町など、江戸の面影を今に留めている。そんな川越の街にある、築43年の一軒家を自らの手でリノベーションしたのが、安田太陽さんが暮らす家。かつて安田さんの祖父母が暮らした家には、家族の歴史と古さへの愛着があった。
職業:プロダクトメーカーのデザイナー
場所:埼玉県川越市
面積:65㎡(1、2階それぞれ)
築年数:43年
お気に入りの場所
階段下の小さなスペース
「広い一軒家に住んでいながら、気がつくとこのちょっとしたスペースで本を読んだりしています。狭くて落ち着くのは、子どもの頃に押入れが好きだった感覚と似ているかもしれません」
祖父が作ったサンルーム
もともとは祖父母が暮らしていた築43年の家を、ほぼ自らの手で、4年にわたってリノベーションしている安田さん。いいもの、使えるものはできるだけ残し、間取りや床材、壁などは刷新して、かつての暮らしを感じさせながら、気にいる家に仕上げたという。サンルームは、祖父母が作った空間を生かしたもののひとつ。
「ペットのフェレットと遊んだり、洗濯物を干したり。陽が入るので暖かいですし、なにより開放感があるのが気に入っています」
セルフリノベーションで作ったキッチン
作業台、ガスコンロ、収納スペースに至るまで、すべてセルフリノベーションをした広いキッチン。木をつなぎ合わせてカウンターを作り、その上にタイルを貼ったそうだ。
「料理好きなので、キッチンは自分が使いやすいように作り替えました。男の一人暮らしの割に鍋や食器が多いのは、友人を招くことが多いから。去年は50人くらい招いて秋刀魚パーティーをしたんですが、さすがに大変でしたね(笑)」
詳しいリノベーションの詳細は「リノベーションストーリー」へ。
残念なところ
寒くて暗いところ
リノベーションをする際、安田さんが業者に依頼したのは耐震性と断熱性、配管工事などの専門的知識が必要な部分。その際、断熱材を追加したものの、やはり寒さを感じるという。
「窓ガラスは手をかけていないので、それも影響してると思います。一軒家で家が広い分、アパートやマンションと違って暖房効率が落ちるのは否めませんね。あと、サンルーム以外の部屋は暗く感じるのも残念なところです。それで少しでも明るくしようと、壁や柱は白いペンキで塗りました」
お気に入りのアイテム
集めている古道具たち
安田さん宅のインテリアのほとんどは、廃材や既存の材料を使ったDIYか、古道具を集めたもの。それらをデザイナーならではのセンスで自分流にアレンジすることで、見事な調和を生んでいる。
「古い物って、時間が作ってきた味わいがあると思います。当たり前のことですけど、新品では出すことができないのがいいですよね。古いものをそのまま使うこともありますが、キッチンの収納棚に使ったり、インテリアにしたり。時計は壊れていたんですけど、デザインが気に入ったので、手作り時計キットを買って自分で修理して使っています」
古道具は、ネットオークションや行きつけの古道具屋で探すことが多い。リノベーションをする際も、建具や金具などを自分の足で探したという。
「この家は母の実家なので、母が子どもの頃に使っていたものもたくさんありました。リノベーションをする際、まずはそれらを整理することから始めたんですが、まだ現役で使えるものもありましたね。特にバドミントンのラケットがいい感じだったのでインテリアにしたり、ライトも使っています」
友人によるアート作品
廃材などを使ったアクセサリー「ミツメ」のデザイナーでもある安田さんには、クラフト作家やアーティストの友人が多い。そんな仲間たちからのプレゼントは、この家の一部として飾られている。
「絵はSato Takamitsuというアート活動を行なっている友人が、僕とこの家のために描いてくれたもの。カリモクのソファも友人がプレゼントしてくれました」
暮らしのアイディア
見せるものと見せないものを徹底して分ける
見るからに料理が楽しくなりそうなキッチンや、ぬくもり溢れる無垢の床材、古道具の味わいが感じられる家。そこに「暮らし」は感じられても、生活感がないのはなぜだろう?
「見せるものと見せないものは、徹底して分けますね。インテリアを損ねないよう、古道具や廃材をアレンジして、隠す収納をするように心がけています。キッチンのカウンター下の収納ケースは、りんご箱に取手とカグスベールを貼って、引き出しやすいようにしました」
洗面台の配電盤、歯ブラシもこの通り。このアイディアこそ、生活感を感じさせない暮らし方と言える。
部屋に「意味」を持たせる
生活の基盤となる家には、食事をする場所、くつろぐ場所、読書をする場所、寝る場所と、すべて意味を持たせたいと安田さんは語る。
「部屋に存在価値や意味を持たせることで、どんなインテリアを置こうか、どんなテイストの部屋にしたいかが決まってきます。それをあれこれ考えるのも楽しみで。生活のメリハリがつくので、“きちんと”暮らせる気がしますね」
これからの暮らし
安田さんがこの家に移り住むきっかけになったのは、賃貸物件よりも“自由に暮らせる”ことに可能性を感じたこと。以前暮らしていた家が通勤に遠く、会社の近くに引越しを考えていたタイミングで、この家が空き家になっていたのだそう。
「祖父母の家以外にも、いくつか物件を見て回ったのですが、予算や条件を考えると川越の家がベストということに落ち着きました。通勤に約1時間かかりますが、あまり苦ではないですね。川越は、都会と田舎の要素がちょうどいいと思っているし、愛着があります。
2階はアトリエと寝室として使っていますが、まだ手を付けられていない中途半端な状態で……。1階部分がある程度完成したので、これからはアトリエを充実させていきたいですね」
祖父母が亡くなり、主人を失った家に再び命を吹き込み、新たな歴史を刻んでいく川越の家。リノベーションとは本来、そうあるべきものなのかもしれない。スクラップ&ビルドにはない、人のぬくもりや暮らしのあり方を、安田さんから教わったような気がする。
約100種類の植物のために選んだ、ルーフバルコニー付き物件(元住吉)
レトロ一軒家を好きにリノベする、建築男子のシェアハウス(三軒茶屋)
「自分が心地いいこと」を重視した、本屋さんのDIY術(世田谷区深沢)
Photographed by Kenya Chiba