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神戸市の西部にある塩屋は、人口2,200人ほどの小さな町。

神戸の風景

神戸の中心部から電車で15分ほどの位置にありながら、海にも山にも距離が近く、海側から山に向かってのびる細い道には、のんびりゆったりとした空気が流れている。

書籍『旧グッゲンハイム邸物語 未来に生きる建築と、小さな町の豊かな暮らし』は、こんな“海と山があるすばらしい塩屋”を舞台に、明治末期に建設され、心ある地域の人々の手によって現代に蘇った異人館・旧グッゲンハイム邸の変遷と、この貴重な建築物を守り、育ててきた旧グッゲンハイム邸の管理人である森本アリさんの半生が、アリさんの視点で綴られている。

旧グッゲンハイム邸物語 未来に生きる建築と、小さな町の豊かな暮らし

旧グッゲンハイム邸は、その名が示すとおり、1909年(明治42年)頃、ドイツ系米国人貿易商のグッゲンハイム氏のために建設された異人館だ。その後、所有者が幾度となく変わり、2000年に入って以降は、長らく空き家に。

やがて老朽化がすすみ、取り壊しの是非も取り沙汰されるなか、2007年にこの建物を引き継いだのがアリさん一家だった。

旧グッゲンハイム邸物語 未来に生きる建築と、小さな町の豊かな暮らしの書籍

幕末から明治時代にかけて欧米人が住宅として建設した異人館は、古くから港町として栄えた神戸にもいくつか現存している。北野異人館をはじめ、もっぱら観光スポットとして利用されているものが多いが、旧グッゲンハイム邸は、音楽を中心とする様々なイベントや結婚パーティなど、利用者が自由に使える多目的スペースとなっているのが特徴だ。

この本では、地域内外の人々に自由に使ってもらうことによって、旧グッゲンハイム邸が町の一部として自然と溶け込み、塩屋らしいカルチャーを牽引する存在となっていく様子が描かれている。

旧グッゲンハイム邸の管理人の森本アリさん

そして、旧グッゲンハイム邸を2007年以降、10年にわたって守り、育ててきた立役者が、管理人の森本アリさんだ。旧グッゲンハイム邸が解体されることなく、保存・維持されることを第一に据えながら、この貴重な空間を切り盛りするプレイヤーとして、また、旧グッゲンハイム邸や塩屋の町をフラットに見渡し、より楽しく、おもしろく仕立てていくプロデューサーのような立場で、ひとつひとつの行動を積み重ねてきた。

この本で綴られている数々のエピソードからは、アリさんの地道な行動力と深い洞察力、そして、地域内外の人々を惹きつけてやまない人間力がうかがえる。

『旧グッゲンハイム邸物語』は、旧グッゲンハイム邸を通して見つめた、塩屋という町のストーリーでもある。

神戸の町
神戸の街並み

塩屋の駅前には、細い道に沿って個性的な商店が軒を連ねる。こんなローカルな佇まいも、塩屋らしい魅力だ。

アリさんは、旧グッゲンハイム邸の管理人として、また、塩屋のいち住民として、この町に関わってきた経験から、まちづくりについての持論をこう語る。

「まちづくり」とよく言われますが、「つくる」のではなく、歴史、文化、環境を広く見据えて観察すると、新しいものなど何ひとつ作らなくても、組み合わせによって物事は面白くて新しいものになる、そう思います。

これは、塩屋だけでなく、どの町にも、いえることではないだろうか。どんな町にも長年にわたって地域の人々が培ってきた文化や歴史があり、それらが様々に絡み合い、その町らしさとして根付いている。自分が暮らす町の個性を受け入れ、積極的に楽しむことで、町の捉え方や関わり方が変わるだけでなく、日々の生活すらも、より豊かになっていくかもしれない。

『旧グッゲンハイム邸物語』は、旧グッゲンハイム邸のあゆみから、町のあり方、ひいては、私たち一人ひとりの生活のありようを、改めて見つめ直すヒントを与えてくれる。

旧グッゲンハイム邸物語 未来に生きる建築と、小さな町の豊かな暮らし[ぴあ]
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Photographed by Yukiko Matsuoka, ROOMIE編集部

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