クリエイターがスキルを交換し、つくりあげる1つの家具。その過程を追った本人によるドキュメントを全3回でお届けします。
フリーランスが、自宅を作業場にするということ
今住んでいる賃貸住宅に引っ越してきてから4ヶ月。
入居当初に描いていた「住空間・作業空間快適化計画」へのモチベーションもいつの間にか下火になり、より良い環境を整えるために今一度自分の部屋について考えてみることにした。
僕はフリーランスで写真家をしているので、撮影以外の仕事場は専ら自宅。三脚やストロボのスタンド、カメラバッグなど現場で使用するものから暗室用の道具まで、とにかく機材がものすごい量なので、住空間と作業空間の境目なんてありゃしない。
だから部屋数が多くて収納が充実した物件を選べばよかったものの、駅から徒歩4分、大きな公園も近くにあって暮らしやすそうな7畳ワンルーム+5畳のロフト付きで70,000円(!)という物件に即決してしまったのだった……(悲しいかな、そもそも予算内で立地条件が良くてより広い物件を探すのは難しいのだけれど)。
押し入れは機材で埋まり、暗室作業は1口コンロの上で……
押し入れに押し込んだ三脚を引っ張りだして撮影に向かう。
床に置いている暗室用の重いプリンターをわざわざテーブルに載せ替え、一口ガスコンロの上においたバットで白黒印画紙を処理する。こんな非効率的な作業空間は絶対に間違っている。絶対に。
こんな仕事のやり方にいいかげん嫌気が差し、「作業台も兼ねた家具を作ろう!」と決意をするも、以前材木で作ってみたシューズラックが靴の重さに耐えられずに崩れ落ちたのを思い出した……。誰かに家具造りを教えてもらおうと思案していると、藍色の作務衣を着た紳士が頭に浮かんだ。
アフガニスタンが縁をつないだ、家具職人との出会い
5年前、僕がアフガニスタンで撮影した写真の展示をした際に、藍色の作務衣姿で現れたのが成瀬勝一さんだった。成瀬さんは1970年代に海外を放浪した際にアフガニスタンにも訪れたことがある強者で、現在は注文家具の職人をしていると言っていたことを思い出したのだ。
「家具づくりを教えてください。お礼に、成瀬さんが仕事をしている姿を写真に撮らせてください」
今考えると随分一方的で押し付けがましいメッセージだったけれど、成瀬さんは快諾して下さった。
5年ぶりの再会。
家具製作のイメージが掴みやすいように、と工房を見せてもらえることになった。
工房に向かう道中、「ネットでも家具を探してみたんですが、自分の用途にあった完璧な家具がなくて、どうせなら一生物の自分が使いやすい家具を作りたいと思ったんです」と話をすると、DIYについて話をしてくれた。
「家とパッケージで組まれた家具を売る時代はもう終わったんです。昔はデザイナーや建築家が作ったコンクリート打ちっぱなしやガラス張りの、デザイン性を重視した住宅がもてはやされたけど、実際に住んでみるとなかなか住みにくかったりする。そこで本当に住む人の側に立って考えられた家や家具が造られるようになったんです。
10数年前に東急ハンズがDIYのブームをつくり、テレビでもビフォーアフターなんかが流行って、より自分の生活にあった工夫がなされるようになった。住空間を整えるために安く済ませようと思ったら100円ショップで何でも揃えられるけど、安いだけでは満足できなくなった人達が自分の納得したもので、長く使い続けられるものを作ろうという意識が高まったんだと思います」
「IKEAの家具なんかも、売られているままの形で使うのではなくて、自分の使いやすいようにカスタマイズしたアイディアがwebでシェアされているでしょ? プロ顔負けのアイディアが世の中にたくさん溢れているのはいいことだと思います。若い人が考えて家具を使うようになって、意識が変わってきたんだと思いますよ。ぜひ、一生物の良い家具を作りましょう!」
ものをつくる人間同士が、それぞれの技術で繋がっていくこと。
思いつきで送ったメッセージを起点として、こんな具合に僕の初めての本格的な家具づくりは、始まった。