様々なインスピレーションを与えてくれる「TED」の名スピーチ。
その中でもルーミー読者におすすめなのは、2013年に「創造的な家が見つかる場所」と題し、思いもよらない場所で生活をする人々を紹介したオランダ人フォトグラファーのイワン・バーンのスピーチです。
イワン・バーンは、写真家として世界中のすぐれた建築物や美しい都市計画に感銘を受ける一方、旅する中で廃墟ビルや水上都市、地面の中で暮らす貧困層たちの合理的でクリエイティブな居住空間に魅せられていきます。
そんな彼がスピーチの中で最初に紹介したのが、ベネズエラの「トーレ・デ・ダビ」。
ベネズエラの首都カラカスの中心地には、45階建ての未完の廃墟ビルが存在します。この建物はベネズエラでも3番目に高い超高層ビルでありながら、90年代の経済崩壊の影響で工事は一時中断し、現在も未完成の姿を残したまま工事再開の目途すら立っていない状況です。
現地では開発者の名前から「トーレ・デ・ダビ(デイビッド・タワー)」と呼ばれており、工事中断から10年以上たった2005年頃からはベネズエラの住宅難もあって、建物内に多くの人々が無断で住み始め、いまでは3,000人以上がこの未完成の廃墟ビルで暮らしているといいます。
もともとトーレ・デ・ダビの内部は人が住めるような環境ではなく、高層ビルというよりもコンクリート打ちっぱなしの工事現場のような状態でした。
しかし、壁や窓はもちろん、ただのコンクリートの塊だったこの建物の中に、住人たち自らの手であらゆる機能を組み込み、いまでは電気や水道を使うことができます。
建物の中では住人たちによる様々なサービスが提供されており、理髪店、食料品店、無許可の病院、教会などが存在します。内部の上り下りは階段を利用しなければなりませんが、1階から10階までは専用のバイクタクシーを利用することも可能で、30階にはフィットネスジムが備え付けられています。
建物周辺の治安がかなり悪いことから、市民の多くはトーレ・デ・ダビを「犯罪の温床」として問題視しており、2014年には軍当局が100世帯以上を退去させたというニュースもありました。
しかし、実際はトーレ・デ・ダビに住む人々の多くは、犯罪が多発する近隣のスラム街から避難するために移住してきた人が多く、ビルの内部のほうが周辺のスラム街よりも安全で快適だという意見もあるといいます。
海外サイト「Vocativ」では、トーレ・デ・ダビの内部を撮影した映像がYoutubeにアップされています。
イワン・バーンはこのあとのスピーチで、ナイジェリアの水上スラム街「マココ」や、カイロでゴミをリサイクルして生活する「ザバリーン居住区」、中国で地中にある家「ヤオドン」など、興味深い居住空間を紹介しています。
続きが気になる人は、日本語字幕付きのTED公式動画をご覧ください。
建築家で作家の坂口恭平氏は、著書『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』の中で都会から出るゴミのことを「都市の幸」と呼び、たとえ所持金ゼロのホームレスだとしても、高解像度な視点とクリエイティブ能力を発揮することで、あらゆるものから解放された新しい生き方ができると語っています。
その考え方とも共通するように、イワン・バーンが紹介した人々は、資金や資源がないどんな状況であっても、人間は環境に適した住環境づくりができることを証明しています。それは一般的に語られる“ホームレス”というイメージからはほど遠く、むしろクリエイターに近い感覚で新しい生活スタイルをつくり上げています。
均一性という病が、生きる喜びを奪っている。
スピーチの最後に友人の言葉を引用したイワン・バーン。
均一性を好む日本人にとっては、深く考えさせられるフレーズです。
The world’s tallest slum [Youtube]