いいものは高い。それは「家」も基本は同じ。
とはいえ、家の場合は特に予算に余裕がないですから、建築家たちも「どのようにしたら低価格でいいものを提供できるか」を日々考えています。
そこでは「そぎ落とすもの」「大事にするもの」の取捨選択がとても大事になります。
今回は1,000万円台前半で実現した、広島県に建つ「革工房の音色」という物件の、とても上手なそぎ落とし方を見てみましょう。
「革工房の音色」は、風景のある家.LLCにより、革職人の工房兼住居として設計されました。
見た目はシンプルで、軒の出がない、いわゆる家型の家。
延床面積86.53㎡と、決して小さな家ではありません。
しかし前述のとおり、この物件は1,000万円台前半という低価格で建築されています。低価格の裏には、さまざまな工夫と取捨選択が行われているのです。
まず特徴的なのは、その形。
玄関側の面の長さが4.5mなのに対して、奥行きがなんと24mもあるんです!
正面から見たら小さな家に見えるけれど、実際はとても長ーい家というわけです。
もちろんそもそもの敷地が縦長だったわけですが、短い面に必要な構造の梁(はり)の長さを短くすることで、地道〜なコストダウンが行われていると思われます。涙ぐましい努力……。
そして、1番わかりやすいのが内部。
一般的な家の内装に使われるビニールクロスを、壁・天井に一切使わず、すべて素材そのままの仕上げになっています。
ベニヤ板やコンクリートなど、本来は隠されてしまう素材をあえて表に出すことで、コストダウンにつながるのはもちろん、素材ならではの荒々しさが空間にいいアクセントを与えてくれます。
天井も梁を丸出しにしたことで、天井に部材を張る手間や材料費を省きつつ、1階建ての平屋ながら、高い天井を確保。24mもある奥行きを活かした、開放感を生み出しています。
そしておもしろいのが、部屋の明るさを確保するために、家の中心に水を張った中庭があること。
というのもこの家、外観を見てみるとほとんど窓が開いていないんですね。
これはプライバシー上の理由もあるでしょうが、大きな窓を開けないことは、コストダウンにも大きく寄与しているんです。「窓」は高いですからね。
その代わりに、水を張った中庭側に窓を開けることで、光の確保や、プライバシーを気にせず開放感を味わうこともできますね。
これならカーテンもいらないかもしれません。
内外装ともにシンプルな材料をそのまま使い、価格を抑えているわけですが、シンプルな材料を使うと家の表情もシンプルになり、結果的にモダンな印象を与えてくれます。
荒々しい工業的な内装材は、家具など人の手が加わったものの暖かみを強調してくれ、単体で見るとソリッドな存在感を持つ外装も、街並みに違和感なく溶け込むシンプルさを持ち合わせています。
この絶妙なバランス感を成立するのが、建築家の腕の見せ所なんですね。
何をそぎ落とすのか、何を残し、何を得たいのか。そんな絶妙なバランス感を教えてくれる家です。