引っ越しが好きだというお二人ですが、“あること”をきっかけに築30年の中古マンションの部屋を買い取り、自分たち好みにリノベーションをしました。
建物が持つクラシックな雰囲気は残しつつ、自然素材を使ったあたたかみのあるインテリア。おばあさんから引き継いで大切に使っている家具や、本棚に並ぶキュートな置き物たちに、ご夫婦のセンスが溢れ出ています。
インタビュー企画「リノベストーリー」。今回は「seesaw.」のオフィス兼ご自宅におじゃまして、伊藤さんとシラキハラさんにいろいろなお話をうかがってきました。
リノベーションまでの経緯をおしえてください。
もともとこの部屋には、賃貸契約で5年ぐらい住んでいました。オーナーさんがご高齢のため、そろそろここを売りたいという話があったんです。
それで他へ引っ越しをするか、そのまま買い取るかという選択になったのですが、子どもがまだ1歳にもなっていない時期で、引越しも大変だということで、この部屋を引き継ぐことにしたんです。
子どもがすでにこの地域で保育園に入っていたのも、ここを購入した大きな理由のひとつです。ここでは運よく入ることができましたが、引っ越し先でも入れるという保証はないと思うので。
でもこの辺りは、おいしいお店も多いし、飽きのこないおもしろい街で、すごく好きなエリアなんです。新宿御苑が近かったり、近所に子どもと遊べる施設も多いので、子育てがしやすいと思います。
マンションは築30年ということもあり、キッチンや設備が割とボロボロだったので、購入するなら全部リノベーションしようというのは、はじめから決めていました。
具体的に、どんなリノベーションをしたんですか?
以前は、リビングスペースに1段高くなった6畳の和室があったんですが、それを取り除いて広いワンルームにしています。天井もはがして30cmほど高くして、抜けのある開放的なリビングにつくり変えました。
以前は、リビング上部にある斜めの窓の結露がすごかったんです。まるで雨漏りしてるみたいで、家の中がカビっぽくなるのが悩みでした。それでリノベーションを機に、すべての窓を二重にしたんです。二重窓はまったく結露もなくて、かなり快適です。
壁には「珪藻土」などの自然素材を使いたかったので、リノベ会社を決めるときもそういうところを基準に選んだんです。
いくつか候補はあったのですが、最終的には会社の雰囲気がよかった「スタイル工房」さんにお願いしました。
はじめから「こんな家にしたい」というイメージがあったので、それを全部お伝えしてからプランを作成してもらいました。
タイルの飾りなどイメージが共有しやすいように、職業柄、イラストなどを描いたりして「こんな感じでお願いします」と伝えたこともあります。
リノベをしてみて、どんなところが大変でしたか?
すべてリノベ会社さんにお任せしていれば楽だったと思うのですが、私たちの場合、使用したい材料や設備は、自分たちで探しまわって決めたんです。
向こうからもいろいろと提案をしてもらえるのですが、その中に自分たちが気に入るものがなければ、ショールームを見てまわったり、ネットで深夜まで探したりしましたね。
リビングとトイレに設置した扉は、自分たちでネットやアンティークから探し出したものです。トイレのドアは、リノベ後に自分たちで塗装しました。
金具や取っ手までこちらで指定することもあったので、「この日までにここを決定してほしい」という締め切りが毎日続いたりして、それがかなりのストレスでしたね。
そのとき読んでいた本に、「人は何かを決定するときに、いちばんのストレスを感じる」という一文があったんですが、もうその通りだなと(笑)。夜、子どもを寝かしつけたあとに、家のことに取りかかるという生活を続けていました。
いまになってみればですが、あんなに大変な思いをするぐらいなら、はじめからリノベ会社さんの意見をもっと取り入れてみたらよかったかなと思います。
「こういう部屋にしたい」という思い込みが強かったので、できるだけ自分たちのイメージを伝えることを考えていましたが、向こうは設計のプロなので、もっといろいろなアイデアや意見を聞いたら面白かったかもしれません。
壁を一部アーチにする素敵なアイデアはリノベ会社さんからのものですし、フローリングも最後の最後まで悩み続けましたが、結局は最初に提案していただいたものになりましたから(笑)。
予算の調整もかなり頭を悩ませましたね。最後のほうになると、予算を削るために何かを諦めなければならない日々が続いて、それが精神的にもつらかったです。
いくつか削らなければいけないときに、数字を見ながら、目立たない箇所の「スイッチプレート」を安いものに変更したんです。見た目もシンプルだからあまり変わらないかなと……。でも、家が完成したあと、やっぱりそのプレートのことが気になるんですよね(笑)。
スイッチって毎日使うものだから、スイッチに触れるたびにちょっとずつ腹が立ってくる。ここまでこだわってつくったのに、そこだけ妥協した自分にも腹が立ってくる。結局、住み始めたあとで、自分たちの好きなものにすべて取り変えました(笑)。
家を持つと心境の変化はありますか?
賃貸のときよりも、地域の人になった感覚はありますね。このあたりに住んでもう6年ぐらいなので顔見知りも増えましたし、子どもといっしょにいると、声をかけてくれる人も多いです。
同じマンションの方たちとの関わりも増えたと思います。これまでは「部屋を借りてる人」でしたが、いまではマンション組合にも参加したりして、この街に少しずつ愛着が湧いてきました。
子どもが大きくなったら、リビングを区切って子ども部屋をつくってもいいかなと思っています。そうなればどこか近くに事務所を借りたりして、できるだけ長くここに住み続けたいです。
リノベをして良かったですか?
子どもがいなかったら、購入していなかったかなと思います。別の場所に引っ越しをしていたかもしれません。もともと引っ越しが好きだったので、そう考えると少しだけさみしい部分はありますね。
ただ、賃貸のときよりも格段に生活がしやすいので、リノベして良かったです。中古マンションのリノベは、自分たちの好きなようにできるのがいいですよね。
私たちの場合、5年以上ここに賃貸で住んでいたので、改善したい点が把握できていたことで、快適で飽きがこない家づくりができたと思います。
それに、周りの環境や近隣住民のことを知っていたという安心感がありました。新築で購入しても、近隣トラブルとか、まわりにスーパーが少ないとか、そういう話はよく聞いていたので。
あと、中古マンションと聞くと「耐震」のことが気になると思うんです。2011年の震災のとき、このマンションに住んでいましたが、思ったほど建物は揺れず、棚からものが落ちることもありませんでした。そのときの経験が、購入の後押しになっていると思います。
リノベーションをどこまでこだわるかは予算との相談になりますが、私たちの場合、少し予算オーバーになっても、全部やりきって良かった気がします。追加工事の費用が高くなることは、スイッチプレートのことで経験済みですから(笑)。
学生の頃からの知り合いだというお二人。絵や雑貨の好みも似ているそうで、家づくりで意見が合わないこともほとんどなかったとか。グラフィック関係のお仕事をされているだけあって、インテリアの色づかいや小物の飾り方など、参考にしたくなるポイントがいくつもありました。
まずは中古マンションに賃貸で住み始めて、まわりのことをよく知ってから購入に踏み切る。そんな家探しの方法も、これからもっと増えていくかもしれませんね。
Photograghed by Daisuke Ishizaka
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