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ルーミーがお届けする「家具にまつわる物語」。デザイナーズ家具やアンティークなど、家具の周りには必ずストーリーがあります。フィンクション、ノンフィクション織り交ぜてショートストーリーでご紹介。ぜひお楽しみください。

vol.01はコチラから。


その元彼とは当時、結婚まで考えていた。

一回は大ケンカして危うく別れるか! となったものの、雨降って地固まり、すかさず両親のいる鳥取まで行って、挨拶まですませた。

しかし今度は突如、彼の勤めていた家具の輸入会社が倒産の憂き目にあった。次の就職先もままならず、彼はどんどんやさぐれていった。引きこもりになり、行くのは100円ローソンのみ。あんなに家具が好きで、ふたりであれこれお店を回ったりしていたのに。とうとう彼女は彼の家の近くのサイゼリアで、とうとう別れを告げた。

プリント

彼女は、そんな彼がハートチェアを前にし、熱弁をふるっていた時のことを懐かしく思い出していた。

「見ろよこれ、3本脚って強度と安定性を保つのが難しいんだけどさ、やっぱりさすがウェグナーっていうか、すごい完璧な構造バランスなわけ。しかもこれ、重ねられるし、軽いしさ。なのに見た目も愛嬌があるでしょ。ホントかわいいよね、たまんないよね。」

それを聞いて、彼女も深く納得した。たしかにすごくかわいい。あるだけで、存在感はハンパない。しかも軽くて、スタッキングもできるなんて、掃除もしやすそう。ハートチェアという名前も、ラブラブな私たちにぴったり。絶対にこれ欲しい!これにする~!と……。

別にひきずっているわけじゃない。その家具を見ると、元彼のことを思い出してしまうけど、そういう未練があって欲しいんじゃなくて、デザインや佇まい、何より相手が誰であれ、長い間思い描いてきた夢だから……。

しかしいま隣にいる彼には、それを言う勇気はなかった。元彼とのことは黙ってりゃ分かりっこないけれど、それでもなんとなく気がひける。でも欲しい、でも言えない、でも欲しい、とめぐらせていると、目が回りそうになった。

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あのさ、と突然彼の声に、彼女はビクッとなった。家具屋さんを後にし、駅まで戻る帰り道だった。

あのさ、もっかい店の家具でサイズ聞いときたいやつがあるから、先に駅前のスタバに入って待っててくんない? あ、4階ね。

うん、わかった。

まだ頭がぐるぐるしていた彼女は素直に言い、駅に向かった。

彼はソッコー店にダッシュし、息を切らせながらスタッフの人にこう言い放った。

あのハートチェア、2脚キープしといてもらっていいですか?

そう、彼は知っていたのだ。彼女がこの椅子を欲しがっていることを。またそれが、元彼の影響によるものだということも。

そもそもは以前、彼女が昔行った、旅先のおいしかったラーメン屋の写真を見せてくれようとした時のこと。ふたりでスマホの画面をのぞきこんでいると、スライドしていく写真の中に、LINEのキャプチャー画面が一瞬だけ見えた。

それは元彼とのやりとりで、ハートチェア超欲しい! 結婚したら絶対にあれにする! と書かれていたのを、野球部で培った得意の動体視力を駆使し、すかさず読み取ったのだ。

そして彼は帰ってからすぐに椅子の名を検索し、この店にあるということを突き止めた上で、今日彼女を誘った。彼女がこれを見てどう反応するか。でもどっちみち、これはふたりの新生活の記念にプレゼントしようと思っていた。元彼がどうあれ、このハートチェアに座るのは、紛れもなく僕らふたりだ。彼はそのことを想像し、ぐっと胸がシビれた。


vol.01vol.02もご覧ください。

illustration by Shoko Kaido

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