デンマーク・コペンハーゲン。ここに近年、ひとつの新しい「町」が誕生しました。その名も「カールスバーグタウン」。
デンマーク王室御用達のビール会社「カールスバーグ」の醸造所が、コペンハーゲンからユトランド島へと移転。
その広大な跡地を、古い建物をそのまま残しながら、未来につづく新しい町へ生まれ変わらせるプロジェクトを、市が立ち上げたのです。
その生まれたての町を、さっそく訪ねてみたデンマークリポート。第1回目は、その敷地内に暮らす、ある建築家のお宅をご紹介します。
カールスバーグタウンのエントランスにある門番用の小さな建物。1886年に作られたレンガ造りの家に今、暮らしているのは、建築家のTobiasさん一家。
元の建物を生かしつつ、屋根裏やキッチン部分を増築するなど、自分流にDIYを加えて「居場所づくり」を楽しんでいます。
元家具職人だったTobiasさん。家の中には、窓やドアの上、階段の下などに、つくり付けの棚がたくさん。
新しく空間をつくるにあたって大切にしたのは「光」。狭いからこそ開放感は大事なので、キッチンにも窓はふたつつけて。
一見すると、元からあった建物と新しく増築した部分の境界がわからないほど。寸法はもちろん、窓の位置やバランスも、外壁の質感や色合いもすべて同調させています。
ただ古いだけあって、すべて当時のままというわけにはいかず、そこが「工夫の凝らしどころ」とTobiasさん。
使うのはシンプルで、むきだしの正直な素材。汚れて跡がついてもむしろ歴史になり、思い出になるもの。
家具もそうだよね。きれいに磨かれたものは美しいけれど、いつも気をつけてなきゃいけないのは疲れる。そう思わない?
家じゅうの壁という壁に、家族にまつわるいろんな絵や写真を貼ってる。
ある日、息子がこの家の絵を描いてくれて、もう感激して、一番いいところに額装して飾ってるんだ。
デンマークらしい建物ってどういうもの? と尋ねると、「昔の住宅は比較的小さくて狭いところが多い。ちいさな空間で、家族と一緒に暮らすことが心地よかったんだろうね。もちろん広々とした空間もいいけど、自分の性格上、いるところが限られる。結局、どこで落ち着けるかなんだよね」
これって、日本の住宅や暮らしの考え方にも当てはまりそうです。
そこまで話すと、外に出て敷地内を案内してくれたTobiasさん。途中で見つけたプラムの木からたくさん実を摘んで、「ほらほら」と手渡してくれます。
この家がこんなにも心地よいのは、きっと彼自身の人柄や、工夫を凝らし、頭を柔らかくし、つくるをとことん楽しみ姿勢によるところが大きいのでしょう。
「カールスバーグタウン」全体についてご紹介している「コペンハーゲンリポート② ビール工場跡地が街になる」はこちらから。
さらに詳しいリポートについては、haluta365 スペシャルブック「デンマークの居場所づくり」にて、美しい風景の写真とともにご覧ください。