いきいきとした映画のようなストーリーがあって、元気になったり、グッと来たり。「ジャズとは」なんて考えなくても、自然と心躍る音楽。
日本を代表するジャズ・ピアニストとして世界で評価される上原ひろみ。リーダー作としては通算10作目、そしてアンソニー・ジャクソン、サイモン・フィリップスという世界最高峰のプレイヤーとの「ザ・トリオ・プロジェクト」第4弾となる、新作『SPARK』がリリースされました。
“人が何かに火花が散るような強い衝撃を受けることで、そこから展開される物語”をアルバム一枚で表現したという、そんなドラマティックな新作についてお話を伺いました。
──本作を作ったモチベーションはなんだったのでしょうか?
ザ・トリオ・プロジェクトを始めてから5年が過ぎ、チームとしてとてもよい形に成長できてきたなか「もう1枚この2人と作りたい」という気持ちが生まれてきたんです。そうして前作のツアー中に、もう1枚作ろうと盛り上がり、制作を始めました。
──では曲としては前作リリース後に作り始めたものなんですね。
私は常に曲を作っているので、どの欠片がいつどこで作ったものかは確認できないのですが、アルバムの曲として固めていったのは前作『ALIVE』のリリース後で、人間が何かに心躍ったり衝撃を受けたりして、その衝撃から色々始まって物語が派生していくという様子を描きたいと思い、そういう曲作りをしました。
──もう5年以上の月日を過ごしているトリオにも関わらず、『SPARK』と表現されるような衝撃や心躍ることがあるというのはすばらしいですね。
私たちがしているのは即興演奏なので、自分たちがまだ行ったことがない場所に音楽で行きたいという気持ちがあり、自分たちがSPARKできるものをつねに探しているんです。この3人で演奏できることは毎日至上の喜びですね。私たちは3人それぞれがお互いを驚かせたいという思いがあり、新しいフレーズや曲の新しい解釈などの面でそこに果敢に挑んでいっています。
──作品が完成してからリリースまでって、どういう気持ちですか?
早く聴いて欲しい!と思いますね。それこそ完成してすぐは興奮して眠れないくらいです。家族や友だちに「すごいのが録れた!」とメールして「またか」とか「いつも同じこと言ってるよ」と言われるんだけど、「今回は本当にすごいから!」と…毎回言ってます(笑)
──今回はいつもより1日長くスタジオに入ったとのことですが、新しい挑戦がテーマとしてあったのでしょうか?
労働環境の改善です(笑)前作までは、朝から深夜までずっと作業をしていて体力的にも過酷な労働状況だったので。スタッフによっては寝られない状態が続く人もいてしまっていて、それを改善したかったんです。でも、1日増やしてもテイク数が増えるだけで結局労働時間はあまり変わりませんでしたが、誰も倒れなくて良かったです(笑)
──上原さんはツアー生活も長くなかなか家に帰れないことも多いと思います。その分、家でくつろぐためにしている工夫などありますか?
家で楽しみにしているのは、自分のベッドで眠ることですね。それと、コーヒーでもお茶でも、朝に自分のカップを使うと帰ってきたなという感じがします。ツアーに出ていると紙コップやホテルのものを使うことになるので。
──ツアー先で快適に過ごすための工夫はありますか?
お風呂が好きなので、入浴剤はすごく重要ですね。「今日は別府で、明日は登別」みたいに、どこにいても温泉を選べるようにしてます。ツアー最終日は自分へのごほうびに、登別カルルスにすると決めています(笑)
──ほかの人の音楽を聴くタイミングはありますか?
移動のときによく聴きますね。クルマでの移動も多いので「今日はアルバム3枚聴けるなー」とか。毎日本当に違うものを聴いています。自分がDJになったような気分で、この前は「今日はザッパ祭り!」ということでフランク・ザッパを9時間聴いたりとか(笑)
──『SPARK』はいつどんなシチュエーションで聴いて欲しいですか?
いつでも、どんなシチュエーションでもいいので、大音量で聴いて欲しいですね。できればステレオで、それがダメなら音漏れしても怒られないところでヘッドフォンで!
──ジャズということで難しそうだなと敬遠してしまう人もいそうですが、ぜひ聴いてもらいたいですね。
“即興演奏”って難しそうというイメージがあると思うんですけど、結局は聴いて感じるか感じないかだけだと思うので。それに“即興”というのはみんな毎日やっていることで、生きること自体が即興ですから。もちろん生活の中で計画していることもあるけど、その通りにはいかないですよね。人との会話や、誰かとの出会いで予定が変わっていく。私たちはそれを音でやっているだけなんです。騙されたと思って1回聴いてみて何かを感じてもらえればなと思います。
上原ひろみ