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ドラマ『孤独のグルメ』の原作者でもあり、エッセイや音楽でもご活躍の漫画家久住昌之さんに「おうちごはん」を中心に食べ物観を伺いたいと思います。

家でのごちそうは“納豆”がベースのアレ

160124_qm1後日、その『ごちそう納豆』を作ってみました。梅干しと大根おろしの一手間で確かにごちそうに。

--久住さんと言えば外食のイメージですが、お家でごはんを作られることはありますか?

久住:あんまりないけど、最近家でごちそう納豆、それをよく作っている。それとなんか汁があって漬物があれば完ぺき。

--え?「ごちそう納豆」?納豆がごちそう?と一瞬驚いてしまいました。

久住:納豆にしょうゆを垂らし、よーくかいて、大根おろし、おかか、ねぎ、梅干しを半分ちぎったのを乗せて、ポン酢をかける。夕飯にもいける納豆ということで僕が名付けた(笑)。

--久住さんは汁物がお好きとお伺いしておりますが。

久住:僕は日本酒飲む時に味噌汁を頼むことがあって。自分にとって小さな鍋感覚なんだよね。

--小さな鍋というところがまたおもしろい(笑)。言われてみればそうかもしれないですね。味噌汁をそんな目で見たことありませんでした。納豆と味噌汁の話なのにまるで落語を聞いてるかのような、そんなおもしろさですね。

久住:(笑)。最近のお気に入りはアマノフーズのインスタント味噌汁『焼きなす』。

--久住さんとインスタントってちょっと遠いイメージなのですが。

久住:それが意外に美味いんだよ。聞いたら結構ヒットしているんだって。

--焼きなすの味噌汁、なかなか作らないかも。私の中でおもてなし料理の枠です(笑)。今度ぜひ買って飲んでみたいと思います。

ぬか漬けは出すタイミングで味が変わる、立派な料理

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©久住昌之・谷口ジロー/扶桑社『孤独のグルメ2』より

--久住さんにとって「食の原点」とか、「おふくろの味」というのはありますか?

久住:やっぱり味噌汁とぬか漬けかな。そのふたつっていつもそこにあったんだよ。刷り込みに近いかもね。

実家で母親が毎朝ぬか床から出してくるんだけど、季節ごとに違ってさ。夏に朝つけて昼食べられるようになっているものとかもいいし、取り忘れて古漬けになっちゃてるのもイイ! ぬか漬けって料理だよ! どういうタイミングで取り出すかというタイミングの料理だね。

--私も過去ぬか漬けをやったことありますが、結構神経使いますね。手間だけでなく、以外とお金もかかるんだなって。タイミングもすごく大事で。その事を分かって召し上がってらっしゃるとはさすがです。

久住:そのぬか床、母親が20代の頃から60年以上大切に育てて大事にしてたんだけど、この前カビを生やしてしまったらしく、それから一切やめちゃったみたい。親の老いも感じつつなんだかちょっと寂しい気持ちになったというか。

--確かに寂しい。でもそんなお母さまを潔くて格好いいなぁと思ってしまいました。

久住:格好いいかは分からないけど、うちの母親は手間は惜しまない方かも。正月料理に手間かけすぎて寝込んだこともあるしね。

--すごい! 食に対するパワーはお母さま譲りなのかもしれませんね。他に原点と呼べるようなものはありますか?

久住:子どもの頃、白黒テレビの西部劇で観たんだけど、ガンマンが飲み屋に入ってくるなり「おい何かくれ」と言って、何かガサガサッと食べるんだ。一体何食べてるんだろうって。親に聞いても分からなくて。

--それは何だったのでしょう。

久住:二十歳すぎて、みんなでバーボン飲ませる店に入ったら「チリコンカーン」というのがあって、食べたらピンときて「あ、あのガンマンが食ってたのは、これじゃないか?」って(笑)。自分がこどものころはそんなものなかったから、合致したのがずっと後になった。

あとアニメ『巨人の星』で、家から飛雄馬と明子姉さんが出てちゃって、父親の星 一徹がひとりでインスタントラーメン作るんだけど、袋からそのまま丼に入れて、直接お湯かけてんだよ。たぶんチキンラーメンみたいなものなんだろうけど、当時知らなくて。え~? 直接~? 何食べてるんだろう?って、それもまた疑問でね。

--何か分からないけど、大人が何か食べている。分からないと余計知りたくなりますね。

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©久住昌之・谷口ジロー/扶桑社『孤独のグルメ2』より

久住:そう。そこは物語の進行上、重要ではないからそんなに映らないしね。それでその頭の中、心の中はどうなっているんだろうと。そこに興味があったんだ昔から。なんだか人が食べてることの物悲しさとか滑稽さというか……。

--一休さんの言葉で「世の中は起きて稼いで寝て食って~」というものがあるのですが、物を食べるという行為は人間の基本的欲求であり、そして人間臭い部分であるがゆえに素が出ちゃうのだろうなって思います。

だから大人がいくらカッコつけてたって理性を失いそうになったり、感情的になったりする時もある。本人からしたら真剣だから笑ってはいけないのかもしれないけど、でも笑っちゃう。そんな滑稽さが描かれている久住さんの漫画はいつも読んでて笑ってしまいます。

久住作品はなぜおもしろいのか?

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かなり理性失ってます。©泉昌之『居酒屋』より

久住:自分のやってることは“下ネタ”に対する“上ネタ”だね。

--カミネタ? 初めて聞きました。そんな言葉あるんでしょうか?

久住:ないんじゃない(笑)。

--(笑)。なるほど、エロや排泄行為とかをネタを笑いにしているのが下ネタならば、食事をする行為をネタにしているのが上ネタということですね。また新しい言葉が生まれてますね。

久住:漫画で味そのもののこととか味がどうとかあんまり書いてないんだよ。固いとか食い方がどうとかそんなことだけでさ。何考えて食べてんだろってそれだけ。だからいつも独白なんだよ。頭の中の言葉だけ。『かっこいいスキヤキ』から今まで変わらない。どういうところでどういう時に何を食べるか、とか全部シチュエーションだね。

--人物にうんちくなど語らせてないというのが、他のグルメ漫画と一線を画すところですよね。知識じゃなくて状況。味を想像してもいいし、しなくてもいい。だから読む度に感じ方が違っていて、何度読んでもおもしろいのかもしれないですね。

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©久住昌之・谷口ジロー/扶桑社『孤独のグルメ2』より

--最後にテレビで何でも美味しそうに食べる久住さんに、聞いてみたい質問があるのですが。 好きな食べ物は何ですか?

久住:弁当。

--おお! そうきましたか! なかなか人の口からは出ないような言葉が出てきて驚きました。

久住:誰かが自分の為につくったんだもん、マズイわけない。

--なんだか愛あるお言葉ですね。

久住:だから弁当ってだけでうれしい。人の弁当もうまそうだし。弁当って聞くと腹が減ってるのに気づくっていうか。学生の時に芋の天ぷらと梅干しだけっていう弁当があって。「そう来ましたか~」ってうれしそうな自分がいて。

油揚げを煮付けたのが乗ってるだけでもいいの。「悪いけどこれで」って弁当が言ってるような、まったくもって質素な弁当を前に「さぁてどうする? おれ」っていうね。それに中身はこちらが選択してないよね。運命にあらがわずいただく。

--それでは外で買ったお弁当はどうでしょう。自分の為につくられたとは言えないと思いますが。

久住:もしマズかったらそれはただの選択ミスなだけで、大抵おいしいよ(笑)。

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©泉昌之/扶桑社『かっこいいスキヤキ』収録作品『夜行』より

--そうでした。久住さんのデビュー作『夜行』も駅弁をいかに自分なりにいい感じに攻略(食べる)するかというお話で、主人公に何かあっても己のせいとなっていました。今までのお話そのものですよね。

久住:そう、だから一食が失敗したらダメージが大きいんだ。でも自分のことをグルメなんて思ったことは一度もないよ。

--なるほど。失敗したときはダメージが大きいのは、食べ物の一つ一つに真摯に向き合っているからこそ、なんですね。


お話を伺ってみて、久住さんは食べ物に関して「受け身」であるということが伝わってきました。

お店で少し食べながらのインタビューでしたが、その時も出てきた料理に対して「おーいいね」や「こういうのだったかー」など、すべてに対して反応していました。それば、たとえ想像と違っても受け入れて愛でる。

この受け入れる、受け身であるということができている人って、なかなかいないのではないでしょうか。何かを多く知っている方が偉い、何かにこだわっている方が偉い、というような風潮の中、この穏やかなで、でも愛あふれる食べ物への眼差しは確かに『グルメ』とはまったく異なる次元に存在しているようです。

そこに描かれているものを食べたくなってしまう久住さんの漫画の数々。お話を伺っているだけでも同じで、それを食べたくなってしまう不思議さ。一体何なのでしょう……。

久住昌之さんの著作、どれをとってもおすすめですが、まだ『孤独のグルメ』しか読んだことがない方、『かっこいいスキヤキ』をぜひ読んでみてください。食べることを意識することで、大げさかもしれませんがきっと人生がおもしろくなりますよ。

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