みなさんは「摺師(すりし)」という職業をご存知ですか?
明治時代に「活版印刷」が普及するまで、日本では「木版印刷」というものが主流でした。木版印刷と聞くとあまり馴染みがありませんが、小学生の時に図工で経験した「版画」といえばイメージがしやすいかもしれません。
木版印刷は、3つの工程をそれぞれの職人が分業で行います。絵を描く人を「絵師」と呼び、木板を彫刻刀で彫る人を「彫師」、そして、その板を使って色を入れるのが「摺師」です。
そんな日本古来からある木版印刷の魅力をいまに伝えるのが、明治24年創業の「竹中木版」。原田裕子さんは、ここの六代目摺師として活躍されています。
彼女の職場は、京都の風情が残る町屋の二階。鮮やかな色の顔料に囲まれながら、「バレン」と呼ばれる道具を使って色を紙に刷り込んでいきます。
踊りとかもそうだと思いますが、経験を積むことでわかることが多いんです。私もたくさん失敗をしましたが、始めの頃はなぜできないのかがわからないんです。師匠に実演してもらっても、結局身体で覚えなければ身にならないし、理解しきれない。でも、何度も繰り返していると、ある瞬間にひとつずつ腑に落ちていくんです。(原田さん)
わずかなさじ加減の違いで、仕上がりに大きな影響が出てしまう木版印刷。どれだけ経験を積んだ職人さんでも、紙を持ち上げる最後の瞬間まで、どんな作品に仕上がるかはわからないといいます。
「人生はチョコレート箱のようなもの。開けてみるまで中身はわからない」
これは、映画『フォレスト・ガンプ』の中で登場する有名なフレーズ。箱の中には甘いチョコレートもあれば、ビターなもののある。気に入らないものもあれば、ときにはお酒の入った魅惑的なものもあるかもしれない。
人生と同じように、どんなチョコレートが入っているかは箱を開けるまでわからない。そんな特別な瞬間を、彼女は木版印刷を通じて体感しているのかもしれません。
原田さんは摺師として活躍する一方、「絵」「彫」「摺」を一貫して木版画を制作する版画家としても多くの作品を発表しています。
大胆な構図と、女性らしい柔らかい色づかい。2年前に人生初の出産を経験し、年を重ねるごとに、作風やデザインの幅はさらに広がりを見せているそうです。
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普遍的な美しさと、手仕事への情熱。
世界に誇れる文化がここには息づいています。
[It Wall]