伝奇とミステリーとラブコメとコミックとの好相性を楽しむ
妖怪や怪異などが登場するのは日本のライトノベルやコミックのお家芸です。しかも学生の男女がその主人公になるのはひとつの鉄板設定といえます。
しかも、そこにミステリー要素とラブコメが加わった、と聞かされると「とりあえず話を聞こうか」という気がしてきます。今回紹介する「虚構推理」はそんな一冊。今勢いがある伝奇ミステリーコミックのひとつです。
ヒロインは義足義眼の怪異と人との仲介役の女の子。主人公は怪異にも恐れられる不死の少年。そしてふたりは(片方はそう思っていないかもしれないが)付き合っています。
怪異に好かれる怪異のような人と、怪異に恐れられる怪異のような人が共に過ごせば、そこには当然ながら伝奇イベントが発生するのは道理。ふたりを中心に怪異が動き出していきます。
さらに、主人公の元彼女(婦警さん)が現れることで、伝奇とラブコメは渾然一体となりつつ、私たちを楽しい読書体験にいざなっていきます。
これ以上のネタばれはしたくないのですが、表紙で買った一巻、あっという間に読み切ってしまいました。「あ、いいかも」と思えたらぜひ買ってみてください。
ちなみに、タイトルの「虚構推理」の本質が解き明かされていくのはこれから(それでもぐいぐい読ませますが)。続刊にも期待!の展開になっています。
マンガ家の情熱が小説家の設定を補完し作品がレベルアップする
コミック巻末に原作者のコメントがついているのですが、2巻において、実は小説ではきちんと描写していないところがしっかりコミカライズされて嬉しかった、というような話が書かれています。
あまりネタばれはしたくないのですが、2巻のメインストーリーとなっている怪異の背景に、深夜ドラマとアイドルのエピソードがあり、原作小説では何十ページも書かれているのかな、と思わせるように、設定や絵が鮮やかに活写されているのですが、実はほとんどタイトルしか書いていないようなところをマンガ家さんのほうで補完したのだそうです。
こういうエピソードを聞くと、コミカライズの妙はここにあり、という感じがします。小説家が作り出した世界が、コミカライズによってさらに奥深さとビジュアルをもってレベルアップしたのだなーと思います。
本音をいえば、これ以上コミックレビューなんか読んでいないで、Amazonで注文してくださいよ!という感じです。もちろん、原作小説に手を出していくのもおススメです。小説版は、つい先日に文庫版が発売されたばかりなので手に入れやすくなっていますよ。
コミック版はあと何巻かで原作エピソードもクリアしてしまうのですが、ぜひその先は新作エピソードをお願いしたいところです。
(購入はこちらから。
虚構推理 (講談社文庫))
小説原作つきコミックが今おもしろい
小説原作つきコミックはこれに限らず、おもしろいものばかりです。
例えばドラマ化された「掟上今日子の備忘録」は西尾維新の小説原作でしたが、コミック版も1巻が発売中で、ドラマとはまた違ったいい感じです。
「ABC殺人事件」(星野泰視)はアガサ・クリスティの小説を大胆に翻案、昭和11年の日本に舞台を移しており楽しませます(オススメです!)。
これは小説ではありませんが、「スティーブ・ジョブス」(ヤマザキマリ)も、ジョブスの自伝を鮮やかにコミカライズしており、圧倒的に読ませます。
小説からのコミカライズは、単なるコミック化ではなく、マンガ家のセンスが加わることで作品の魅力が一段増すところに面白みがあります。今後も楽しい作品が登場するのが楽しみですね。