土地や空間に隠れている「記憶」がちらりと顔を出す

深夜にバイクで古い道を走っていたら、古い自動販売機が見つかって、好奇心に負けて一本買ったところ、周囲から不思議な気配がする。

トマトとキュウリを抱えてかつての海岸線が隆起した跡を歩いていたら、数千年前の海岸が視え、月をみていたら、今は削られてしまった山並みが満月に透かされて、そのラインが浮かび上がる。

今はすっかりきれいに舗装されたトンネルを抜けていたら、子どもの頃、親の手にひかれて通り抜けていた手彫りの細いトンネルの入り口をみつける。

そのどれもが、ちょっとした瞬間にやってきて、実際には存在しない「記憶」の感覚だったとしたらどうでしょうか。ぞくっとしますか? ドキドキわくわくしますか?

『コトノバドライブ』という不思議なタイトルのコミックが描くのは、数分くらいで終わる、そんな不思議な体験のお話。

日常の中に驚きや不思議な瞬間が隠れている

わが家は最近、2歳のこどもが言葉を話すようになってきたのですが、ときどき大人がスルーしてしまうようなことに注目して、こちらに話しかけてきます。

マンションのガラス越しに見える玉石のところにセミが死んでいる(きれいに上向きに落ちているので生きているようにも見える)を誰よりも早く見つけて、「うごかないね」と指をさす。

遠くで少しだけ見える花火をベランダから眺めて、「こわいね」という反応を示しつつも「きれいだね」という感覚を素直に吐露してみたり、本棚のちょっとした隙間の奥にある、暗がりに腕をつっこんで、おばけ探しをしてみたり。

オトナがどうでもいいと思うようなもの、見過ごすようなことを指摘する様子には、はっとさせられます。

『コトノバドライブ』の面白さを例えて言うなら、どこかそんな感じの感覚をつかむようなところにあります。ストーリーを伝えるよりも、とにかくコミックを呼んで肌感覚を味わってほしい、そんな一冊です。

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SFだけど、あたたかい手触りがあるコミック

作者の芦奈野ひとしさんは『ヨコハマ買い出し紀行』という名作SFで有名です。SFとはいっても、宇宙戦艦も軍事兵器もでてきませんが、何か大変革があって水面上昇と文化の隔絶が起きた日本で、ロボットと人間が一緒に暮らすのんびりとした生活が描かれました。

ロボットといっても年を取らない以外はほとんど人間と変わらない主人公たちは、人間よりも自然や日常に素直に触れあいそこから何かを感じ取ります。むしろオトナの人間のほうが日常を当たり前にしてしまい、気づくべきいろんな事柄を見過ごしているのかもしれません。

『ヨコハマ買い出し紀行』はそのユニークなSF世界観が評価され、2007年日本SF大会における星雲賞(コミック部門)も受賞しています。今読み返してみても、おもしろく読める色あせない一品です。

愛蔵版で再販されたり、電子版で配信されているので、こちらも合わせてオススメです。

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