詩人 菅原敏の職業図鑑』とは、詩人の菅原敏がすこし変わった職業の人を訪ねて、彼らの職場でインタビューをする連載企画です。

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菅原敏(すがわら びん)

詩人。アメリカの出版社PRE/POSTより、詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』で逆輸入デビュー。新聞や雑誌への寄稿・連載執筆のかたわら、スターバックスやビームスなど異業種とのコラボ、ラジオやTVでの朗読、デパートの館内放送ジャックなど、詩を広く表現する活動を続けている。Superflyへの作詞提供や、メディアプロジェクト『詩人天気予報』、美術館でのインスタレーションなど、アートや音楽との接点も多い。

◆菅原敏 Twitter:https://twitter.com/sugawara_bin


第2回目のゲストは、靴磨き職人の長谷川裕也さんです。前編・後編に分けてお送りします。

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長谷川 裕也(はせがわ ゆうや)

”日本の足元に革命を”と、東京/青山に、Brift H(ブリフトアッシュ)をオープン。靴磨きの高い技術はもちろん、BARのごときカウンター越しにシャンペンを振る舞い会話をしながら磨くという新しいスタイルを打ち出す。彼を慕うシューシャイナー(靴磨き職人)の集団と、足元に革命を起こす。

Brift H:http://brift-h.com/


前編では、長谷川さんが路上での靴磨きから店をオープンさせるまでの経緯をうかがいました。後編は、青山の骨董通りにある「ブリフトアッシュ」に移動し、長谷川さんの靴磨きにかける想いについてうかがっていきます。


お店を出す決意について

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Brift Hは、カウンター越しに会話をしながら靴を磨くスタイル

菅原:靴磨きで店を構えるというのは大きな決断ですよね。

長谷川:靴磨きでやっていこうと決めてからは、お店を出すことをずっと考えていました。品川に移ってからは、警察の撤去が少しずつ厳しくなっていたので、どこかでやり方を変えなきゃというのも常にありましたし。

連日警察やら鉄道関係者に囲まれて、もうどこに行っても靴磨きができないことが続いたんです。もう本当に八方ふさがりになって、「今日から路上やめます!」って感じで路上を引退したんです。

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長谷川:でも、路上の稼ぎは生活の中心だったので、このままでは生活もできない。電話訪問も試してみましたが、結局は店が必要だと痛感しました。路上を辞めたのが1月だったんですが、同じ年の6月にはこの店をオープンさせました。準備期間は実質4ヶ月ぐらいですね。

菅原:相変わらず決めてから行動が早いなあ。

長谷川:当時23歳だったので、若者起業家向けの制度を使って、国から500万円を借りて店をつくりました。場所は、はじめから青山に決めていました。

菅原:借金までして青山に店を出すことに不安はなかったですか?

長谷川:多少はありましたね。でも、もし失敗して1000万ぐらいの負債を抱えたとしても、自分ならすぐに返せるという根拠のない自身がありました(笑)。世の中には桁違いの借金をしても復活する人がたくさんいる。だから僕にできないはずがないと思い込んでました。

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菅原:お店を出したときの周囲の反応は?

長谷川:後日談でわかったのですが、まわりの知り合いには絶対に失敗すると思われていたようです(笑)。当時の僕には「この店は絶対に流行る!」と確信があったのですが。これが30歳くらいだったら、賢くなってるだけに挑戦しなかったかもしれませんね。

靴を指で磨くこだわり

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菅原:指で磨くことのメリットって何かあるんですか?

長谷川:革の中にクリームの成分がよく染み込みます。革のお手入れは肌のケアと似ていて、革製品で一番良くないのが乾燥なんです。なので、しっかりと成分を染み込ますように指で温めながら擦り込んでいきます。

菅原:おぉ、そうなんですね。

長谷川:靴磨きって光沢を出すことも大切なんですが、革に栄養を与えて長持ちするようにケアしてあげることも大切なんです。しっかりと栄養補給をしてあげれば、はきジワも目立たなくすることができます。

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リズム良く同じ作業を何度もくり返す長谷川さん

菅原:この方法は独自に編み出したもの?

長谷川:そうですね。もともとはあまりやらない方法だと思います。僕もはじめはブラシでやっていたんですが、あるとき試しに手でやってみたら、すごく染み込むのがわかったんです。だから、この店をオープンしたぐらいから素手でやる方法に方向転換しました。

菅原:靴磨きって、こうして眺めているだけでも楽しいですね。リズミカルな動きと音。バーカウンターでお酒を作ってもらう感覚にも似ているかも。布を指に巻き付ける仕草は、なんだかボクサーがバンテージを巻いているようにも見えますね。

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長谷川さんが考案したオリジナルの巻き方

長谷川:こういう靴磨きスタイルって、世界でもほとんどなかったと思います。今度、カナダのドキュメンタリー番組で「世界の靴磨き」という特集があるそうですが、日本はここが紹介されることになりました。もともとは自分が火付け役だったと自負しているんですけど(笑)。

成長するための「もう一歩」が欲しい

菅原:これからの野望、展望があれば是非お聞かせください。

長谷川:ニューヨークで店を開きたいですね。あと、世界中を飛び回るグローバルな靴磨き職人になりたいです。はじめからそうなんですが、いまでも「靴磨き+α」は模索中です。なかでも、アート、ファッション、エコ、教育は大切な要素だと思っています。

教育という点では、コンサルやセミナーをやっています。エコという観点では、靴磨き自体がエコというのもあるんですが、靴磨きに使う布はいらなくなったホテルのシーツをリサイクルしています。店で販売しているオリジナルクリームも詰め替え式にして中身を補充できるようにしています。

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ブリフトアッシュのオリジナルクリーム

長谷川:また、ファッションという点でも、2店舗目のようにアパレルとコラボもしています。でも、いまのところアートに関しては悩み中で…。かっこよく靴を磨くスタイルが浸透している中、もう一歩前に出るには何が必要か。そのあたりが課題なんですよね。

菅原:路上からすべては始まり、いまや世界デビューを目指すまでになった。本当にひとりのミュージシャンを見ているような活躍ぶりです。靴磨きのイメージを高めようとがんばっているし。

長谷川:まだまだです。でも、いつかは卒業アルバムの「将来なりたい職業」の欄に、クラスで1人か2人は「靴磨き職人」と書くような時代をつくりたい。これは僕の目標のひとつですね。

菅原:これからも靴を磨き続けたいと思いますか?

長谷川:そうですね。プレイヤーの面は少しずつ減らしていかないと、と思っているのですが、現場はいつまでも大切にしたいです。

詩と靴磨きの共通点「既成概念を壊したくなる」

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取材の間に磨いていた革靴

長谷川:もともとがストリートカルチャーにどっぷりだったからか、反骨精神というのが根にあるんです。成功している人たちの靴を磨きながらも、「こういう靴磨きのスタイルって新しくてカッコいいと思いません?」と勝負してる感じなんですよね。

菅原:そういうところは、前回紹介した茶人の松村さんも同じところがありましたね。

長谷川:僕も前回の記事を読ませてもらいましたが、既成概念を壊して「どうだ、カッコいいだろ?」とインパクトを与える感じは似てると思いましたね。敏さんも、詩の既成概念を変えようとしていますよね。ライブ感があるというか。

菅原:自分の声と共に、詩のない場所に詩を運ぶ機会は多いですね。新しい切り口を提案していくという考え方では、松村くんや長谷川さんと近しいものがあるのかも。

長谷川:初めてお会いした頃に敏さんのライブを拝見しましたが、衝撃的でした(笑)。

菅原:(笑)当時、詩の朗読って概ね沈黙のなかで粛々と行われていて、一度も面白いと思ったことがなかったんです。「朗読を楽しんで欲しい」という気持ちが今以上に強かった。聞いて欲しいところはしっかり聞かせつつも、ステージには音楽やユーモアを盛り込んだりして、緩急をつけたかったんですよね。

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長谷川さんが靴磨きで使う基本道具。オンラインストアで発売中

菅原:靴磨きもすごくライブ感があって、ここがひとつのステージになっていますよね。

長谷川:路上で靴磨きをしているときに気づいたことなんですが、靴磨きをされていて暗い顔をしている人ってひとりもいないんです。靴を磨いていると、みんな自然と笑顔になる。靴が磨き終わると、背筋が伸びて来る前と歩き方が変わっていたりします。

それがすごく素敵だと思っているんですが、詩や言葉には同じような力があると思うんです。

菅原:一篇の詩が心を支えたり、気持ちを軽くしてくれるように。

長谷川:本当にそう思います。すごく好きな言葉に「ルールやぶっても、マナー守るぜ」というのがあるんです。ルールはあまり好きではないけど、マナーはすごく大切だと思っています。

菅原:とても粋なスタイル。どこかしらストリート上がりの感性も影響しているんでしょうね。

「相手を喜ばせたい」それに関しては誰よりも敏感

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菅原:こうやってお話ししていると、長谷川さんはすごく人に好かれる素質があるんだろうなと。特に年上の人にかわいがられそうな。何か秘密があったりするんですか?

長谷川:そうですねぇ…。あえて言うなら「人を持ち上げる」のが上手いことですかね。自分で言うのも変ですが、「相手がこう言ってもらえたら喜ぶだろうな」というのが何気なく分かったりします。もちろん間違っていることもありますが。でも、そういうことにすごく敏感なんです。

菅原:だから英会話教材のフルコミッション時代も営業成績がよかったんですね。

長谷川:あのときに鍛えられた気がします。路上で立ち止まってくれた短い時間で、どれだけ盛り上げるかがポイントですから。限られた時間のなかで「この人は何に興味があるんだろう?」「何を言えば喜んでくれるだろう」というのを毎日探ってました。

その頃は、休みなく仕事をしていたので、結果的にすごく鍛えられたんだと思います。

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菅原:トライ&エラーを繰り返しながら、ずっと人を観察してきたというわけだ。

長谷川:そうですね。根源はそこですね。19歳という年齢だったからやれたというのはありますね。今のベースはそのときにつくられた気がしますね。

菅原:ルーミーの読者は長谷川さんよりも少し若い人たちが多いのですが、いまの若い人たちへ伝えたいことはありますか?

長谷川:若い人に限らず、いまって無理をして高い買い物をする人って減ってますよね。昔と違って、一張羅を持つという感覚もあまりない。それはそれでいいと思うのですが、革靴を大事にすることって、無理をして“いい革靴”を買うことから始まったりするんです。

菅原:なるほど。

長谷川:捨てても惜しくない革靴だと手入れもしなくなる。でも、背伸びをして買った革靴は長く大事に使いたくなります。背伸びをすることは、若い間は大事なことだと思っています。遊びに行く場所や、ごはんを食べる店とか。

だから、少しだけ背伸びをして、いい革靴を買ってほしいなと思います。物を育てていく楽しみもあるし、高いものには高いだけの理由がある。物を選ぶ規準にも影響してくると思います。もし靴磨きに興味があるなら、いい革靴を無理して買ってみてほしいですね。

菅原:最初の一足にオススメのブランドってありますか?

長谷川:「ロイドフットウェア」は入門編としてすごくオススメです。値段も3万ぐらいで買えますし、フィッティングもしっかりしてくれるので、専門店で靴を選ぶ喜びを味うことができますよ。

菅原:本日は楽しいお話をありがとうございました。

長谷川:こちらこそ、ありがとうございました。


長谷川さんのスケジュール

【仕事の日】
5:00 起床
6:00~9:00 メール返信、雑務、英語の勉強
9:00~11:00 ミーティング、取材、靴磨き等
11:00~12:00 ランチ
12:00~18:00 店舗での靴磨き
18:00 帰宅
18:00~21:00 家族と過ごす。
21:00 就寝

【休日】
4:00 起床。車で海まで移動。
6:00~9:00 サーフィン
12:00 帰宅&家の掃除
14:00 子供を迎えに行き、家族と過ごす。
20:00 就寝

BriftH

次回の「菅原敏の職業図鑑」もお楽しみに。

Brift H
ADDRESS 東京都港区南青山6-3-11 PAN南青山204
TEL&FAX 03-3797-0373
OPEN 12:00〜20:00

Text by Goro Inazaki
Edit by Aya Nakashima
Photographed by Kenta Terunuma

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