「藍染め」と聞けば、なんとなくイメージはつくけどあまり馴染みはない。そんな人がほとんどだと思います。
その「藍染め」に、ニューウェーブが起きているのをご存知でしょうか?
徳島県を拠点に、藍の栽培から染色、仕上げまですべてを一貫して行う4人組「BUAISOU」。深く冴えたジャパン・ブルーを武器に、数多くのブランドやショップとのコラボなども行い、2014年5月にはニューヨークのブルックリンにスタジオを設立するまでに。
ルーミーでは徳島県上板町にあるBUAISOUのスタジオを訪れ、設立メンバー渡邉健太さんに、藍染めの魅力とBUAISOUについて、そして今後の展開についてお聞きしました。
──そもそも渡邉さんと楮さんは徳島県出身ではなく、藍染めに魅せられて徳島に来たとか。そのきっかけは?
もともと「青」が好きで、藍に興味がありました。それで体験してみてすごく気に入って、当時3年くらいサラリーマンをしていたんですけど、仕事を辞めて一念発起し、2012年に地域おこし協力隊(※)として徳島に来ました。
※過疎地域に地域外の人材を積極的に受け入れ、定住を図定住を図かり、その経験やアイデアなどを地域で活かすことで、地域の活性化を図っていく総務省の制度
──もう一人の設立メンバーである楮さんとは、その地域おこし協力隊で出会われたんですか?
そうです。楮はずっとテキスタイルとか染色を勉強していて、出会ったときには、すでに彼なりの天然染色や合成染色をやっていました。その流れで藍染めの天然染色にチャレンジしたくて徳島に来たと言っていました。
──楮さんとの出会いもBUAISOUの設立も、2012年なんですね
はい、もう出会ってその年に。というのも、毎日畑に出てみると、その作業量の多さに驚き「これは1人では無理だ」と思ったんです。それで「協力してやらないか?」と誘いました。
──結城さんはどういったきっかけで加入されたんですか?
結城は大学の後輩だったんです。徳島に来る前、仕事を辞めたこともあって地元にある大学の先生に挨拶しに行ったのですが、そのときに喫煙所でたまたま結城と会ったんです。「徳島で藍染めしようと思う」「じゃあ遊びに行きます」みたいな話をして。それで徳島に来て一緒に作業をしました。
はじめは2日間だった予定が、1週間くらい滞在して。その後、就職したけど、藍染めが忘れられず、仕事を辞めてこっちに来たんです。それで僕が最初に教わっていた藍師にまず弟子入りしました。それが2013年ですね。
──三浦さんは?
三浦は徳島出身で、すでにファッションデザイナーとして活動していました。藍を使って服を作っていたこともあり、話していたら意気投合して「BUAISOUが今度会社として独立するから一緒にやらないか?」と誘いました。
──起業したきっかけは?
数年間、藍をやってきて、年齢も年齢だからもう冒険もできないし、ここらで事業としてがっつりやろうと。地域おこし協力隊でお世話になった、この上板町に恩返しをしたいという気持ちもあり、同町(上板町)に決めました。
──藍屋さんから染料を買うという選択肢もあると思うのですが、自分たちで畑から藍を育てる理由とは?
「青色を作りたい」というのが最初にあるんです。ただ「染め」が好きで来たわけじゃなく、青色が好きで徳島に来た。だから色を買っていても何もおもしろくない。それに農業や藍の発酵過程にもすごく興味があったんです。
…どっちかというと、畑ありきで染め物をしているようなものですね。畑をしなくなったら染め物もしないです。
──かつて徳島の藍を 「本藍」、そのほかを「地藍」と区別したそうですが、徳島の藍の魅力とは?
その昔、徳島を流れる吉野川は、ちょうど藍の刈り取りが終わって植え付けを行う前によく氾濫していたそうです。
藍はすごくたくさんの肥料を使うから、同じ畑で毎年作ると連作障害が出てしまう。ところがここでは氾濫で毎回土壌がリセットされるので、藍を育てるには環境が良かったのでしょうね。当時このエリアのほぼ全域が藍畑だったそうです。
それに、藍をたくさん栽培し、ある程度の量を発酵させることで、いい発酵をするんですよ。
──渡邉さんは徳島出身ではありませんが、徳島県の魅力は何でしょうか? 県外から来たことによる苦労もありましたか?
魅力は、誰も知り合いがいなかったことですね。何をするにもゼロからのスタートで、すべてを自分でやらないといけない。何をしても自己責任。それが魅力的でした。
でも、最初は苦労しましたね。僕らはルックスもロン毛に髭面だったし(笑)。でも地域に入り込んでからは、みんなすごく優しくしてくれて感謝しています。ご近所から畑の野菜をいただくこともあります(笑)。
──BUAISOUとして活動を始め、最初にやったことは何ですか?
「反対のことをしてやろう」と思ったのが最初です。
ほとんど全部濃く染まっているのが一般的な藍染めのイメージなんですよね。白い部分があるのはタブーというくらい。それに対してむしろ青い部分がほとんどない、みたいなのを作りました。それから全部反対のことをしていった。めっちゃ叩かれましたけど(笑)。
でも、ちょっと出てるくらいなら叩けるけど、出過ぎたら叩けないだろうと思って。まずは”枠にはまらない”っていうポジションを作るようにがんばりましたね。それからはできることを増やして、若い人にも届いていくような地固めをしていきました。
──ニューヨークのブルックリンにもスタジオを設けていますが、海外を意識したタイミングは?
地域おこし協力隊の満期は3年で、半年ごとに目標を立てていくのですが、3年経ったら海外で何かやりたいと思っていました。
ちょうどそのタイミングで「たまたまニューヨークでやりませんか?」という話がきたんです。これは行くしかない、と。技術的にもまだ未熟だし、失敗する可能性もあったけど、あそこで行かなかったら今はなかったと思いますね。それが2014年の4月です。
ニューヨークはイエスかノーしかない場所だから、お客さんの反応がおもしろかったですね。今は大量消費、大量生産、ファストファッションの時代ですが、ニューヨークの人たちはストーリーがあるモノづくりを大事にしている。BUAISOUのプロダクトも商品だけど「作品」として見てくれている感じがありました。
モノづくりに対するリスペクトがあって、昔の日本人のような感じがしました。
──やはりプレゼンテーションの仕方は工夫しましたか?
はい。畑はニューヨークに持っていけないので、映像を作っていただき、上映しました。
──海外展開のほか、コラボレーションが多いのもBUAISOUの特徴ですよね
BUAISOUでは、製品全体よりも「色」をベースに考えています。色を認めて欲しいんです。だから「うちでその色を」と言われたら、すごくうれしいんですよね。一緒にモノをつくるのも楽しいし。
売り込んだり、売り込まれたりというよりも、どこかで縁があって意気投合して「一緒にやりましょう」となることが多いです。
──企業としてのBUAISOUにメンバーは何人いるのでしょうか?
正式には5人。インターンや研修の受け入れでさらに2人います。会社も農業と加工部門で分けています。
──分けている理由は?
融資をもらうのに一次産業が入っているとダメだということで分けざるを得なかったんです。でも、そのおかげで地元で農業をやるための支援を受けられたりして、結果的には良かったですけど。
──BUAISOUで働く1日のスケジュールを教えてください
季節によって異なりますが、例としては、朝8時に「選別」から仕事をスタートします。藍は葉っぱだけに色があって茎は使わないので、葉と茎を分けていきます。午前中はそれで終わり。
午後からは染め物をしたり縫製をしたり、畑に出て雑草を取ったり。夕方4時からは畑に出て、翌朝に選別する分を刈り取ります。6〜7時に刈り取りを終えて、ひとっ風呂浴びて、それからまた染め物をするか縫製するかという感じですね。
最近は9時に終えられるときもありますが、納期が立て込んでいると徹夜作業になることも少なくありません。
──休みの日は何をしていますか?
休みの日は何をしていいか分からないんですよね。畑の様子も気になりますし(笑)。仕事でやってるけど好きで始めたことだから、納期に追われても楽しいし。だからあまり遊ぶということはないですね。その分、仕事で東京や海外に行ったときにはじける感じが楽しいです。
──BUAISOUとしての直近の目標は?
会社を設立したばかりなので潰さないことですね(笑)。とりあえずは、1年間しっかりやること。1年やれば大体の算段がつく。そこで得た経験値で、次に新しいことができる。会社の全部がこけないくらいまでは、いろいろ失敗しようと思ってます。
もともとBUAISOUはデニムを作りたいという思いから始めたので、少しずつ挑戦をしていこうとしています。あとは、とにかくデカいものを染めてみたいですね。
──今後の活動も楽しみにしています。ありがとうございました。
BUAISOUのウェブサイトやSNSでは、最新ニュースや徳島での日々の様子が更新されています。スタジオで生まれる表情豊かな藍色と、ホッと落ち着く徳島の温かい空気を感じることができますよ。
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ルーミーでは、新サービス「machi-ya」の暖簾作りを通じて、BUAISOUの藍染の工程に密着しています。「実際には藍染ってどうやってやるんだろう?」そんな疑問を持った方は、以下の記事をご覧ください。(近日公開)
https://www.roomie.jp/2015/09/286429/
BUAISOUとコラボレーションし、徳島の歴史ある窯元から生まれた「SUEKI CERAMICS」のインタビューもあわせてどうぞ。(近日公開)
https://www.roomie.jp/2015/09/289219/
Photograph by Kenta Terunuma