スウェーデン南部の都市マルメ(Malmö)に初めて出会ったのは、2015年5月のこと。
ルーミーで以前に紹介したように、港町らしい活気と豊かな水の風景に包まれながら、街をブラブラと散策しているうちに、「なんだか心地よい」という、マルメ独特の雰囲気にすっかり魅了された私。
https://www.roomie.jp/2015/06/267500/
「この街をもっと深く知りたい!」という衝動に突き動かされるように、その一ヶ月後にはマルメに舞い戻っていました。
3週間にわたる現地生活を通じて、私が見聞きし感じたマルメの姿。5つのポイントを通じて、ありのままに綴ってみたいと思います。
1.国際色が豊か
マルメは、実に国際色が豊かな街。
私が3週間通っていた語学学校「Folkuniversitetet」のクラスメイトの顔ぶれからも、このことがよくわかります。
クラスメイト15名の国籍は、英国、ロシア、チェコ、ブルガリア、米国、オーストラリア、インド、南アフリカ、エクアドル、フィリピンなど、見事にバラバラ。「進学のため」「転勤で」「家族の仕事の事情に合わせて」と、その動機も様々ですが、世界中からいろんな人たちが移り住み、マルメの街を形成していることを改めて実感しました。
地元のビアパブ「Taproom Malmö」が、お客さんの多様な嗜好に合わせて、世界中から常時40種類以上のビールを取り揃えているのも、納得です。
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2.街がコンパクト
カフェ、レストラン、ショップなどがコンパクトに集まり、人との距離が程よく近い、マルメ。
休日に街を散歩していると、語学学校のクラスメイトとばったり会ったり、昼間にカフェで何気ない会話を交わした人と、夕方になったら別のビアパブでばったり再会、なんてこともよくありました。
フラットな地形は、サイクリングにはもちろん、ジョギングにも最適。
水の景色が美しいマルメ中央駅(Malmö centralstation)周辺から、ゆるりとした雰囲気に包まれている南部の街Möllen(メラン・Möllevången)まで、3kmほどのジョギングは、マルメらしい街の空気を全身で感じられる、とても贅沢なひとときです。
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3.世界各地にアクセスしやすい
都市部の喧噪と比べ、静かでこじんまりとしたマルメは、北欧の玄関口・コペンハーゲンカストラップ国際空港にアクセスしやすいという利便性も魅力です。
マルメ中央駅から電車で20分ほどで、コペンハーゲンカストラップ空港駅に到着。空港駅のプラットフォームでは、コペンハーゲンを拠点に世界各地を行き来する旅行者の姿をよく見かけます。
マルメを拠点に、ロンドン、ニューヨーク、パリ、日本など、世界各地の食文化を伝えるフード雑誌『FOOL』は、このマルメの地理的メリットをうまく活用している地元企業のひとつ。
『FOOL』の編集長を務める、ロッタ・イェゲンセンさん(Lotta Jörgensen)は、2012年の創刊以来マルメにオフィスを構えている理由を、次のように話してくれました。
マルメにオフィスを構えたのは、もともと私たち夫婦がこの街で暮らしていたから。世界各地へ取材に出かける機会も多いけれど、不便を感じたことはないわ。20分ほど電車に乗れば、コペンハーゲンから世界中どこへでも移動できるんですもの。
4.変革期にあり、活気に満ちている
マルメは今でこそ、国際色豊かで若い活気に溢れた街として知られていますが、1970年頃から主要産業であった重工業が衰退し、1990年代半ばまで長期的な不況に悩まされ続けた時期がありました。
マルメ西部の再開発地区「ヴェストラ・ハムネン(Västra Hamnen)」には、廃墟となった工場跡が、今も生々しく残っています。
マルメで生まれ育ち、現在、非営利団体「Resilient Regions Association」のCEO(最高経営責任者)として、魅力溢れるまちづくりに取り組む、Magnus Qvantさんは、マルメが経験した苦境の時代を、次のように振り返っています。
マルメは、かつて、重工業が盛んな街でしたが、1970年代以降、大企業が次々と撤退していくにつれて、失業者は増え、街は活気を失い、未来に希望を持てる状況ではありませんでした。地元の行政機関・企業・研究者らを中心に、いろんな人たちが集まり、「マルメを再び活気づけるためには、どうすればいいだろう」と、幾度となく膝をつきあわせて議論を重ねたものです。
転機となったのは、1998年、ヴェストラ・ハムネンに、マルメ大学(Malmö högskola)を誘致したこと。次第に、若い世代が多く移り住むようになり、活気が戻ってきたそうです。
ヴェストラ・ハムネンは、現在、高層ビル「ターニング・トルソ(Turning Torso)」をはじめ、現代的な建物が立ち並ぶ、新たなアーバンエリアとして注目される一方、地元では「モダンすぎて、本来のマルメらしさが感じられない」と賛否両論あるのも事実。
とはいえ、一度は廃墟になりかけた街が、最先端の都市として生まれ変わろうとしている姿もまた、マルメらしい魅力なのかもしれません。
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また、2000年6月に、コペンハーゲンとマルメを結ぶ「オーレスン橋(Øresundsbron)」が開通して以降は、この二つの都市の間で、ヒト・カネ・モノの交流がさかんになり、マルメの成長をさらに後押ししてきました。
オーレスン橋(Øresundsbron)を通じてコペンハーゲンと直結する、マルメ南部の街ヒリエ(Hyllie)も、今後の発展が楽しみなエリアのひとつです。
https://www.roomie.jp/2015/09/284321/
5.街全体がゆるやかにつながっている
ヒトとヒト、ヒトと緑が、ゆるやかにつながっているマルメ。
住宅街には、地元住民によって運営されているコミュニティ農園があちこちにあり、草花を世話したり、土に触れたりしながら、ご近所さん同士が交流を深めています。
このゆるやかなつながりは、マルメのローカルビジネスにもみられます。
Möllenのカフェ「Cafe number 6」では、コーヒー豆を地元マルメの焙煎所「Solde Kafferosteri」から調達し、この焙煎所が経営するカフェ「Solde Kaffeebar」では、マルメ発のフード雑誌『FOOL』を販売。
さらに、『FOOL』のオフィスの一角では、地元の人気レストラン「Saltimporten Canteen」が出張し、テイクアウトのランチメニューを提供しています。
https://www.roomie.jp/2015/08/280211/
コンパクトな街の中に、様々な表情を持つマルメ。
わずか3週間の滞在ではまだまだ知り尽くせないほど、多くの魅力が秘められているような気がしてなりません。
ただひとつ、わかったことがあります。それは、「マルメのことを、もっと好きになった」ということ。
Photographed by Yukiko Matsuoka