前回のお店「ほしぐみフライドキッチン」の紹介記事はこちらから。
三角地帯に店を構えて31年。街の蕎麦屋として根付いた「久寿屋(くすや)」さん。
6テーブルの店内は決して大きくはありませんが、年月を重ねてきた空間のためか、ホッと肩の力を抜いて食事ができる場所です。移り変わりの激しいこの地帯で長く営業されてきたということは、街の人にとってきっと欠かせない存在なのでしょう。
取材の最中にもスーパーの買い物袋を片手に、男性が一人ふらりと入ってくるような、気軽に立ち寄って食べられる麺処です。
無造作に机に置かれた新聞、壁には相撲番付表。表のショーケースには、干支の羊や季節のあじさいが生けてあります。ふと今を感じとれる、真似したい心掛けですね。
蕎麦といえば、麺類の中でも特に栄養価が高く、食欲が落ちるこの時期に頼もしい食材です。食後のお腹が重くなりすぎない所もいいですよね。
久寿屋さんは麺もおつゆも自家製で、毎日しこんだものを使っています。
麺は蕎麦粉7割小麦粉2割で、更科と田舎の2種類があります。
見た目が白く上品な味わいの更科は細麺でこしがあり、つゆ絡みが良くつるっとした喉越しを楽しめます。田舎は太麺で、蕎麦の実を挽くときに殻も混ぜ込むので、蕎麦の香りが強いのが特徴です。鴨などの食材にもまけない蕎麦の風合いをより楽しめます。
定番からオリジナルメニューも豊富な中から「鴨つけ麺」「小海老でござる」「お多福さん」を注文しました。ランチセットや、曜日変わりのメニューもありますよ。
鴨つけ麺は田舎蕎麦で、鴨のさっぱりした脂の旨味が十分に溶け込んだ汁に蕎麦をくぐらせます。
鴨と一緒に煮立てた具の葱は欠かせないですね。甘辛い汁と鴨肉に合わさる蕎麦の味わいはたまりませんよ!
自家製のつゆは、水からこだわり、アルカリイオン水を使っています。
根昆布と鰹節を使いじっくりとった出汁に、醤油などの調味料を加えて丁寧に作られたつゆは、余計な物の入っていない食材の旨味が凝縮されたもの。まろやかで甘さが控えめ、さらっと舌の上をすべっていく上品な味わいです。
小海老でござるとお多福さんは、徳利に入った汁をぶっかけでいただきます。麺はお好みで選ぶ事ができ、今回は更科で頼みました。たっぷり添えられている汁の量も、嬉しいサービス。おいしそうな天婦羅が皿を彩ります。
名前からも惹かれるお多福さんは、綺麗に盛りつけられた天婦羅の種類の多さに、福来り気分に。具材は新玉葱に獅子唐、茄子と食べ頃の野菜が並んでいます。飾り切りの蝶が盛りつけられている四角い食材は、餅の天婦羅で、香ばしい衣に染みた蕎麦つゆが餅と相性抜群。食べ応えがありました。
つるっと蕎麦をすすりながらさっくりと揚がった天婦羅をかじり、黙々と平らげてしまいました。〆の蕎麦湯を飲みながら一息。あったまりました。
夜の営業もしており、日本酒や焼酎などの酒類も置かれています。蕎麦湯を焼酎で割った前割りという蕎麦屋ならではの飲み方もあるそうです。
つまみメニューには卵焼きや馬刺などがあり、ゆっくり杯を傾けながら最後に食べる蕎麦を考える、そんな時間の過ごし方もしてみたいですね。しっかり食べたい時には丼もの、カレーもあります。
仕込みの合間に店主の石澤仁さんにお話を聞かせていただきました。
まずは気になっていた窓や箸袋の絵、久寿屋のマスコットのような存在です。これは、修業時代の店の社長さんが描かれたものだそう。あちこちで蕎麦を食べている愛嬌ある姿が気になります。
石澤さんは15歳から蕎麦修行に入り、15年勤めた店の暖簾分けでこの地に店を構え、夫婦で切り盛りされています。
若い時から一筋に続けられてきた経歴に頭が下がる私達に、「伊達の31年です」と笑わせてくれる気取りの無いきりっとした佇まいが格好良い大人の姿。朝から晩まで黙々と注文と仕込みをこなして蕎麦の道46年目です。
看板のように昼でも夜でもいくらでも毎日でも食べられそうな蕎麦。今日のご飯につるっといかがですか?
住所:三軒茶屋2-15-14 ABCビル1F
電話番号:03-3487-5211
営業時間:11:30~21:00 (15:30~17:30の中休みあり)
土曜日定休
Photographed by Takashi Sasaki