世界最大級の家具・雑貨チェーンのイケア。
「より快適な毎日を、より多くの方々に」をビジョンに掲げるイケアにとって、人々のリアルな“毎日”を知ることは、そのスタート地点。
イケアでは、ユーザーの声に耳を傾け、生活スタイルや住空間の実態を正しく知るべく、独自の家庭訪問調査「ホームビジット(Home Visit)」を定期的に実施しています。
では、イケアが実際に行っているホームビジットとは、いったいどのような調査なのでしょう。また、この調査を通じて得られた情報は、イケアの商品開発や店舗運営などに、どのように活かされているのでしょうか。
ホームビジットをはじめ、様々な調査分析を担う、イケアのリサーチ部門長(Head of Research)Mikael Ydholmさんに、これらのテーマについて、じっくりとお話をうかがいました。
-イケアで行われている「ホームビジット」とは、どのような調査なのですか。
ホームビジットは、1年間で数百件ほど実施されており、基本的な概略を知るものから詳細な調査まで、4つの段階で構成されています。
① お宅訪問
最も一般的な調査方法です。
一般家庭を訪問し、居間、キッチン、寝室、風呂場、収納スペースなど、実際に巻尺を使ってサイズを測定したり、各部屋の様子を写真で記録します。ここでは、「シューズを何足、持っているか」とか、「クローゼットに、ジーンズが何本かかっているのか」といった細かなことまで、チェックしています。
同時に、訪問先でアンケートを行い、食生活やライフスタイル、好みなどを聞かせてもらっています。
② インタビュー
ユーザーから直接に話を聞き、住空間や生活スタイルの背景にあるものを探ります。
たとえば、家庭での団らんのスタイルを聞くことで、住空間を実際にどのように使っているのか、より深く理解します。
「現状に満足しているか?」、「不便に感じていること、変えたいと思っているところはないか?」といった投げかけによって、ユーザーの具体的なニーズや理想の生活像を把握していくのです。
③ ユーザーの観察
第2段階のインタビューまでで、ほとんどの情報は得られるのですが、つい“いい格好”をして、実態よりも自分をよく見せようとするのも人間の性(さが)。また、無意識で日常的にやっている癖や習慣もあるでしょう。
そこで、人類学者に家庭の様子を観察してもらったり、ビデオカメラで撮影して、普段の行動をモニタリングします。
たとえば、ソファーは実際にどう使われているでしょうか? 常にきちんと腰かけて、お茶を飲んだり、テレビを観たりしているとは限りません。
ソファーに寝転がって、新聞を読んだりすることもあります。
日本や中国では、ソファーを背もたれにして、床に座ってくつろぐ人が多いでしょう。
私たちイケアは、毎日の生活で使われる、日常のソリューションを提供している会社です。だから、私たちが知りたいのは、こういうリアルな姿なのです。
④ 参加型研究
第4段階の調査として、最近では参加型研究(Participatory Research)の手法を、試験的に取り入れはじめました。
一般家庭にうかがい、調査員が家庭の人と一緒に、洗濯や洗い物など家事をやってみることで、ユーザーが住空間をどのように使っているのかをより詳しく理解するのが狙いです。
-「ホームビジット」を通じて得られた情報は、イケアでどのように活用されていますか。
私の部門では、商品開発にフォーカスしたものがほとんどです。
ホームビジットからの情報に加え、他の研究機関などから公開される学術論文、大学や学者、他の企業らとの共同研究プロジェクトを通じてインサイトを導きだします。
特定のテーマごとに、関連するデータやインサイトを整理しているケースもあります。たとえば、世界各地の都市部では「狭小な住空間で、いかに快適に生活するか?」が課題となっています。
イケアでは、このテーマに特化したナレッジプラットフォームを構築し、具体的なソリューションにつなげるための情報を、社内で共有しています。
-イケアは国際的な企業でありながら、地域をていねいに理解し、順応しようとするローカルな面も持ち合わせているように感じます。「ホームビジット」は、イケアの国際性とローカル性をどのように繋いでいますか。
基本的には、国際性とローカル性の組み合わせだと思います。
私たちイケアは、スウェーデンの会社であり、スウェーデンのブランドです。スウェーデンが受け継いできたものに誇りを持っていますし、これこそ私たちの“背骨”です。
一方で、世界各地で事業を展開するからには、地域ごとの文化や習慣、特性をきちんと理解する必要があります。とりわけ、私たちにとって、住空間の違いを正しく知ることは重要なポイントです。
たとえば、日本では、イケアジャパンが、ホームビジットを通じて、各地域の特徴を調査し、「ルームセット」と呼ばれるイケアストアの家具ディスプレイを、それぞれの地域に合ったものにアレンジしています。
この点については、まだ改善の余地はあると思います。ルームセットなどを通じて、各地域に応じた、よりよい住空間や生活スタイルを、もっと提案していきたいですね。
個人的には、とりわけ「畳」は、日本が受け継いできた素晴らしい財産だと思います。
日本のかたちやデザインは、スカンジナビアデザインにも通じるものを感じますし、シンプルで、スウェーデンのデザインともなじみやすいと思いますよ。
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創業者イングヴァル・カンプラード(Ingvar Kamprad)さんが幼少期のマッチ売りを通じて学んだ「顧客のニーズを正しく把握することの大切さ」は、80年以上経過した現在もイケアに受け継がれ、そのための取り組みは、より多様に進化し続けています。
世界各地のイケアストアをのぞいてみると、その地域の暮らしが、垣間見れるかもしれませんね。
今回ルーミーでは、イケアからオファーがあり、スウェーデンの故郷であるエルムフルトを訪れました。エルムフルトの他に、ストックホルムやマルメなど、スウェーデンの都市についても紹介していくのでお楽しみに。
Sweden Trip Diary
#ストックホルム
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・コンパクトシティ「マルメ」には、心地いい日常があったんだ
・マルメの穏やかな日常とサードウェーブコーヒー#イケアタウン探訪記
・イケアが生まれたスウェーデンの小さな村、知ってる?
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Photographed by Magnus Glans, Yukiko Matsuoka and Thinkstock
Illustrated by Mai Kurosaka