デンマークの首都コペンハーゲンから国境を超え、北東の方向へ電車に揺られること、1時間半。
スウェーデン南部スモーランド地方(Småland)に、エルムフルト(Älmhult)という人口1万5000人ほどの小さな村があります。
世界最大級の家具・雑貨チェーン、イケア(IKEA)の創業者イングヴァル・カンプラード(Ingvar Kamprad)さんが生まれ育った地であり、現在もイケアの重要な拠点が集まっている、通称“イケアタウン”です。
今回ルーミーでは、イケアから特別なオファーがあり、この“イケアタウン”を訪れました。
この地域は、元来、砂のようにさらさらと痩せた土に、砂利が混じり、大きな石や岩が散らばる、荒れた地。
その昔、開拓者たちは、みんなで力を合わせ、石や岩をひとつひとつ懸命に取り除き、壁のように積み上げ、生活のための場所を整えていったといわれています。
この地の歴史は、今も村のあちこちに残る岩壁とともに、イケアの価値を生み出す源泉のひとつ「Togetherness(連帯感)」として、現代に受け継がれています。
エルムフルト駅から10分ほど歩くと、イケアの拠点が立ち並ぶエリアが出現。
商品開発や品質検査といった“ものづくり”の根幹を担う部門に加え、無料カタログ「IKEA Catalogue(イケア・カタログ)」の製作スタジオ、人材育成のための研修施設などが、集まっています。
主要施設について、それぞれの概要を紹介していきますね。
① IKEA Tillsammans
「IKEA Tillsammans(イケア・カルチャーセンター)」は、創業者であるカンプラードさんとともにイケアが歩んできた足跡を伝えるミュージアム。世界各地のイケアのコワーカー(従業員)を対象に、イケアの歴史や企業文化を伝える教育プログラムなども実施されています。
800㎡にわたるフロアでは、創業当時からの貴重な品々が、時代を追って、数多く展示されています。例えば、カンプラードさんのビジネスの原点である「マッチ売り」のエピソードに出会えたり。
LINK!「マッチ売りから世界の家具王へ…イケアの原点を探ってみたよ」
② IKEA of Sweden
「IKEA of Sweden(イケア・オブ・スウェーデン)」は、イケア商品のあらゆるデザインを担っている場所。この場所で開発される商品数は、1年間でおよそ2000点にものぼります。
IKEA of Swedenのアイコン的存在ともなりつつあるのが、この建物の中心にある、巨大な階段広場。オープンでフラットな空間づくりへの工夫が施されています。
③ IKEA Test Laboratory
収納家具、ベッド、テーブル、ソファ、カーテン、カーペット、照明、電球、キャンドルまで、多種多様なイケアの商品を、すべて、検査し、イケアの品質をマネジメントしている施設が、「IKEA Test Laboratory(イケア・テストラボ)」です。
例えば、ソファは座ったときの衝撃などを考慮し、背もたれと座面に重しを繰り返し動かすことで、その耐久性をテストしています。
④ IKEA 1
現在、IKEA 1 がある場所は、1958年にイケアストア第1号店が開設された場所でもあります。当時は、欧州最大級の規模を誇る家具店でした。
かつてイケアストア第1号店の倉庫だった建物は改装され、現在、「IKEA 1」と呼ばれる展示場として利用されています。
2015年5月12日、世界の報道機関・メディア関係者を招き、イケアが描く家庭生活の近未来像や、これに向けた最新の取り組みをプレゼンテーションする「Democratic Design Day 2015(デモクラティック・デザイン・デー)」が開催されました。
⑤ IKEA Communications
「IKEA Communications(イケア・コミュニケーションズ)」は、イケアの主要メディアである「IKEA Catalogue(イケア・カタログ)」の製作をはじめ、イケアの広告制作を一手に担う部門。
8000㎡におよぶ北欧最大級の撮影スタジオを擁しています。
この撮影スタジオで製作された2015年版の「IKEA Catalogue」は、英語・スウェーデン語・日本語など、32言語に展開され、46の国と地域で、合わせて2億1700万部が発行されています。
小道具が集まる部屋には、調理器具や食材、調味料、食器、置物、おもちゃなど、細部にまでこだわるセットづくりのための“名脇役”たちが、整然とスタンバイ。
撮影スタジオでは、ひとつのセットにつき、平均1週間かけて、撮影が行われています。
アートディレクター、フォトグラファー、コピーライター、インテリアデザイナー、大工、スタイリストら、各分野プロフェッショナルが結集し、リアルで、かつ、インスピレーションに溢れる住空間を、ていねいに創りあげていくのです。
1943年の創業以来、着実に成長を重ね、世界28カ国に300を超える店舗を展開するグローバル企業となった今日も、この小さな村エルムフルトに根を張り続けるイケア。
この“イケアタウン”は、時代とともに柔軟に進化しながら、自らの原点を大切にする、イケアの姿勢を象徴するような場所でした。
“イケアタウン”以外にも、ストックホルムやマルメなど、スウェーデンの都市についても紹介していくのでお楽しみに。
Sweden Trip Diary
#ストックホルム
・深い青と輝く光…ストックホルムってどんな街?
・360度、見渡す限り本のパノラマが広がる図書館に行ってみたよ
・“世界一長い美術館”、ストックホルムの地下鉄アートがすごい#マルメ
・コンパクトシティ「マルメ」には、心地いい日常があったんだ
・マルメの穏やかな日常とサードウェーブコーヒー#イケアタウン探訪記
・マッチ売りから世界の家具王へ…イケアの原点を探ってみたよ
・巨大な階段は、イノベーションが生まれる、みんなの「たまり場」
・みんなに安心して使ってもらいたいから、イケアのテストは厳しいんだ
・知ってほしい、イケアが大切にしている5つのこと
・名物ミートボールを超える!? イケアに“ベジボール”が近々登場するよ
・ミカエルさん、教えてください「イケアのお宅訪問ってなに?」
・ベトナムのバンブーとスウェーデンデザイナーがコラボしたよ
Photographed by Magnus Glans, IKEA Japan and Yukiko Matsuoka
Illustrated by Yurie Sato and Mai Kurosaka