SHARE

○建物が消えるときは、記憶が消えるとき

建物はどんどん消えていきます。特に東京では地価が高いことと土地利用のニーズが強いことから建て替えがひんぱんに行われています。

しかし、新しい建物がひとつ建つ、ということはそこに以前あった建物が消えたということです。最近ではマンションが一棟建つために一戸建ての建物が3~4軒(あるいはもっと)まとめて消えることもしばしばです。

建物が消えたとき、当たり前の風景が変わったことにはじめて気づきます。しかし、そこにどんな建物があったか思い出せないことに驚きます。私たちの記憶にない街並みをGoogleストリートビューで確認する不思議な時代になっています。

筆者は古い建物のうち「看板建築」という建築様式の建物のコレクターで、見かけるたび写真を撮っています。(こんなサイトで不定期連載もしています。)

撮影時の基本的考えは「一期一会」です。次に同じ道を通ったとき、もう二度と出会えないかもしれない、と思いながらiPhoneのカメラを起動します。

今回紹介するコミックは「建物の記憶」がテーマとなった一冊「マホロミ」です。



○建物が消えるとき、そこに暮らした人の記憶が見える

主人公は建築系の学科に進学したとき、自分の祖父が高名な建築家であったことを知ります。生前ほとんど縁がなかった祖父の旧居に暮らしながら、祖父と自分が比較されることに違和感を感じています。

ところがある日、取り壊し間近の建物に触れたとき、そこにかつて暮らしていた人の記憶が映像として見えるようになります。同じ能力をもつ少女にたまたま現場で出会ったところ、彼女は祖父にゆかりのある女性であったと知るところからストーリーは動き始めます。

主人公は少女とともに、建物の「心残り」のような記憶を何か解決してあげられないかと行動していきます。それは建物の心残りでありつつ、そこに住んでいた人々の心残りでもあります。

建物が消えるとき、もし主人公のような手助けがなければ、建物の存在していた記憶だけではなく、そこに暮らしていた人々の記憶も消えてしまうのです。



○あなたの人生の記憶も建物と結びついている

あなたももしかしたら、昔住んでいた部屋、昔つきあっていた相手が住んでいた部屋(今はもうそこにはいない)を偶然訪ねたことがあるかもしれません。

たまたま仕事で近くに寄ったのでふと足を向けてみたら、そこには別の人が住んでいる空気があったり(玄関前に置かれた傘やベランダの荷物が違っていたり)、すでに住んでいた建物はなく新しいマンションが建っていたりするときのショックというのはなんともいえないものです。私たちの人生の記憶もまた、建物と結びついているのです。



さて、コミック「マホロミ」は、建物と記憶の関係を軸に4巻まで展開、完結しています。建物好きには「あー、あの建物を題材にしているな」と思い当たる節もあったりして楽しめますし、建築初心者にとっては、建物を味わうおもしろさを知る一歩目にもちょうどいいと思います。

コミックの作者は冬目景は「イエスタデイをうたって」「羊のうた」で有名ですが、短編集にも味わい深い作品が多く、落ち着いた気分でじっくり読み込むコミックを探している人にはオススメしたい作家のひとりです。

「実は未読だったんだよね…」という人にも「マホロミ」からエントリーしてみてはどうでしょうか。

この記事を気にいったらいいね!しよう

ROOMIE(ルーミー)の最新情報をお届けします。

あわせて読みたい

powered by cxense