閑静な住宅街が広がる世田谷区用賀。用賀駅近くの昔ながらの商店街にふと姿を現すのが、スペシャルティコーヒーを提供する「WOODBERRY COFFEE ROASTERS」です。
2012年にカフェスタイルの1号店をオープン。2015年3月には同じく用賀駅近くに、スタンド形式の2号店をオープンしました。
近年のコーヒーブームで数多く生まれたスペシャルティコーヒーのカフェ・スタンド。そのどのお店とも違う、まるで地元に帰ってきたような居心地の良さがWOODBERRY COFFEE ROASTERSにはありました。
店主は木原武蔵さん。お店をスタートしたのは、21歳の時です。食の専門学校に通うわけでもなく、カフェで働いた経験も半年ほど。バリスタとして数年間修行してからの独立というオーソドックスな道とは、まったく違う道を歩んできた木原さん。
高校卒業後はアメリカに留学し、コンサルティング業に就くことを目指していたといいます。そこからカフェをオープンするまでにいったいどんな出来事があったのでしょうか。学生時代にまで遡り、コーヒーとの出会いから、お店のオープン、これからの展望を聞いてみました。
ー昔からコーヒーには馴染みがあったんですか?
そうですね。昔から家で両親がコーヒーを淹れていました。高校生のときは、日常的にコーヒーを飲んでいましたね。通学の満員電車がすごいイヤで。ラッシュアワーより1時間くらい前に行って、スタバでバナナを食べて、コーヒーを飲みながら勉強していました。
ーそのときに、コーヒー屋をやりたいとはおもっていなかったんですか?
いや、ぜんぜん(笑)。おしゃれなスタバでコーヒーを飲んだり、勉強することがかっこいいと思っていました。
自分でコーヒーを淹れるようになったのは、高校を卒業してアメリカに留学したあたりからですね。近所にコーヒースタンドがあったんですけど、そこのコーヒーがすごいまずかったんですよ。なんでそんなに下手くそなのって(笑)。バリスタによってこんなに味が変わるんだと知って、興味を持ち始めました。そこから、エスプレッソマシンを買ったり、コーヒーグッズを集めて、家で友達に振る舞うようになりました。
ーそれが仕事になったのは、どういうきっかけがあったんですか?
大学3年生のときに父親が体調を崩して、日本に帰ってくることになりました。昼間は病院にお見舞いに行って、夜の面会時間が終わった後は暇だったので、バイトをしようと思って。そのときに友達のツテで下北沢のカフェでアルバイトをはじめました。
半年間はカフェで働いて、それからですね。日本にいるのか、アメリカに戻るのか、どうしようかなと。父親のこともあるので、一人でアメリカに行くのは憚られる。それで、用賀にずっといられることがしたい、っていうのがきっかけですね。
ー一人でお店をだすのは大変じゃなかったですか?
意外と簡単ですよ。カフェにいたときに店舗の立ち上げを2回経験して、開店までの流れはわかっていたので。内装は、高校時代の友達のお父さんに設計してもらって、DIYで作りました。
ー開業となるとお金がかかると思うんですけど、それはバイト時代に貯めて?
いえ、すごい借りました。世田谷区の創業支援資金という利子がすごい安いのです。お勉強は得意なので、事業計画書だけは立派なものを作って、お願いしますって。
ー21才で借金するプレッシャーはかなりのものですよね。
いやー、そんなことはないですね。車買ったと思えば(笑)。
ーでは立ち上げのときは、あまり苦労をしなかったと。
全然です(笑)。すんなり。それよりもコーヒーのクオリティのほうが心配でしたね。
ーコーヒーのクオリティの面でいうと、バリスタの専門学校もありますが、オープン前に通うという考えはなかったんですか?
当時はまったくなかったですね。働いていたカフェのオーナーがハチャメチャな人だったんです。お金がないのに世界一周したり。洋服買って、売って、それで生活して。その人の影響はありますね。真っ当な順序を踏んで、カフェを出さなくてもいいんじゃないかと。
ー学校に通わずにお店を出す、そんな人は珍しそうですね。
いまブームなので、思いつきで始める人もある程度いるんじゃないですかね。でも大体みんな学校に行ってからお店に入ります。すごい厳しいので、辞めていく人が多いですけど。エスプレッソマシンを触れるようになるまで、一年くらいかかりますから。
そこで生き残っていった人は、クオリティやサービスをきちんと管理できる。そういう意味では、通っていないことへのコンプレックスは若干あります。
ーそのコンプレックスにはどう向き合って、納得させていますか?
どうやったら納得するんですかね…。一生納得しないと思います。だから頑張れる。原動力にはなってますね。
ー今年4月に2店舗目をオープンしたわけですが、こちらはどのように作っていったんですか?
1店舗目と同じく、全部DIYです。設計図はお店の常連の大工さんに描いてもらって、その人と2人がかりで作りました。
ーなぜDIYで作ろうと思ったんですか?
お金がないのが、まずひとつですね。あとオープン当初から来てくださっている常連の大工さんと、ずっと2店舗目の話をしてきたので、イメージを共有できていたというか。打ち合わせ期間が2、3年間分ですから(笑)。あとは、電気屋さんも、内装の発注先もお客さんです。お客さんとお店を作り上げてきました。
ーオープンしてから、お店をどうやって広めていったんですか?
バリスタ同士のつながりが結構強いんです。最初の方は他のお店に勉強しにいって、挨拶させていただいて、こういうお店やってます、みたいな感じで。それからお客さんを紹介し会ったり、いろいろと情報交換をして広げていきました。
ー2店舗目をオープンさせたばかりですが、今後どのような展開を考えているか教えてください
卸を増やすなり、店を増やすなり、豆をもっとみんなに知ってもらいたいですね。やっぱり、農家から継続的に豆を買うことが、一番コーヒーをよくすることだと思うんです。おいしい豆を適正な価格で買って、それをちゃんとした価格で飲んでもらう。それを続けられるといいですね。
あとは栽培方法にまで関わっていきたいです。たとえば土はこっちのほうがいいとか、品種の入れ替えとか、そういう面でも協力していけたらなって思います。
何かを始めようとするとき、しっかりと手順を踏んで進まなければならない。そこから外れてはいけない。そんな心の壁が存在します。でも、木原さんの言葉からは、その壁をまったく感じません。
「海外行って帰って来ちゃった人は、何かがおかしくなっちゃってるっていうか」
そう自分を表現した木原さん。
どこかひょうひょうとしながらも、常に先の展開を考え実行していく姿。常連のお客さんとお店を作り上げてきたという話は、そんな彼の魅力から生まれたものなのだとおもいます。
そしてその魅力こそが、WOODBERRY COFFEE ROASTERSで感じる心地よさの秘密でした。
住所:東京都世田谷区玉川台2-22-17-1F
最寄駅:東急田園都市線用賀駅南口より徒歩一分
営業時間:9:00 ~ 19:00
定休日:不定休
TEL:03-6447-9218
住所:東京都世田谷区用賀4-11-2-1F
最寄駅:東急田園都市線用賀駅北口より徒歩一分
営業時間:8:00~19:00
定休日 : 不定休
Photographed by Kenta Terunuma