ここ数年、パンケーキブームが続いています。
テレビや雑誌で取り上げられたお店に出かけると、長蛇の列で、あきらめて帰った経験はありませんか?
流行りのパンケーキも気になるけれど、古くから続く、むかし懐かしいホットケーキも好き…。
そんな人に、ぜひ訪れてほしい喫茶店をご紹介します。
創業50年を迎えた「喫茶ニット」は、 錦糸町駅から徒歩約3分ほどの場所にあります。
昔ながらのショーウィンドウには、ホットケーキやナポリタン、パフェのサンプルが並んでいます。
お店の扉を開けると、レトロな革張りのソファー席がズラリ。
広々とした空間が広がっています。
喫茶ニットは、かつてはニット工場として、紳士物と女性物のセーターを製造していました。
しかし、時の流れとともにアジアからの輸入が増え、売上は徐々に減少。
思い切ってと工場をたたんでスタートさせたのが、喫茶ニットでした。
「せめて名前だけでも残しておきたくて「ニット」という店名にしたんですよ」
と語るのはママの小澤民枝さん。
ニット屋だったときの面影は、男性スタッフの制服にも残っています。
40年以上勤務するチーフの高場さん
白いシャツに蝶ネクタイ、そしてお店に映えるワイン色のニットベスト。店名にピッタリな制服が、皆さんお似合いです。
調理場を支えるチーフの高場さんと石丸さんは、40年ほどお店に勤める家族同然の存在。ニットの豊富なメニューを華麗に作り上げていきます。
早速、看板メニューのホットケーキを注文してみました。
銅板に生地を丁寧に流し込み、20分ほどじっくりと焼き上げます。
ひっくり返してみると、きれいに焼き色がついてふっくらと膨らんでいます。
お皿に盛り付けて登場したのは、厚さ2cmほどの堂々たるホットケーキ!
ふんわり甘い香りがただよいます。ちょこんと乗ったバターにはつまようじがプスリと刺さっています。
トロ~リバターが溶けはじめたふかふかの生地にシロップをたっぷりかけて、まずはひとくち。
外側はパリッと、中はふんわりモッチリ。食べるたびに懐かしい甘い香りに包まれます。
むかし、家で作ってもらったホットケーキを思い出す味わい。でも自分では再現できないような、極上の食感です。
分厚い生地が2枚も重なっていて、「こんなに食べられるかなぁ」なんて思ったのは一瞬。ひとりでペロリと食べちゃいました。
喫茶ニットのホットケーキのおいしさ。
そのヒミツを小澤さんに質問してみると、微笑みながら一言。
「特別なこだわりはないの」
こんなにおいしいのにヒミツがないなんて…と思い、店内をじっくり観察してみました。
メニューを見ると、焼き肉にやきそば、かにぞうすいまであって、喫茶店とは思えぬメニューの多さ。
昔からメニューが豊富だったのかお聞きしてみると、50年前のオープン当時のメニューは、コーヒー、紅茶、ミルクに昆布茶、プリンとサンドイッチのみだったとのこと。
「もっとごはんものを増やしてほしい」という要望に応えて、ナポリタンやピラフ、そして看板メニューのホットケーキが誕生しました。
かにぞうすいも、お店の近くに大きな病院ができたから…と増やしたメニューだそうです。
常にお客様のことを考え、要望に応える姿勢があるからこそ、地域の方からずっと愛され続けているんですね。
ひとりひとりのお客様に丁寧に接する小澤さん。
常連とおっしゃるおばあさまとは、じっくり語らっていました。
現在は、娘さんの早苗さん、お孫さんの雅昭さんと一緒にお店を運営しています。
母から娘、そして孫へと受け継がれていくお客様想いの喫茶店。
作り方にヒミツはなくても、お客様のために心を込めて作っているからこそ、きっと変わらぬ懐かしいおいしさが詰まっているのだと思います。
そこに行けば、いつだって、懐かしい風景とおいしいものに出会える。
喫茶ニットは、そんな風に思えるお気に入りの喫茶店です。
住所:東京都墨田区江東橋4丁目26−12
営業時間:8:00~20:00
定休日:指定の日曜日
photographed by Satomi Kawashima