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こんにちは、フォトグラファーの柳原久子です。野菜のできるようす、作る人の想いを伝える連載第2回目。訪れたのは茨城県土浦市にある久松農園です。大企業を飛びだし、15年ほどまえにいちから農園をはじめた代表の久松達央さんは、農業を目指す若者にとってはカリスマ的存在。新刊『小さくて強い農業をつくる』など書籍、講演も人気です。若者があこがれる新しい農家って? 冬野菜の収穫真っ最中の畑におじゃましました。

141225nouka_02.JPG朝7時30分、ようやく空が明るくなってきたころ農場長の伏見友季さんを中心に農場スタッフが集まりミーティング、今日の作業の確認です。前日夜までにきた発注をまとめた収穫指示書をもとにスタッフの収穫分担が決められます。

141225nouka_03.JPG農園の広さは全部で4ヘクタール。東京ドームよりちょっと少ないくらいの広さ。ここで年間120品種以上の野菜が育てられ、都内の有名レストランや個人宅へ届けられる。

伏見さんの車に同乗しさっそく畑へ収穫に。「今から『ファミマ』へ行きます」えっ、「ファミマ」ですか?「うちでは畑が15か所に点在しているのでそれぞれの畑に名前がついていて」。なるほど、10分ほどで着いた「ファミマ」は朝霧のなか、ファミリーマートのとなりに広がるキャベツ畑でした。

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専用の包丁でひとつずつ切りながら収穫です。おや、なんだかおもしろい葉っぱが。
「ゴズィラーナっていいます。黒キャベツの一種です」。へえー、ゴツゴツしててゴジラっぽい葉ですね。レストランのシェフに喜ばれそうです。

141225nouka_06.JPGレタス、キャベツなど、それぞれの野菜の注文数を確認しながらてきぱきとコンテナへ詰めあっというまに作業終了です。

141225nouka_07.JPG141225nouka_08.JPG「さてと、他のスタッフの畑に手伝いにいきますよ」。次に向かった畑では昨年秋に仲間入りした藤巻晃さんがカリフラワーの収穫をしています。「9時からミーティングがあるから急がないと」。伏見さん、小さな体で広い畑を機敏に動き回り藤巻さんのフォローをはじめました。

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収穫したての野菜は明日にはレストランのキッチンへ。鮮度のよさも久松農園野菜の魅力。

出荷場へ戻るとぞくぞくと野菜とスタッフが集まってきました。時刻はピッタリ9時、穫れたてのピカピカ野菜の横で伏見さんを中心に全体ミーティングが始まります。

141225nouka_11.JPG「ダイコンは状態どうですか?」「今のところ状態いいですがナメクジが発生してきて…」野菜の生育の確認、どのくらいのサイズで収穫するか、虫の発生状況、新しく扱う野菜をどのように収穫、梱包するか。農場スタッフと出荷スタッフで情報を共有しこまかいところまでみんなで話し合いルールを決めていく、大事な場です。スタッフの目は真剣、こまかくメモをとっていきます。

141225nouka_12.JPG「天候が悪いですが今日もよろしくお願いします」。ミーティングが終わると出荷スタッフはすぐに出荷の準備にとりかかります。あいにくの雨、野菜も泥で汚れてしまいました。まずは野菜をひとつずつふきはじめ、袋つめをしていきます。

141225nouka_13.JPG「カブでもサイズのそろったカブが入っていたほうが料理しやすいでしょ」。野菜の成長はいろいろ、日々変化していきます。規格にあてあめられないものだけれどなるべく調理する人が使いやすいようにと、細かい気配りが行き届き、作業をすすめる、見ているこちらも気持ちがよくなります。

141225nouka_14.JPG「この時期のネギは煮込むとほんっとに美味しいのよ」と、ネギの皮をていねいにむきながら話してくれるのはスタッフ歴8年になる、えいこさんです。
「野菜をキレイにしすぎちゃダメなの。キレイにしすぎちゃうとなんか違うのよね」。むき終わったネギは根っこのほうにわずかに土が。これだったら都会のマンションのキッチンもあまり汚れなさそうです。

141225nouka_16.JPG「泥をぜんぶ落とすとスーパーの棚の野菜みたいになっちゃう。どれくらいがいいのかって言葉では言えない。これくらいかなーどうかなーって」。ベテランさんでも迷うんですか?「出荷するたびにこれでよかったかな、って。単純作業じゃないから頭を使うのよ。創造する余地があるっていうのかな、野菜で迷うのよ。でもそこが楽しいの」。同じ野菜でも収穫の始め頃と終わり頃ではサイズも味も変わります。野菜の成長を間近で感じる瞬間です。

141225nouka_17.JPG楽しいから仕事も続いてるんですね。「うふふ、もう何年働いているか忘れちゃったくらいにね(笑)」。じゃあえいこさんがいないとみんな困っちゃいますね。「そうじゃないの。いつやめても誰にでもそのまま任せられるようにしないといけないの、それが目標」。そうでした、ひとりが抜けて困るようではチームでの仕事は続けられないもの、つねに農園全体のことを考えて仕事をする、プロ意識の高い農園です。

141225nouka_18.JPGしばらくすると代表の久松さんがあらわれました。そういえば畑にもミーティングにも参加してませんでしたね。
「すべては農場長伏見にまかせているので。僕は事務作業やお客さんとスカイプしたりでほとんど畑には出ません」。農園って家族そろってみんなで作業、と思ってましたが違うんですね。

「家族経営ってその家族ごとでしかできないでしょ。ノウハウはすべて親父さんの頭の中。ワザは見て覚えるしかなかった。ウチでは農業をやりたい若者にプロとして働いてもらうために過去の情報はすべてデータ化、情報はクラウドで共有、いつでも予習・復習できるようにしています。道具も達人にならないと使えない鍬より初心者でも使いやすい機械に頼ります」。
会社員だった久松さん、新しい農業のかたちをつくり、実践しています。お話をうかがっている事務所もスッキリ、まるでデザイン事務所のようです。

141225nouka_19.JPG「最初は有機が好き、とかビニールハウスは使いたくない、無農薬で、ってばくぜんとしたあこがれで始めました。けどそれだけじゃ先には続かない。7人のスタッフが食っていくためにはビジネスとして成立しないといけない」。だからすみずみまで情報共有、役割分担、効率化が進んでいて会社のようなピンっとした空気があったんですね。
「でもね、根本は大切にしています。有機が好きっていう根本。言葉にできない情熱。そこがないと」。

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畑の片すみでダイコンを干す。手作りのタクアン漬けは人気商品。

情熱は野菜にあらわれます。つねにみんなで話し合いをして「久松農園らしい」かどうか、を共有するそうです。

そういえばえいこさん、いつも「野菜で迷うっていってました。「ルールを決めてもいつもその通りにはいかないものよ」って。
「僕はそういう言葉にできないことが重要と思っていて。ルールは決めるけどピタっとおさまるわけじゃない。いいのかな、って悩む自由度こそ大事に」。野菜づくりはモノづくり、だから野菜に個性が出ておもしろいんですね。

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「届けたダンボールを開けたときに『うわー』ってなるような。僕たちにとって良い顔してる野菜がお客さんにも良い顔で届くことがゴールです」。
農園スタッフみんながルールを大事にしながらも言葉にならない想いを共有し、ゴールを目指す。プロフェッショナル集団の農園でした。

取材を終えて 収穫したての野菜をわけていただき車へ積みこみ帰路へ。トランクを開けた瞬間、アブラナ科の野菜の放つピリリっとした香りがいきおいよく飛び出し、露地で育つ野菜の力強さを感じました。

カーボロネロのミネストローネのレシピ

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料理教室の先生をしていたという伏見さんに、この時期おすすめのレシピを教えてもらいました。野菜から出るうまみとだしに、濃厚なトマトジュースを加えた簡単あったかスープです。「冬のミネストローネセット」は伏見さんのイチオシです。

◆材料
カーボロネロ、ジャガイモ、ニンジン、カブ、タマネギ、ブロッコリー、にんにく、ベーコン、塩、こしょう、オリーブオイル、久松農園トマトジュース

◆作り方 
1.カーボロネロは細切りに、そのほかの野菜、ベーコンは食感が残るように大きくさいの目に切る。
2.鍋を用意し、つぶしたにんにくをオリーブオイルでいため、香りがでてきたら1.に塩をひとつまみ加えじっくりといためる。
3.野菜がしんなりとしてきたら火を弱めさらに塩をひとつまみ足し、野菜の水分を引き出すためにフタをして、しばらくおく。
4.全体が煮えてきたらトマトジュースを入れ、塩、こしょうで味をととのえる。

[久松農園]

撮影・文/柳原久子

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