3月×日@(木)曇り
その日もボクは朝一のルーミー編集部でチョーザエモン先輩の机を拭いていた。カメラ好きでお菓子好きなチョーザエモン先輩の机は汚い。
毎朝食べかすをキレイに片付けるのが、ボクの日課だ。もちろん先輩方の机を、心を込めて丁寧に拭く。植木に水をあげたら朝の準備は完了だ。
毎日大量に届くメール、そして送られてきたDMや招待状などの封筒を、諸先輩方が必要なものだけを読めるよう、最初に仕分けるのがボクの主立った仕事である。今日もいつもと変わらず郵便物の仕分けをしていたところ、見慣れない暗号のようなタイトルが付いた案内状に目を奪われた。
「ダイワハウス:xevoΣ」
xevo∑…? はて? 何かの暗号だろうか? 入社当初から郵便物の処理を任され、いまや先輩方より郵便仕分けエグゼクティブと呼ばれるほどのボクでさえ、これまでみたことがない文字だ。
気になる、気になるぞ。宛先はチョーザエモン先輩。チョーザエモン先輩のすべての仕事を引き継いでいるボクは迷わずその封書を空けてみた。
五線譜に書かれた音符と「かべとはしらをとりはらえ」の歌詞。とりあえず歌ってはみたものの何がなんだか分からない。すぐにyah@@知恵袋に聞いてみた。発言@町にも聞いてみた。強者たちからの返事は皆無だった。
その謎を解明すべく、一大決心をしたボクは編集部の予定表に“直帰”と書いて編集部を出た。
3月×日(金)晴れ
チョーザエモン先輩に送られてきた案内状は「“ドレミファソラシド”が“あかさたなはまやらわ”を表していて、現れた言葉から“壁”と“柱”という文字を抜く」ということ。昨日一日でそこまでは分かった。今のボクにはまったく関係のなさそうなダイレクトメールの暗号が示した言葉…。
あの暗号はなんだろう? ただのDMだったのか? いやそんなことはないはずだ。
案内状の内容を思い出してみる。「ダイワハウス:xevo∑」…ダイワハウス、たしか郊外に住宅展示場があったはずだ。考える間もなく、足早に住宅展示場へ向かった。
展示場に着くと、
どこまでも心地よく、いつまでも安らかに、過ごせそうな一軒の住宅が気になった。ボクは3畳一間の借家住まいで家にはトンと疎い。ルーミーにアップされるインテリア系の記事を読みながら、将来はこんなところに住みたいな、そんなことを妄想するオシャレなシティボーイなのだ。なぜこの家に入ることになったのだろうか。
計算され尽くした動線で動きやすい洗面。
家族全員の衣類がまるまる入るウォークインクローゼット。タンスなんていらないね。
あれ……いや、何かおかしい。少ないながらも整った調度品、明るい日差し、いわゆる展示場のキレイな住宅には違いない。広さはルーミー編集部のオフィスと同じくらい、しかし何かがおかしいのだ。