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クリエイターのお仕事と暮らしを通じて見えてくる「快適な暮らしのヒント」を紹介するシリーズ「お仕事と暮らし探訪」。第2回目のインタビューは、東京渋谷区代官山にあるヘアサロン8 1/2(エイトアンドハーフ)アトリエ店の店長である小松伸満さんへ、お仕事と暮らし方についてお話を伺いました。


■高校時代のファッションとの出会い。初めての美容師さんがとても格好良く見えた。

大滝:まず、小松さんが美容師を目指したきっかけを教えていただけますか。

小松:もともと中学時代は、絵を描くことが好きだったこともあり、グラフィックデザイナーや建築家に憧れていたんです。そういった職業を見据えて進学もしましたが、高校に入ると、それまで身近に触れることのなかったファッションとの出会いがあって、地元の美容室に通うようになりました。そこで美容師という職業を知ることになります。





担当の美容師さんのテキパキと働く姿が格好良い上に、経験したことがなかった格好良い髪型にカットしてもらって、「ハサミ1つでここまで人の心を動かせる職業」を目の当たりにして心が躍りテンションが上がりました。目の前のお客さまと一対一で髪を切り、そのお客さまが笑顔で「ありがとう」と言って帰っていく様子を見て。これだ! って思いました。

大滝:今回、小松さんにインタビューのお願いをするにあたって考えたことがありました。感覚的な印象なのですが、美容師のお仕事は他のクリエイターの仕事とは少し違った印象を受けます。単純にクリエーティブな面だけでなく、サービス業の側面もあるからなのでしょうか。そこを踏まえて、美容師の仕事へのこだわりについて教えていただけますか。

小松:僕が一貫して持っているこだわりは「来店されたお客さまにより良くなって帰っていただくこと」だけです。お客さまが帰ってから、その恋人や友人に「格好良くなったね!」とか「可愛くなったね!」とか言わせたいんです(笑)。お客さまそれぞれに、私たち美容師に求めている要望は違います。クリエイターの部分だけで仕事をしていると、お客さまとのコミュニケーションがおろそかになってしまうし、楽しい会話ばかりでも髪型がバシッと決まらなければ、お客さまは離れてしまいます。

クリエイターの部分とサービス業の部分のバランス感覚が一番大切で、僕のカットでお客さまがより良くなって笑顔で帰られるとき、そんなときは、僕も笑顔になってしまいます。それがサロンワークの楽しさだと思います。





■オールマイティーにこなす能力が欲しい。すべてを知っていたい。
誰がどんな状態で訪れても、より良くなって帰っていただきたい。

大滝:小松さんのお人柄というかコミュニケーション力の高さは、元来持っていた部分なのだと感じました。先ほどの話にありました、美容師のお仕事で重要な「クリエーティブの部分」で大切にされていることを教えていただけますか。

小松:常に心掛けているのは、引き出しを多く持つことです。より多くの引き出しを持たずに、常に提案を行うことはできません。100の髪型を見たことがある人と1000の髪型を見たことがある人では、頭の中のイメージ数で、提案の幅が圧倒的に1000の髪型を見たことがある方が、引き出しをたくさん持てると考えています。

だから休みの日には、必ず街に出て街中の人の髪型を見ます。すれ違った人に対して、店で行うようにヘアチェックをしてシミュレーションを行うんです。「この人のファッションならこういう髪型を提案する」とか、「この人の髪質ならこういう髪型がいい」とか、繰り返し行います。中には、今まで僕が経験したことのない条件の方もいます。そんなときは、上司に質問をしてアドバイスをもらいます。その作業を繰り返して、クリエーションの裏付け、説得力を養うよう努めています。

先月も東京現代美術館で行われていた「特撮博物館」に行って来ました。作品を鑑賞するのはもちろんですが、そこに訪れている人々がまた魅力的なんです。やはり美術館に足を運ぶ方は、美について関心のある方が多いですから、非常に参考になる方が多くいらっしゃいます。そこでも「あのユアン・マクレガー似の金髪の外国人の坊主頭は普通の坊主頭なのか?」ってヘアチェックを行うわけです。

これはもう僕の性格なんですが、すべてを知っていたい。目の前の課題に答えられない状況が嫌なんです。だから考え、学び続ける。そして、また課題を見つけて、考える。一生考え、学び続けていると思います。



■大統領が髪を切りに来ても緊張しないよう、今でも練習をしているんです。

大滝:休日もお仕事のことを考えられていることが多いと伺いましたが、平日のプライベートタイムはどのように過ごされていますか。



小松さんのご自宅


小松:平日の帰宅は大体22時から23時の間になります。店長会議などでもっと帰宅が遅くなることもあるので、店の近くに家があることは重要です。帰宅後は、まずシャワーを浴びます。シャワーに入る前に、買ってきたビールを冷凍庫に入れておいて、キンキンに冷えたビールを究極に渇いた喉に流し込みます。今日も1日が終わったぞって感じで。これが僕のオンとオフのスイッチになっているかもしれませんね。好きなお酒を飲んで、好きな音楽を聴いて、好きな絵を描いて、平日の夜のプライベートな時間帯はできるだけ落ち着ける趣味の空間を目指しています。

大滝:本当にお忙しい毎日ですね。美容師には体力も必要ですね。

小松:はい。実際、その面で辞めていく人もいます。目的に向けての熱意、バイタリティーが無くなってしまうと続けていくのが難しくなってしまうことがあると思います。目標を持って、それに向かって一心不乱に突き進む。燃え上がるバイタリティーでアドレナリンが出続ける状況をいかに日頃から維持できるかが、大切だと思います。僕はよく大晦日に風邪をひいて正月寝込んで過ごすパターンが多かったりしますね(笑)。

大滝:休みに入ると緊張の糸が途切れてしまうのかもしれませんね。そんな小松さんの美容師という仕事のやりがいを教えていただけますか。

小松:先ほどの繰り返しになるかもしれませんが、ヘアスタイルを作って終わりでなく、お客さまと一対一のクリエーションの中で、お客さまの反響がダイレクトに返ってくるのは、この仕事の醍醐味です。雑誌の仕事や広告の仕事、いろいろな種類の仕事をさせてもらっていますが、僕はサロンワークのライブ感が大好きです!





1日10数人のカットすることがありますが、その日のお客さまがみんな納得した表情で帰られたときには格別の達成感があります(笑)。そして、お客さまが他のお客さまを紹介してくださるときが、一番うれしいですね。いい仕事をしてきた結果、ご友人やご家族を連れて来てくれるんです。その方のご家族全員の髪を切っていることもあります(笑)。

そして、ありがたいことに、成人式や結婚式など「一生に一度のスタイリングを小松さんにお願いしたい」と、ご依頼いただくこともあります。その方にとって一生に一度の瞬間に関わらるわけですから、うれしい半面とても緊張しますね。

大滝:10年以上美容師をされている小松さんでも緊張されることがあるんですか。

小松:緊張することもあります。だから、大統領や有名人が来ても緊張しないように練習やシミュレーションを重ねるんです。新しいジャンルの人が来たり、自分よりも目上の方が来ても緊張しないように盤石の体制を整えているんです。


■休日もアクティブに過ごす

大滝:さて、休日の過ごし方ですが、ゆっくり過ごしたいタイプの方もいれば、アクティブに過ごされたい方もいらっしゃると思います。日頃から何事にもトコトンこだわっている小松さんの休日の過ごし方を教えていただけますか。

小松:常にアクティブに過ごしたいタイプですね。休日も平日と同じ時間に起きて、午前中は徹底的に部屋の掃除をします。とにかく隅から隅まできれいにして、テーブルの上もピカピカに磨いて、本棚の本もビシッとそろえます。



小松さんのピストバイクとマウンテンバイク


僕の快適な部屋作りの条件の1つに、座り心地のいい椅子が1脚あることがあるんですが、部屋を掃除したあとに、その椅子にドシッと座って部屋を見渡しバランスのチェックをするんです。ものの配置・質感・色・角度、すべての面で完璧なバランスをとり、そのときのベストを構成するわけです。感性を売る仕事をしているものとしてのこだわりだと思っています。

そして洗濯も済ませたら、趣味のピストバイクを乗りに公園へ。帰ってきてシャワーを浴び、今度は街に出掛けるためのファッションに着替えて、店の後輩と洋服を見に行ったり、美術館に行ったりします。若い人からよく「休日はどのように過ごされているのか?」などの質問をもらうので、そのときに「だったら一緒に行こう!」と、自然な流れで休日には後輩と一緒に街に繰り出すようになりましたね。

大滝:後輩の方も有意義な休日を過ごされているわけですね。ぜいたくな休日です。こういった店長としてのチーム作りを兼ねた行動にも小松さんらしさが伺えます。さて、先日お引っ越しをされたそうですが、またすてきなお部屋にお引っ越しされたようですね。理想の部屋に巡り会う、お部屋探しのコツを教えていただけますか。

小松:至って普通だと思うのですが、イメージを膨らましてエリアを絞り込んで探します。そして、そのエリアにある不動産屋さんに通います。何回か通って担当の方と仲良くなり、自分がどれだけ真剣に部屋探しをしているかを伝えるんです。場合によっては、更新をしてでも見つかるまで探します。本当にこれだと思う物件に出会うまでトコトン探すので、時間がかかることもありますね。そうすると、あまり一般の目には触れない物件なんかも紹介してくれたり、不動産屋さんともずっと仲良くなって、敷金礼金や家賃の交渉が破格の条件で行えることもあるんです。


■バランス感覚のキーワードは「崩す」

大滝:先ほど、バランスについてのお話が出てきましたが、私も日頃の仕事や暮らしの中で、バランス感覚は大切だと考えています。小松さんの考えるバランス感覚についてもう少し聞かせていただけますか。

小松:バランス感覚って難しいですよね。人によって違うところも多いし。僕はサロンワークの他に講師やセミナーをしていますが、ニュアンスや感覚では伝えきれないことが多く、すべてにおいて頭の中で一度整理をして、必ず理論付けをしています。この光の角度だからこのラインとか、この輪郭だからこの長さにカットするとか。なぜなのか? に対して答えを常に探してます。そうすることで、人に伝える精度がグッと上がるし、自分の言葉に説得力を持たせることができると思うんです。



8 1/2(エイトアンドハーフ) アトリエ店


僕の考えるバランスのキーワードは「崩す」です。8 1/2(エイトアンドハーフ)の店名の由来がまさにそれで、「9」は完璧という意味があるそうで、完璧なものをちょっと崩す。そこにこそ絶妙のバランスが隠れている。「崩し」のテクニックです。例えば、インテリアならイームズのチェアを差し色で使うことで絶妙なバランスを演出しています。ピカソの絵画のように、基礎的な知識・基礎的な技術を追求し、それを踏まえた上で、ちょこっと「崩す」。その先に本当のバランスがある。そう思っています。


今回、お話を伺った小松さんはサービス精神旺盛で妥協を許さない自身への厳しさの中に最高の仕事と最適な暮らしを探求する、ユーモアあふれる笑顔のすてきな方でした。お客さまと一対一で行われるクリエーティブな仕事。ファッションの秋、あなたも今週末、すてきな髪型に挑戦してはいかがでしょうか。




取材協力:8 1/2(エイトアンドハーフ)アトリエ店

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