マイナー作家の初単行本は極力購入しているFP山崎(@yam_syun)です。

日坂水柯という作家がいます。まだそれほどコミック数はありませんが、いずれも印象に残る装丁、記憶に残るタッチ、心動かされるストーリーで、新作を買わずにおれない作家の1人です。

この2カ月で、『すきなひと』2巻(本巻で完結)『白衣のカノジョ』2巻(続巻あり)と2冊続けて日坂さんの新刊が出ましたので、まとめてレビューしてみたいと思います。

■眼鏡×太線の妙味が持ち味の作家

日坂水柯といえば、「眼鏡」「太線」だと思います。まず、強烈な印象を残すのは、筆で書いたかと思うような太いライン。他の漫画家とは大きく異なるそのタッチに驚かされます。太さの強弱、流れるようなラインがページにインパクトを与えます。

太い線で描かれるカーブにはなんともいえない色気があって、女性の裸のラインなどは太い線の強弱もあいまってなんともいえずいい雰囲気を醸し出しています。

また、「眼鏡」の女性が基本的に登場するのも大きな特徴です。メガネをかけた女の子の魅力がそうでない場合の3割増しになることはわが国ではよく知られた事実ですが、日坂水柯のマンガに登場するヒロインはほぼ100%メガネをかけているのです(最初のコミックのタイトルはずばり「レンズのむこう」です!)。

独特の太線で描かれるメガネヒロインの表情もまた、ぐっとくる感じで、一読すればほとんどの人がファンになるのではないか、と思わせます(個人的にはファンにならない人の理由が分かりません。こんなに眼鏡っ娘がかわいいのに)。

■太線がセックスと恋愛に向かい合う力となる

今回紹介する2冊について簡単に解説します。

『すきなひと』は大学時代から好きだった女性が、バツイチとなった後に再会、恋愛ではない形から肉体関係を結んだ後、「最強のすき」合う関係に結びつけられていく様が描かれます。こちらはすっきり2巻で完結です。

『白衣のカノジョ』では、学内恋愛禁止の地学教師と養護教諭が、白衣(どちらの仕事も白衣!)の取り持つ縁で深い関係に結ばれていく様子がテーマです。こちらは2巻でまだまだストーリーはこれから、という感じです。

いずれも、「セックス」が恋愛と向かい合うきっかけとなる主題であり、これは日坂水柯のコミックを通した大きなテーマです(『数学ガール』は原作つきであるため、恋愛は仄めかす程度に描かれていますが、不思議なエロティシズムが漂っていて、いくつかある『数学ガール』コミカライズの中でも異色を放っています)。

ただし、トレンディドラマ的に男女グループが登場してついたり離れたりの恋愛を描くわけでなく、「セックスと恋愛は個人的なもの」という本来普通の関係が描かれます。恋愛とはもともと個人的なものなのです。それが、太線の力もあってより濃厚に描かれる感じがあって、私が大好きなところです(なお、男女間だけでなく、「女性の同性同士のセックス」も氏のコミックの重要なテーマのひとつです)。

■あまり人に教えたくない、個人的に大好きな作家

日坂水柯は、個人的に楽しみたい作家のひとりだと思います。読書するなら、自宅でひとり静かなときに落ち着いて楽しむべきだと思います。

また、あまり人に教えたくないところもあります。なぜなら、自分の嗜好性を強くアピールすることになりそうだと感じるからです。なんとなく日坂水柯を他人に勧めることの気恥ずかしさも感じます。それは、思い入れが強いからです。

しかし、未読の人がそのままでいるにはもったいないと思います。日坂水柯のコミックは、「他に比べるものがない」という境地に達しており、男女どちらにも薦められます。きっと、目を通していただければ、誰でもファンになるのではないでしょうか。

日坂水柯、おすすめします。

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