Photo by Atsushi Horie

ファッションブランド「sise」のショー音楽や、Enharmonic TAVERNのサウンドトラック、劇団OOPARTS(鈴井貴之主宰)の舞台、映画『ソラニン』などの劇中音楽を担当した、ロックバンド・STRAIGHTENER(ストレイテナー)のホリエアツシによるソロプロジェクト「ent」の2ndアルバム『Entish』が2012年1月25日に発売されました。

約3年ぶりとなるこのアルバムは、entらしい繊細でありながらもほっと自然体でいられるような、リラックスした週末を過ごしたい時におすすめな1枚です。今回、このアルバム発売を機にroomieらしさも加えた、インタビューを行いました。

-entの2ndアルバム『Entish』、発売おめでとうございます! アルバムの話と合わせて、roomieらしく「衣食住」を中心とした話をしていければと思います。まずは「住」からですね。家と音楽との関係は密接なように思いますが、ホリエさんの場合はいかがでしょう?

ホリエ:家で音楽を作ることが多いです、何かしながら…そうですね、TVや映画を見ながら、何気ないときにアイデアが浮かんで曲になります。ソファの横にギター、シンセサイザーが机に、TVの近くにたくさんのCDがあって…と身近なところに音楽はあります。生活の一部に音楽がある、そのスタイルが気に入っているし、暮らしの中心であるリビングに集約されているのは、一番居心地の良い場所だからこそいろいろと出てくるので、常に音楽が引っ張り出せるような環境にしています。作業部屋を分けて持つ方もいますが、僕は分けてないですね…。

-あ、今いいアイデア、浮かんだ! と思ったときにないと困りますもんね…。

ホリエ:そうですね。街中で浮かんでも、店に入ったり、外からの音でかき消されてしまうこともあるので(笑)。

-ということは、やはりおうち選びは重要ですね。

ホリエ:本当に重要です、家選びはこだわります。今の家を選んだ基準は南側の窓から見える景色。植え込みが良くて、初めて物件選びで見た瞬間に決めました。目の前には大きな木が2本あって、1本は秋になると紅葉して落葉します。そのタイミングで枝を落としに植木屋さんが入るのですが、もう1本の常緑樹も丸裸にされちゃうんです。常緑樹なので枯れないのですが、住み始めて1年目のときにツアーから戻ってきて、丸裸の木を目にした時のショックは本当に…、大きかった。それでも、1年で完全に再生して葉を伸ばしている姿を見ると、生命力を感じるし、感心します。

-先日、『ソラニン』見ました! すごく音楽と映画がマッチしていていいですね、誰にでもある学生時代を思い出すような、とっても懐かしい感じがしました。

ホリエ:もともと、1stアルバム『Welcome Stranger』を三木孝浩監督が聞いて、この映画にぴったりと思ってくれたのがきっかけでオファーいただきました。映画に音楽を合わせるのは初めての経験でしたが、悩むこともなく楽しくできました。ただ、時間を合わせることに少し苦労しました。こちらとしては、もう1回ループした方が音楽の雰囲気が良くなると思っていても、そうも言えないような。あと、編集の段階で展開にかける時間配分もだいぶ変わるので。当初、2時間半くらいあったのですが。仮編集のときですら、見ながら泣いていました。

このプロジェクトには、いろいろな人がかかわっていて、監督、プロデューサーが3人、音楽全体を見ている人もいて、そこでも「僕はこう思うんです!」とはっきり言っていました。バンドではない他者と意見を交換しながら、音楽を作り上げる経験は過去になかったので、新鮮でした。監督はそれまでミュージックビデオ(MV)を作っていた方で、映画作品としてはデビュー作でした。撮り方もMVのような感覚を受ける部分もありましたね。

-特に印象的だったものの1つに、浜辺での主人公たちなど学生時代の仲間で花火を楽しむシーンがあるのですが、あの空気感や花火が空気とまじる感じなどすごくイメージ的な感じがしました。

ホリエ:イメージを効果的に作るんですよね、彼の作るMVは、ドラマ仕立てのようなものや、実際の風景の中にアーティストがいたりする感じで。自分たちのバンドで作らないし、撮っていないものなのでうらやましいというか(笑)。
われわれは、シュールなものや、少し目線を変えたものが多く、素直で「キュン」とくるようなものは作ってないので。ただ、MVを飛び越えて映画音楽をお手伝いさせてもらえたのは、めったにない経験なので、ありがたかったです。

-この前、TV番組でentの曲が使われていて耳にしたのですが、ドキュメンタリー番組などでご自身の音楽を使われることも多々あるかと思います。事前通知なしで使われるとびっくりしませんか?

ホリエ:登山家・栗城史多さんのドキュメンタリーの番組(テレビ東京)で使われたのは、もともとプロデューサーがストレイテナーを好きで使ってくれたのがきっかけなんです。それで前回は『Entish』の曲を使っていただきました。

-自分の作ったものが自分の手を離れて独り歩きしてくのって面白いですよね。

ホリエ:自分で作ったものを聴いた人が、「その曲に入っていく感情」と「自分自身が込めた思い」は違うけど、そうあってほしいというか。我がないので、自分の音楽を聴いても、タイミングによって違う感覚で聞けたりもするから、面白いですね。

-確かに。次のテーマは「衣」。多岐にわたる活動の中で、ファッションブランドにも音楽を提供されています。ブランドのショー音楽やシーズンテーマ曲の制作だと思いますが、ブランド設立以来、サウンドトラックを手掛けている「Enharmonic TAVERN」とのかかわり方を教えてください。

ホリエ:「Enharmonic TAVERN」は、ファッションや音楽というジャンルの異なるクリエイターが集まってカルチャーを発信するブランドです。立ち上げから、オリジナルの音楽と洋服が共存しているなかなかないブランドだと思います。僕はミュージシャンの立場から俯瞰的に見て、音楽とファッションの関係って、例えば、ロックの歴史の中にはスターが数多くいて、そのスターたちのスタイルがファッションになることはよくあります。ただ、そのアーティストが持つイメージやメッセージまでもファッションとして着ることに抵抗があるときもあります。僕は、そのあり方を模索していて、ブランドの世界観やシーズンテーマに寄り添ったオリジナルの楽曲を、サウンドトラック的に作りたいと考えています。コレクションのコンセプトやモチーフとなる時代背景からインスピレーションを得てリスペクトしながらも、必ずしもクラシックではない、僕の視点とブランドらしさを意識した音作りを行っています。

-なるほど。芯はありながらも柔軟に活動されているホリエさんらしい考えですね。それでは、最後に「食」です。普段、お料理はされますか?

ホリエ:キッチンや調理用品はありますがめったに料理はしないですね。とはいえ健康のために食べる物は選んでいます。オーガニックなものとか、身体に良いものを選ぶようにはしています。料理という料理はしませんが、ビールのつまみにささみとブロッコリーをゆでてオリーブオイルと岩塩で食べるとか。やれば楽しいと思いますが、間に合わせる感じでつくるくらいならしないですね。

-なるほど。では、ホームパーティーなどはしないですか?

ホリエ:しないですね…。しても宅飲みとか?

-そうですか。少し残念ですね…(笑)。「Entish」は耳あたりがいいので、すごく周りの環境と合う感じがいいのでホームパーティーになどに合うと思いますね。あとは、リラックスできる夜や週末などパーソナルな時間で流すことが多いんじゃないでしょうか。音の居心地がよいので、これは、ホリエさんの音作りと関係している部分かもしれないですね。「Water Screen」は水のゆらぎをとても感じるのでリラックス効果が高いんじゃないかと…。「Air walker」は、ウオーキングやヨガなどワークアウトにいいな、とか。「At The End Of The Blue Sky」は気持ちがゆったりするので寝る前に聞くのにおすすめとか。まさにroomieを読んでくださっている方におすすめなCDですね。

ホリエ:例えば、「Water Screen」は、朝、ドライブをしていて、静寂な風景の中ですごくやわらかい雨が降っていて、車を止めてみるとフロントガラスにその雨が流れている様や、車を止めて、窓から橋の上から川を見ていたり、窓ガラスから手を出して腕がぬれていくような様を歌詞に書いています。

-なるほど。曲を聴いていると、梅雨前の五月雨の新芽が出てくる時の植物が伸びゆく様を感じます。音楽を作る際に心がけていることはありますか?

ホリエ:そうですね、色んなスタイルを取り入れたい性分で、これはファッションや音楽でもそうですし、音楽以外の映画のキャラクター、作っている人、ファッションのクリエイターにも影響を受けることは多々あります。ただ、そうであっても自分の軸を持って音楽に真摯に向き合っていたいし、「これがはやっている」「これだと評価される」といった姿勢では絶対作らないです。自分が欲しくないものは作りたくないし、好きなものしか作りたくないです。わがままなことかもしれないけど、そこはブレずに大事にしています。

-それは大変かもしれないけど、私たちにおいても何か1つのことを続けていく中でも共通している部分はあると思います。ブレない心を持つことは、とても大事なことですよね。長い間、ありがとうございました。せっかくなので、これから、不定期でホリエさんによるroomieのために音楽紹介をいただけますか?

ホリエ:いいですよ!

-ご快諾、ありがとうございます!これからが楽しみですね、生まれたばかりのroomieをよろしくお願いいたします!

■プロフィール
ent(ホリエアツシ)
「ent」はロックバンド・STRAIGHTENER(ストレイテナー)のVocal,Guitar,Keyboard・ホリエアツシのソロプロジェクト。エレクトロの精巧さと生のギターやピアノサウンドのぬくもりを兼ね備えたトラックに、パーソナルでセンチメンタルな歌が折り重なる、オルタナティブポップサウンドを鳴らす。2009年2月、日本のエレクトロニカ/ポストロック・レーベルPrecoより1stアルバム『Welcome Stranger』をリリース。翌年には、海外アーティスト等によるリミックスを追加収録した同作のUS盤をアメリカのエレクトロニカ・レーベルn5MDよりリリース。2010年には映画『ソラニン』の劇中音楽を担当し、『ソラニン サウンドトラック feat.ent』をリリース。また、ファッションブランドSise、Enharmonic TAVERNのショー音楽、劇団OOPARTS(鈴井貴之主宰)の舞台「CUT」のテーマソングを書き下ろすなど、さまざまなフィールドで活躍している。

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